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業種・地域から探す
時代変化に適合してきた歴史
第二創業で企業継続に成功
事業の再構築
南大阪地域には、業績が堅調で50年以上事業を続けているような中堅クラスの製造業が数多く立地する。その多くがファミリービジネスであるが、創業者から代を変わるタイミングを経験し、特定納入先依存からの脱却や新規分野への進出などポートフォリオを意識した経営に進化している。盤石な経営基盤を元に、将来を見据えた新規事業への参入、いわゆる「第二創業」も盛んに行われて、その時々で適切な事業再構築に踏みだし、企業の継続に成功している。
堺商工会議所の会頭を務めるダイネツ・葛村和正会長も、第二創業経験者だ。江戸時代の鍛冶炭卸問屋に源流がある同社は戦後、長尺・大物の熱処理加工を手がけた。葛村会長は顧客要望に対応するために商社を設立。機械加工にも事業領域を広げて軌道に乗せた。
家電向けの樹脂成形メーカーが、自社企画の家庭用高付加価値食器製造に進出。金属部品加工メーカーが、工夫と高難度の技術、人的ネットワークを活用した挑戦を訴求して試作に対応。このような例は枚挙にいとまがない。地域の町工場が協力して、市民との交流を創出する工場開放イベント「地域一体型オープンファクトリー」を通じて、成功例が共有されて新たな連携に発展するとともに、地域に挑戦する機運の醸成につながっている。先輩企業が後に続く企業をサポートする体制も整いつつあり、新たな産業クラスターとなる可能性を秘める。
多様性を尊重
空き店舗などを改装し、チャレンジショップやコミュニティースペースとして活用するケースも増えた。泉佐野市のシェアスペース「つむぎや」や貝塚市の民間コワーキングスペース「ポートフォリオ」など、人が集う交通結節点の駅を起点にした仕掛けが実を結びつつある。特に、イノベーション創出は「多様性の尊重」という視点が重要だ。若者や女性によるマイクロビジネスの起業を後押しする場所や仕組み。地域に眠っていた活力こそが、活性化への原動力となるに違いない。
堺市の「なかもず」 産業創出拠点に期待
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堺市は2023年10月、中百舌鳥地区にあるインキュベーション施設「S-Cube」内に「イノベーション交流拠点 コミュニティールーム茶室」を開設した
公立大と連携
堺市の「なかもず」地区は、南大阪全域を視野に入れた産業創出拠点として、今後の発展が期待されている。南海電鉄・高野線と大阪メトロ・御堂筋線が乗り入れる駅の北口広場では、市によって交流施設を建設する計画が進み、2024年度に基本設計や事業者選定を予定する。近所の大阪公立大学や市のインキュベーション施設「S―Cube」と連携する窓口の設置も視野に、イノベーション拠点としてのブランド発信を担う見通しだ。
大阪公立大学は中百舌鳥キャンパスの再整備を進めており、完成後は工学部の一大拠点となる。産学連携による全固体電池の研究など新たな共創研究拠点も計画。地域の課題解決と未来社会の創造をめざす「イノベーションアカデミー構想」を推進している。地場企業との共創はこれからだ。辰巳砂昌弘学長は先端技術開発への参画を期待するとともに、2月に東北大学と連携協定を結んだ縁を生かして「東北の企業と地元の企業を結びつけたい」と意欲をみせる。
ベンチャー支援
堺市は大学発ベンチャーへの支援を念頭にキャンパスや駅の周辺で、既設建物のオフィス改装に補助金を用意しており、24年度からは対象となる地域を広げる。23年10月にはS―Cube内に、さまざまな人が集い、社会課題解決やビジネス創出につなげる交流空間〝コミュニティールーム茶室〟も設けた。
地域間競争が避けられず
差別化が必須
創業の活性化では、地域間競争という視点も不可欠だ。なかもずが終点の御堂筋線は、大阪都心の梅田・本町・難波に直結する。地の利はあるが、都心ではできないことで差別化する必要がある。また3月には御堂筋線が乗り入れる北大阪急行線が箕面方面へ延伸。長期的に職住のバランスをとる重心が北にズレていくことも予想できる。どのような人に住んで欲しいのか、働いて欲しいのか、駅・街のマーケティングや魅力向上、ブランド訴求が欠かせない。
空港立地生かす
さらに31年春には、JR西日本と南海が乗り入れる大阪都心の新南北軸「なにわ筋線」が開業を予定する。梅田や新大阪から関西空港までの速達性が向上するが、沿線の南大阪地域は、これを素通りさせてしまう訳にはいかない。空港立地を生かした臨空地域としての新たなビジョンが求められるところだ。