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京都のものづくり2025
関税や金利上昇、人手不足など、2025年も産業界では暗い話題が多い。一方、多様な業界で存在感を示す京都企業の多くは、前向きな姿勢を崩さない。開幕が目前に迫った大阪・関西万博。万博を舞台に、自社の技術を世界へ発信するべく着実に準備を進め、京都駅より南側のエリアで、新オフィスの整備や移転を決める企業が相次ぐ。そこには混迷の時代でも“未来への種まき”を怠らない、京都企業ならではの風土が垣間見える。
未来への種まき
万博直前、企業の準備着々/先端技術を世界に発信
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村田製作所の「ふしぎな石ころ エコーブ」
2025年大阪・関西万博の開幕が目前に迫る中、先端技術をアピールしようと、京都のモノづくり企業が準備を進めている。
村田製作所は同社の技術を盛り込んだ「ふしぎな石ころ エコーブ」を宮田裕章慶応義塾大学教授がプロデューサーを務めるパビリオンに提供する。触覚技術「3Dハプティクス」や位置検知用のアンテナ、押圧検知のピコリーフ、慣性力センサーなど、多くの技術を手のひらサイズの機器に詰め込んだ。機器の名称は同社創業者がセラミックスを“ふしぎな石ころ”と呼んだことにちなんだ。安藤正道執行役員は「最新技術を盛り込んだふしぎな石ころを通じて『将来こんなことができるかも』と多くの人に感じてほしい」と期待を込める。
CCHサウンドは気導、骨伝導に次ぐ“第三の聴覚”と呼ばれる「軟骨伝導」を披露する。04年に発見された新しい聴覚経路で、22年に初の軟骨伝導イヤホンが音響機器メーカーから発売されたばかりだが、中川雅永社長は「軟骨伝導の市場は世界にある」とみる。パソナグループのパビリオンでスタッフ用インカムに使われる予定。万博を契機に、世界で軟骨伝導の普及を目指す。
CCHサウンドをはじめとする京都企業も本社や研究所を置き、京都・大阪・奈良の3府県にまたがるけいはんな学研都市(関西文化学術研究都市)は、大阪・関西万博の会期に合わせて「けいはんな万博」を計画する。ロボットや食、スタートアップ、アートなどをテーマに、同都市で研究される先端技術に触れられるイベントを多数開く。
盛り上がる南部地域/拠点新設・成長投資も
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三菱ロジスネクストが本社・工場内に整備したAGFなど自動化機器のデモセンター
24年8月、第一工業製薬は京都市南区吉祥院にあった本社を、同じ南区内にあるJR京都駅前の「京都八条口NNビル」内に移転した。新幹線ホームから徒歩3分という利便性を生かし、企業や自治体との協業を加速するのが狙いの一つ。また、移転を機に本社部門と大阪支社(大阪市中央区)を統合。社員が働きやすくなるような空間も設け、連携強化とコミュニケーション活性化も図っている。
一工薬の本社移転は、京都市が進める京都駅南部エリアへの企業誘致プロジェクト「京都サウスベクトル」を、企業が活用した最初の事例だ。同プロジェクトは京都経済の活性化や、地元の雇用創出を目的に23年からスタート。市は建物の高さ制限緩和など都市計画を見直し、企業立地への補助金も拡充した。
採用強化や従業員の働きやすさ向上のため、同エリアのアクセスの良さに注目し、プロジェクトを活用する企業も相次ぐ。
日本電気硝子は28年に、本社を現在の大津市内から京都市下京区に整備予定の複合ビルへ移転する。製本機器メーカーのホリゾン(滋賀県高島市)は手狭になっていた京都本社(京都市南区)の建て替えを、二次電池検査システムなどを手がける片岡製作所(同南区)は現本社近くで新本社や新工場などの整備を決めた。
京都市近郊の南部地域でも企業の成長投資が相次ぐ。三菱ロジスネクストは京都府長岡京市の本社・工場内に、無人フォークリフト(AGF)などの自動化機器のデモンストレーションを体験できるエリアを整備。SCREENホールディングスも京都府久御山町の拠点に、デジタルインクジェット印刷機のデモ機能を備えたショールームを設けた。