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潜在的ニーズを読み取り形に
金属加工や電子部品、化学などさまざまなジャンルの中小企業が加盟する試作受託サービスの京都試作ネット(京都市下京区)が1月、米国で開催された世界最大級のテクノロジー見本市に初出展した。展示したのは企業の困り事を先取りし、加盟社の強みを生かして共同開発した排熱発電システムのコンセプトモデル(機能試作)。顧客や社会の潜在的ニーズをコンセプトモデルとして形にし、提案する新しい試作の試みが世界で通用するのか、日本同様に反響を得られるのかを探るためだ。攻めの姿勢で市場創造に挑む中小モノづくり連携を追う。
京都試作ネット CES初出展
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米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES2024」に参加した京都試作ネットのメンバー。(左から)高井淳治ジーマックス社長、山本勇輝HILLTOP社長、佐々木智一佐々木化学薬品社長、岡本貴利イーエル・オカモト社長
1月、米ラスベガスで開催された世界最大級のテクノロジー見本市「CES2024」。そこには試作ネットに加盟するジーマックス(京都市伏見区)の高井淳治社長やイーエル・オカモト(京都府亀岡市)の岡本貴利社長たちの姿があった。試作ネットの有志メンバーが連携開発した排熱発電システムのコンセプトモデルを出展するためだ。
同システムは熱電素子(ペルチェ素子)と伝熱フィンなどで構成され、排熱する工場配管などに組み付けることで発電する。発電量はわずかだが、熱源があれば半永久的に使用できるのが特徴。23年に国内展示会で初披露して反響を呼んだ同システムのCES出展は、コンセプトモデル受託制作のグローバルでのニーズを見極めるのに最適だった。
「コンセプトモデル制作という事業は海外にも概念は存在し、同事業を手がける海外企業も出展していた」。岡本社長はCES会場の様子をこう振り返る。高井社長は「日本同様、ビジネスアイデアはあるが実機がないため、資金集めに苦労しているスタートアップから需要がありそう」と手応えを掴み、次回参加も視野に入れる。
漠然としたニーズや課題読み取り、試作
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京都試作ネットがCESに出展した排熱発電システム
製造業の海外移転が進み、苦境に立たされていた京都府内のモノづくり中小企業が、持ち前の技術力を生かせる試作に注目して01年7月に連携・発足した試作ネット。試作受託で実績を重ね、現在は約40社が加盟する。
ただ、試作の世界でも市場競争が激化。世界的な試作集積地で、試作・量産の関連産業が集まる中国・深圳が台頭する。「日本ではできないことが、他国ではできる時代。日本のお家芸であるモノづくりがなくなるかもしれない」と、佐々木智一京都試作ネット代表理事(佐々木化学薬品〈京都市山科区〉社長)は危機感を示す。
そこで次の一手として注力するのが、コンセプトモデルの受託制作だ。試作ネットに加盟する最上インクス(京都市右京区)の鈴木滋朗社長は「図面ではなく、顧客や社会が抱える漠然としたニーズや課題を読み取り、それらを解決するソリューションを試作する」とコンセプトモデルについて説明する。
モノづくりの上流に位置する試作は、顧客企業や社会が抱える漠然とした課題に触れる機会が多い。〝それら課題に対して、試作ネット加盟企業が長年培ってきた技術や経験などの知的財産を集積し、ソリューションを制作することはできないか〟という発想のもと、動き出した。
強みにするのは試作ネット加盟企業の多様性だ。金属加工から電子部品、通信モジュール、はたまた化学まで。試作ネットが持つ技術の裾野は広い。佐々木代表理事は「多様な企業のネットワークが試作ネットの強み」とし、1社単独では難しい多様なモノづくりを可能としている。また、営利ではなく、事業機会の探索に重きを置く組織方針も連携を後押しする。
23年に排熱発電システムを初披露して以降、既に国内企業からコンセプトモデル制作の依頼が舞い込んでいる。スタートアップや企業のイノベーション部門などを対象とし、今後さらなる受注増に取り組み、世の中にまだない新しい商品を世界に送り出していく。