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めっき技術
「ファインバブル(FB)」技術は100マイクロメートル(マイクロは100万分の1)未満の微細な気泡を扱う技術であり、平均粒径1マイクロメートルから100マイクロメートルまでの「マイクロバブル(MB)」と1マイクロメートル未満の「ウルトラファインバブル(UFB)」に大別される。前者の水は目視で牛乳の様に白色で、製造装置を停止すると数分で無色透明に戻る。後者は無色透明でUFBは数カ月残留する。FBの導入ガスは一般に空気であるが、その種類や粒径、個数濃度(密度)などにより発現効果は異なりFB技術の応用範囲は極めて広い。そこで、FBとオゾンを用いて、めっきプロセスに展開した。
ファインバブル・オゾンを用いた環境に優しい新規めっきプロセスの開発
【執筆】関東学院大学理工学部 理工学科 表面工学コース 教授 田代 雄彦
強まる環境規制に対応
一般的に金魚や熱帯魚などの水槽に入れる酸欠防止のエアーは、ミリバブルと呼ばれ非FBである。一方、FBには界面活性作用と衝撃作用があり、MBには特有のガス溶解促進作用や反応促進作用、UFBも特有のガス貯蔵作用、生理活性作用、光透過性がある(出典 https://fbia.or.jp/)。これによりFBは高速道路の壁やトイレなどの清掃、漁業・農業・医療・健康などさまざまな分野へ応用されている。
例えば、農業分野では果物や野菜に付着した大腸菌などの除去、医療分野では主に滅菌・殺菌処理、健康分野では浴槽にジェットバスのようなFBを発生させ、美肌効果や血行促進効果があると言われ、洗剤不使用による環境汚染防止のメリットもある。
しかし、工業的には半導体ウエハーの不純物除去や被めっき製品の脱脂などに適用され、清浄化以外の利用は極めて少ない。世界的に環境規制は年々厳しくなり、毒性物質や高環境負荷物質などを含有した薬品使用は廃止される方向にある。本学は半世紀以上前、世界初のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂へのめっき(プラめっき)の工業化に成功し、特許を取得せず、世界中に本技術を普及させた。
しかし、この前処理液は六価クロムが使用されており、現在、欧州の特定有害物質規制「RoHS指令」や化学物質規制「REACH規制」などにより厳しく制限される。我々はABS樹脂などに対し、酸化チタン(TiO2)光触媒および紫外線(UV)処理法、大気UV処理法、ラジカル水処理法、高濃度オゾン水処理や電解硫酸処理法など、環境配慮型の水や光を利用しためっきプロセスのエッチング法(表面粗化)を提案してきた。
これらの中で、高濃度オゾン水処理は約100ppmのオゾンを使用し、3次元立体成形品に適用可能であり、比較的短時間で密着強度の高い皮膜を得たが、高濃度オゾンのため、作業環境やオゾン発生装置のコスト面などから低濃度での適用が望まれていた。
UFBで低濃度オゾン水実現
オゾンを水中に溶解する場合、泡径が大きいと直ちに大気中に逸散するため、オゾン濃度を高くする必要があった。しかし、オゾンガスをFB化すると、水中での停滞時間が長くなり安定なオゾン供給源となる。すなわち、樹脂表面に接触する頻度が増加するので改質効果(エッチング効果)は著しく高まる。
そこで、オゾン含有のUFBをめっき前処理に応用し、UFB低濃度オゾン水による新しいABS樹脂のエッチング法を開発した。この方法は約2ppmの低濃度オゾンで環境に優しく、従来法で必須であったクロム酸エッチング液の電解再生や廃液処理、さらに、その後の回収や中和処理を全く必要としないため、大幅な工程短縮が可能である。
オゾンの酸化還元電位は2・07エレクトロンボルトであり、重クロム酸イオン(1・33エレクトロンボルト)よりも高く、強力な酸化作用を示す。そのため高濃度では猛毒であるが、オゾンは空気中で酸素に自然分解するため、この方法のように低濃度であれば安心安全である。また、粒子径分布測定から約100ナノメートル(ナノは10億分の1)のUFBが生成されることを確認している。
本UFB低濃度オゾン水処理後と現行のクロム酸エッチング処理後のABS樹脂表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図1に示す。未処理表面(図1a)に対し、標準的な70度C、10分のクロム酸エッチング処理後の表面(図1b)はサブミクロンの複雑な凹部が多数形成され、めっき金属との密着強度を確保する。
一方、室温、30分の本処理後の表面(図1c)はABS中の100ナノメートルから500ナノメートルまでのブタジエンゴム(B成分)が優先的に溶出し凹部が形成され、めっき金属と樹脂間にサブミクロンオーダーのアンカー効果(投錨効果)を発現し、さらに、透過電子顕微鏡(TEM)により観察されるその周辺のASマトリックスにも10ナノメートルから15ナノメートルまでの深さ方向の改質が見られ、ナノオーダーのアンカー効果も発現する。
したがって、素材表面を著しく粗らさずにクロム酸エッチングと同等の約1キロニュートン毎メートルの良好な密着強度を実現した。
自動車産業などで使用される各種電気めっきは、安定な成膜状態を維持するため、常時濾過を行うが、さらに数カ月ごとに活性炭処理を実施する。めっき浴槽を十数槽所持する場合は毎週活性炭処理を行う。この処理はライン停止時の休日しか作業ができないため、作業者に精神的・身体的な負担を与えている。
そこで、この処理をオゾンとMBを使用したOMB処理に代替することで、種々の問題を解消できると考えた。評価液は、添加剤過剰の半光沢電気ニッケルめっき液(トラブル液)を使用した。ハルセル試験条件は電流値2A、めっき時間5分、無撹拌であり、銅ハルセル板全面をスコッチブライトで研磨後に使用した。
その結果、図2(a)のトラブル液のハルセル外観は全面に光沢があり、格子状模様が反射している。さらに低電部(右端)の点線内に未析出が見られる。
一方、図2(b)のOMB処理後では、わずか1時間で半光沢外観に変化し、低電部の未析出も解消した。本OMB処理は、ニッケルなどの主成分に影響せず、有機添加剤成分の選択的分解に有効である。これは、電気銅めっき液の活性炭処理代替にも適用可能であり、有害物質を使用しないサステナブルケミストリーの特色ある新技術として工業的な活用が期待される。