-
業種・地域から探す
九州の基盤技術
日用品から先端技術が凝縮した製品まで、あらゆるモノづくりは基盤技術が支える。例えば金型は、モノを生み出す母なる道具「マザーツール」と呼ばれ、プラスチック成形やプレス加工に欠かせない。高品質・高精度、安定した製品づくりの源流には中小企業があり、世界経済が大きく揺れ動く中にあっても重要性は変わらない。九州にも基盤技術を守り、磨いている多くの企業が存在する。
技術の強みを伸ばす
九州の金型や精密加工関連業界では、受注状況が厳しいとの声が多く聞かれる。他方、企業によっては半導体製品や自動車の将来動向を受けて好調というケースもある。期待が大きい領域が、半導体ではAI(人工知能)関連だ。自動車では大きな流れとして軽量化がある。また米国の関税政策が今後の需要にどう影響するか不透明感が強まる。そのような環境でも将来を見据え、前向きな取り組みを進める企業がある。
-
大塚精工は測定機を駆使して品質を守る
セラミックスや多様な金属を精密加工する大塚精工(福岡県志免町)は、他社で加工できなかった依頼が持ち込まれ、受注することが多い。ユーザーが求める加工精度、コスト、納期などさまざまな要望を実現する。
技術的要求に応えるために改善も続ける。治工具を自社開発して大きな効果を上げることもある。人材育成にも力を入れており、一人一人が幅広い能力を身に付ける取り組みが進行中だ。今後の受注において微細化にはさらに飛躍できる余地があるとみる。
精密金型部品メーカーのパーツ・フォアマン(同糸島市)は、九州で設備投資が活発な半導体関連のニーズに注目する。半導体に関連する試作の依頼を受けたこともある。生産能力の面では人的交流を含めた協力会社との関係強化により、人員を維持しながら生産力を増強できる体制の構築を目指す。設備投資にも積極的な姿勢を見せる。
積極的な設備投資
-
ナカヤマ精密が導入したナガセインテグレックスの平面研磨加工機
ナカヤマ精密(大阪市淀川区)は、電子部品関連での受注増に伴い設備投資を実施した。3月には、ナガセインテグレックス(岐阜県関市)の平面研磨加工機1台、ソディックのナノマシニングセンター1台を導入した。ナカヤマ精密の生産拠点であるテクニカルセンター(熊本県菊陽町)で稼働している。同社は顧客からの微細化ニーズに応えるだけでなく、付加価値の高い製品提供を目指す。投資額は約1億3000万円。
ナカヤマ精密の中山愼一社長は、さらなる生産性向上を目指して「工場内の自動化も進めていきたい」と意欲を燃やす。
-
フクネツは設備投資で省人化を進める
フクネツ(福岡県篠栗町)は、新たなコンピューター数値制御(CNC)円筒研削盤を導入する。5月にも搬入を完了する予定。同設備は熱処理加工した棒状の軸の両側を固定し、回転させながら研削する。1度の段取りで自動的に複数の研削加工が可能。プログラミングには手間がかかるが、研削は数分で完了するという。
同社は5、6年前から国の補助金や制度を活用して機械設備の更新を積極的に実施。省人化や省エネ、高速化を進めて生産性向上の実現を目指す。永島誠一郎社長は「数年先にはロボットが働く自動化システム導入も計画する」と展望する。
展示会を生かす
金型部品などの精密加工メーカーである熊本精研工業(同糸島市)は、取引先を含め、自社の技術を広く知ってもらうことを目指す。同社のすべての技術を取引先が把握しているわけではないためだ。発注製品に施される加工以外の技術を知った取引先から、新たな注文を受ける可能性もある。
一方で同社製品の機上測定機は測定以外を目的とした利用も増えている。その一つは工作機械に対する加工対象物(ワーク)の位置決め。技術者の熟練度にかかわらず作業が可能になる。
-
聖徳ゼロテックは自社工場への設備投資に積極的。航空機産業からもニーズを獲得する
聖徳ゼロテック(佐賀市)は展示会の出展や情報収集に努め、新規開拓を試みる。同社は航空機産業で新たな需要を獲得したほか、地元九州や関東の企業からもニーズを拾い上げる。今後の受注拡大につなげていきたい考えだ。
古賀忠輔社長は「過去3年間の新規開拓の成果が出始めている」と手応えを実感する。1975年の創業以来、磨いた技術力で事業拡大に挑む。
ユーザーのために提案
-
村田木型製作所はユーザーへの提案を重視する
製品の木型で鋳造を支えているのは村田木型製作所(福岡県宗像市)。ユーザーの期待を超えたメリットを実現する提案のため、コミュニケーションを重視する。鋳造品や鋳造方法を詳しく聞き、手間が減ったりコストを抑えられたりする製法を提案する。また会員制交流サイト(SNS)で鋳物の魅力をアピールする活動も展開している。
自動車部品用金型を製品に持つ九州池上金型(同糸島市)は、自動車の軽量化に向けて部品が変わることで新たな金型需要が出てくると期待する。
精密加工メーカーの創世エンジニアリング(同久留米市)は既存技術を生かし、セラミックスなど新たな加工分野を開拓していく考えだ。
-
福岡県金型研究会によるFKKスクールの開校式(4月8日)
次世代の金型人材育成では、産官が連携した取り組みが福岡県にある。福岡県金型研究会(北九州市八幡西区)、福岡県工業技術センター機械電子研究所(同)が協力して実施する「FKKスクール」だ。
新入社員を対象に、座学と実習を組み合わせて「金型とは何か」といった基礎から教える。分解・組み立てや測定を含めて関連技術を体系的に学べる内容だ。講師は第一線で活躍する経験豊富な技術者。社外の技術者の話を聞ける貴重な経験となる。これまでに延べ1000人以上が修了。25年度は6社15人が参加した。