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九州のめっき産業界2024
九州のめっき産業で次世代への対応が進んでいる。地域の基幹産業である半導体産業と自動車産業は大きな変革の時代に突入した。こうした産業のサプライチェーン(供給網)を構成するめっき各社は、変革に対応するとともに、その他の分野を含めた新たな需要の開拓に向けた研究開発や生産体制の拡充にも動く。製造業を支える基盤産業は、これからも日本の産業に貢献する。
成長見据え設備投資-生産性向上・能力増強・研究開発に拍車
新たな需要の獲得を目指す九州のめっき各社は、設備投資など今後を見据えた取り組みに積極的だ。生産性向上や能力増強、研究開発に拍車をかける。こうした動きに対し、企業支援機関は積極的な企業の後押しに力を入れる。
半導体装置関連の需要拡大
正信(まさのぶ)(福岡市博多区、御舩隆社長)は、取引先の業種が幅広く、大型や長尺、重量物に対応する設備とノウハウを有する。社会のデジタル化を背景に、電子部品や情報通信関連の受注が堅調だ。今後は電力やデータセンター、半導体製造装置に関連する需要の拡大を見込む。
正信が受注拡大に対応する生産性向上を目指して取り組むのが工場へのIoT(モノのインターネット)システムの導入だ。さまざまなデータを取得して効率化に生かすことで、品質アップや能力増強を目指す。
熊防メタル(熊本市東区、前田博明社長)は、独自の表面処理技術「KBM処理」で顧客からの引き合いを獲得する。同処理は黒色クロムめっきの上から、フッ素やアクリルのコーティングを施し、コーティング膜の剝離を防止する。コーティングの種類によりはっ水機能の追加や、反射防止などの効果がある。半導体製造装置や電子部品製造装置などの分野で採用され、今後は医療や食品といった分野へ参入を試みる。
同社が現在、力を入れているのが社内の生産性向上だ。2024年5月から外部の専門家を招聘(しょうへい)し、各工程における不良品の低減など、品質改善に向けたプロジェクトを進める。6月からは社員を中心にデジタル変革(DX)による生産性向上に向けたプロジェクトが始まった。半導体需要のさらなる高まりを見越して、事業拡大に向けた社内改革を推進する。
ほかにも新入社員向けに先輩社員がメンターとして支える制度を設けており、より良い職場作りに向けた取り組みを加速させる。
東洋硬化(福岡県久留米市、小野賢太郎社長)は、本社工場にコンピューター数値制御(CNC)長尺大径ホーニング機を新たに導入した。最大で直径600ミリメートル、長さ5500ミリメートル程度のシリンダーを加工できる。強みとするシリンダーなどの部品を再生させるための基盤を強化した。
新たな機械は内径研削の1工程後に加工対象物(ワーク)を反転させて加工する〝とんぼ加工〟ができ、納期短縮にもつながる。
東洋硬化はシリンダーなどに施す硬質クロムメッキが主力だが、中古部品を削った上でめっき処理をして再生させることができる。部品の内外面への研削や研磨など幅広い加工に対応するため、本社工場内の機械加工専用棟に各種設備を持つ。
油圧シリンダーやロッドは製鉄所の高炉や建設機械の部品などに使われる。シリンダーは製紙やフィルムの工場などからも受注があるという。小野社長は「ワンストップでできるのが、最大の強み」と強調する。
田口電機工業(佐賀県基山町、田口英信社長)は佐賀県鳥栖市に新工場を建設する。放射光を使ったナノメートル単位(ナノは10億分の1)での加工技術の開発やパワー半導体向け表面処理事業の拡大を図る。投資額は25億円。26年3月の完成を予定する。
新工場の建設地は、同市内にある共同研究先で、放射光を使う九州シンクロトロン光研究センター近く。2階建てで延べ床面積は4270平方メートル。1階部分は将来の機能拡充のために余裕を持たせ、2階部分に製造・研究機能を集約する。環境に配慮し、表面処理に使った水の50%以上を再利用できる装置を導入する。太陽光発電設備の設置も予定する。
建設には、経済産業省の「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」を活用する。九州域内で半導体産業の集積が進む中、田口社長は「今後10年間で売上高を倍増していきたい」と意気込みを述べた。
公的機関、企業支援を強化
めっき業者を技術面で支援する公的機関が福岡県工業技術センター機械電子研究所(福岡市八幡西区)だ。同研究所材料技術課の表面プロセスチームは、めっきや溶射といった表面処理や腐食防食に関する技術を対象に研究開発や技術指導を行っている。
研究開発テーマの一つが自動車の軽量化など脱炭素社会の実現に貢献する表面処理。軽量金属材料のマグネシウム合金やアルミニウム合金、難めっき素材である樹脂素材に対する処理に取り組む。
複合めっきでは、被膜中にカーボン微粒子を分散させる技術を検討している。電気伝導性や摺動(しゅうどう)特性などの機能を発揮できる可能性がある。また硬質粒子を膜に含ませる複合めっき技術の検討では、粒子の大きさなどの条件を変えて硬さなどを評価している。
めっき廃棄物の削減に関する活動もテーマの一つ。廃液処理で生じるスラッジの再資源化やクロムめっき液の長寿命化に取り組む。めっき液の長寿命化はコストの抑制や、国連の持続可能な開発目標(SDGs)にもつながる。環境リサイクルに関してはアドバイザーの派遣もしている。
機械電子研究所は人材育成でも産学と連携し、中核として大きな役割を担う。表面技術や機器分析に関する講演会や実習を開催。技能検定に向けた学科講習会に講師を派遣している。
デジタル技術を活用するための支援にも力を入れる。その中で23年度から本格的に始めたのが、めっき現場にIoTシステムを導入する人材の育成だ。機械電子研究所は、IoT導入支援で以前から多くの実績とノウハウがある。
23年度は九州めっき工業組合やIoT導入支援を展開する企業と連携した。経営層とデジタル担当者が一体となった参加を基本に、課題整理セミナーや企業訪問、個別伴走型支援などを展開した。IoT人材育成は24年度も取り組む。