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九州のめっき産業界2024
九州のめっき産業で次世代への対応が進んでいる。地域の基幹産業である半導体産業と自動車産業は大きな変革の時代に突入した。こうした産業のサプライチェーン(供給網)を構成するめっき各社は、変革に対応するとともに、その他の分野を含めた新たな需要の開拓に向けた研究開発や生産体制の拡充にも動く。製造業を支える基盤産業は、これからも日本の産業に貢献する。
製造業支える基盤産業-技術磨き付加価値創出
研究開発・生産体制を拡充
九州では半導体産業の投資が活発で関連する人材育成やサプライチェーンの強靱化(きょうじんか)に向けた取り組みが産学官で進む。めっきは、製造装置に使われる部品を含め、半導体産業に貢献してきた。今後も欠かせない存在であることは変わらない。さらに新たな需要の開拓を目指す企業もある。
オジックテクノロジーズ(熊本市西区、金森元気社長)は各種表面処理技術で事業拡大を目指す。
同社の合志工場(熊本県合志市)では炭化ケイ素(SiC)パワー半導体向け部品の銀めっき処理の生産を2017年より開始している。銀めっきは金属焼結接合などの次世代接合技術との親和性があり、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けた電気自動車(EV)の普及などで事業拡大を狙う。
ほかにも、めっき技術を応用して、微細部品を製作する「精密電鋳」事業の成長を試みる。専用のクリーンルームでフォトリソグラフィー技術によるレジストパターンの形成からめっき処理までが一貫して生産できる。部品サイズは数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)から数ミリメートル単位まで調整可能となっており、分析装置をはじめとする産業機器や医療機器の分野でニーズを獲得している。今後は、新分野へも参入していきたい考え。
九州電化(福岡市東区、吉村浩司社長)は半導体分野の研究開発を進めている。テーマは半導体パッケージの一つとして注目される部品内蔵基板に用いる配線と半導体の銅めっき接続に関わる表面処理だ。
同社は、半導体製造技術開発の支援で実績があり、福岡県産業・科学技術振興財団が運営する三次元半導体研究センター(福岡県糸島市)に「R&Dセンター」を開設し、産学官連携による事業化を目指している。
また同社は、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)へのめっきも手がけており、航空宇宙分野や風力発電分野の強化に力を入れている。
そのほか、電磁波シールドや低反射など機能性に特化した技術や新たな特性を付与する複合めっき技術、貴金属を使わない電気接点など開発の取り組みは幅広い。
吉玉精鍍(宮崎県延岡市、吉玉典生社長)は、コロナ禍の20年ごろから人材の多能工化を進めている。誰もが一通りのことをできるようになれば現場のラインを止めずにすむ。育児や介護などで休暇を取りやすい会社にすることで会社を去る人も減るとみる。あわせて、技能を伝承していく方法として「動画を使っての教育」にも着手する計画だ。
さらに、人材が長く活躍できる場の提供ということで、現在65歳で定年のところを、70歳定年に引き上げることを検討中だ。「できるだけ早く、25年4月から実施したい」と意欲的な吉玉社長。課長だった人が現場での仕事をやりたいと希望すれば現場に出てもらうなど、フレキシブルに対応する構えだ。
メッセージ/九州めっき工業組合 理事長 金森 秀一 氏
適正な価格転嫁を推進
九州では半導体産業の集積が活発で地元教育機関による産業の発展に資する専門人材の育成や、企業のサプライチェーン(供給網)の強靱化(きょうじんか)に向けた取り組みも同時に進行しています。行政もさらなる企業立地を目指して工業団地の整備や調査を進めており、産学官がそれぞれの取り組みを加速させています。地元企業として九州が国内外から注目を集めていることをうれしく思うとともに、我々も産業発展の一翼を担う意識を新たに持ち、仕事にまい進していく所存です。
一方で人材不足や賃上げ、円安、環境に配慮した事業活動の促進など経営環境を取り巻く課題は山積しています。特に円安はエネルギー価格や材料調達コストの高騰といった面でも影響が出ており、自社内の努力だけではなく適正な価格転嫁を進めていく必要があります。九州めっき工業組合では給与と物価の好循環を達成するため公正取引委員会の指針に基づき、取引先に向けた価格改定の依頼文書を作成しました。
ほかにも産学官金連携における脱炭素化に向けた取り組みや、青年部が中心となって各企業のデジタル変革(DX)推進に向けた活動を進めております。今後も組合員企業の継続的発展を支援し、九州、日本の産業に貢献して参ります。
九州めっき工業組合/産学官金連携で技術開発
九州めっき工業組合は令和6年度通常総会を5月15日、熊本ホテルキャッスル(熊本市中央区)で開いた。熊本での開催は15年ぶり。台湾積体電路製造(TSMC)の進出をはじめ、半導体産業の集積が盛んな熊本の地に、組合員企業の社員や経営者ら約70人が集まった。
総会では時代に即した定款への変更や、本年度の事業計画について話し合った。地震や豪雨などの災害対応を鑑み事業継続計画(BCP)を念頭に置いた経営が基本方針として取り入れられた。そのほか、産学官金連携による技術開発、新規需要の開拓を重点目標とした。持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)など、環境に配慮した経営が重視される中、新規事業の可能性を探る。組合としても、環境対策の推進を目標とした「環境リサイクル委員会」を立ち上げている。これらの活動を促進するとともに、組合員企業への波及効果も期待する。
総会の後半では、日銀熊本支店の田原謙一郎支店長による、最近の金融経済動向について基調講演を聴いた。金利の上昇など企業を取り巻く金融環境が変革期にある。経営者からの注目度も高く、公演後は質疑が飛び交った。