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マシニングセンター
工程集約と自動化で生産性を向上させるMXの取り組み
【執筆】 DMG森精機 執行役員 マシニングセンタ開発担当 多賀 充
DMG森精機は2023年からマシニング・トランスフォーメーション(MX)を提唱している。MXとは工程集約、自動化によりグリーン・トランスフォーメーション(GX)を実現した上で、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を通じて生産工程を管理・分析し、それをさらに改善する仕組み。ここでは、MXを実現する当社の5軸制御横型マシニングセンター(MC)「INHシリーズ」について、その特徴と具体的な取り組み内容を紹介する。
工程集約機に必要な性能
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写真1 INH63 -
写真1 INH80
INH63とINH80のINHシリーズ(写真1)は23年にドイツ・ハノーバーで開催された欧州工作機械見本市(EMOショー)で発表した。その後、航空機、船舶、エネルギー、半導体製造装置、鉄道、自動車など、全世界のさまざまな産業に携わる顧客に導入実績がある。従来4軸の横型MCで加工していた加工対象物(ワーク)を5軸で工程集約することが主な導入目的となっている。
工程集約を実現する製品として開発する上で、特に重要視したポイントの一つに切削能力が挙げられる。これまで、横型MC(4軸機)や立型MC(3軸機)で工程を分割して行っていた加工を5軸加工機に集約するにあたり、これら従来機と同等以上の切削能力を確保することを目標とした。
工作機械は一般的に軸数が増えるほど機械剛性が低くなる傾向にある。5軸加工機で工程集約を行ったとしても、切削能力が低下し加工条件に制限が出てしまっては、工程集約を行った効果が十分に得られなくなる。
INHシリーズはゆりかご式の両持ち構造の回転2軸テーブルユニットと、直線全軸にツインボールねじを搭載する機械構造になっている。加えて、デジタルツイン技術を駆使した構造解析によるシミュレーションを繰り返し行うことにより剛性を徹底的に高め、従来機と同等以上の切削能力を実現した。
実際にINHシリーズを導入した顧客からは、5軸加工機でありながら既存の設備よりも安定して良く削れると高い評価を得ている。
また、回転・傾斜テーブルにおける大きな傾斜角度もINHシリーズの特徴の一つである。テーブル傾斜角度は240度あり、プラス側に45度、マイナス側に195度となっている。プラス側への傾斜は、パレット上に設置したワークの斜め下方向からの加工を可能とし、ワンチャッキングでの加工範囲を大きくできる。
マイナス側には180度反転できることにより、曲面形状の頂点部分で折り返すことなく加工できる。加工時に発生する切りくずを直接、機内底部へ落下させることができるため、ワーク上やパレット上面への切りくず堆積量を削減できる。
切りくずは連続稼働を妨げる大きな要因の一つとなるため、特に加工時間が長くなる工程集約機においては大きな利点となる。
連続稼働を実現する自動化システム
INHシリーズを導入した顧客の半分以上が自動化システムを装備している。工程集約と自動化で、まさにMXの実現に寄与しているといえる。自動化システムの多くは、ワークを搭載するパレットをハンドリングするシステムだが、工具のハンドリングの要求も高まってきている。
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写真2 CTSを搭載した自動化システム
当社では複数の機台でパレットを共通化して運用できるリニアパレットプールシステムだけでなく、工具についても複数台で運用できるシステムを構築した。写真2に示すセントラルツールストレージ(CTS)である。このシステムは機械上部にツールストッカーを装備し、必要な工具を必要なタイミングで必要な機台へ供給することができる。
ワークの品種が多くなると、その分必要な工具種類も増える。さらに自動化による連続稼働においては、工具の摩耗に伴う交換も必要となるため、より多くの工具を装備できることが求められる。同じワークを異なる機台で加工する場合は、さらに多くの工具が必要となる。
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写真3 AMR2000によるチップバケット搬送システム -
写真4 マガジン工具自動交換装置
このようなケースにおいて、CTSでは接続された機械間で工具の受け渡しが可能となるため、必要な工具本数を集約できるとともに、十分な本数の予備工具の装備も可能としている。
さらに、システムの自動化が進み、省人化が進むと、連続加工によって機械から排出される切りくずの処理にかかる人手も課題となってくる。当社は24年開催の日本国際工作機械見本市(JIMTOF)においてINH63とAMR2000(写真3)を接続したシステムで、チップバケットを自動交換する提案を行った。チップバケット内にたまった切りくずの量を検知し、自律移動ロボット(AMR)で空のチップバケットへと交換を行うシステムである。これにより連続稼働中の切りくず保守作業も削減が可能となる。
一方で、ワークや工具の準備作業には人が介在する必要があり、作業負荷の軽減、安全性の向上も重要な要素の一つである。INHシリーズでは、マガジン段取り部に工具自動交換装置(写真4)を標準装備している。
クレーンを用いて重量工具をマガジン段取り部にセットし、ボタン操作一つで新しい工具の挿入と交換用次工具の呼び出しを行うことができる。作業者は重い工具を持ち上げてマガジン部へ出し入れする必要がなく、安全に作業を行うことができる。
消費電力の削減
これまでに述べたように、工程集約を進めることで複数台の機械を1台に集約することができる。その結果、工程分割での生産方式に比べて機械の設備台数が削減されるとともに、工程間の中間(仕掛品)在庫、工具や治具、工場スペースも削減でき、工場全体でムダがなくクリーンな生産現場を実現できる。
さらに、工場全体のGXを促進するためには、工程集約を担う加工設備機自体の消費電力削減も重要となる。INHシリーズでは、クーラントの吐出にインバーター制御式大型ポンプとバルブ制御を新たに採用し、大流量と消費電力削減を実現した。
従来は、吐出用途ごとにクーラントポンプを複数個、クーラントタンク上に設置していたため、常に複数のポンプが最大電力で駆動する状態となっていた。これをインバーター制御の高効率大型ポンプ1個へと集約し、バルブ制御を組み合わせて必要な吐出部へ必要なタイミングで必要な量を供給することにより、従来機比57%の消費電力削減を実現している。
さらに大型ポンプはインライン式を採用することで、従来の浸漬型ポンプで課題となっていたポンプ駆動時の発熱によるクーラント温度上昇の影響も排除することができ、加工精度の安定に寄与している。
今後の展望
5軸制御横型MCのINH63とINH80の特徴をMXに関連して紹介した。今回紹介した新たな技術や取り組みは、当社MCだけではなく、複合加工機、ターニングセンターにも展開を進めている。今後も当社は工程集約、自動化、DX、GXのための技術開発に邁進し、顧客のMX実現、生産性向上に貢献していく。
