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京都産業界
進取の精神と独自性、持続性で成長に挑む 京都企業トップに聞く―2
三洋化成社長 樋口 章憲氏/組織をトランスフォーメーション
―業務の効率化や収益力向上に向け、組織体制のトランスフォーメーション(変革)に取り組みます。
「サプライチェーンマネジメント(SCM、供給網管理)機能を強化するため、SCM統括本部を10月に新設した。従来はグループ内の事業部や子会社、工場で分担管理していた受注、購買、生産計画、物流といった機能を同組織に集約。各機能の横断管理で、供給網全体の最適化を念頭にした業務プロセスの改善やデジタル変革(DX)などにつなげる。組織の壁をなくすことで、会社を良い方向に変革しやすくする」
―持続的な成長に向けて、新しい人事評価制度を導入します。
「2024年度から管理職クラスを対象に、各部署が掲げる目標達成に向けて従業員をどのように巻き込んだかなど、管理職としての行動を評価する制度を導入する方針で、その上司や部下による360度評価によって見極める。新制度導入で、所属組織が抱える課題に当事者意識を持って向き合い、ラグビーやバスケットボールのようにチームで連携して目標達成を目指せるようにする」
―多様な機能化学品の開発・製造ノウハウを生かし、新事業の創出にも取り組んでいます。
「複雑な匂いをデータ化できる『匂いセンサー』、農作物の収穫量や品質向上が見込める『ペプチド農業』の事業化に取り組んでいる。特に、人間の生活に欠かせない食・医療分野は、市況に左右されにくい業界とされ、従来の当社になかった事業領域。これまでの経験やノウハウを生かし新分野にも切り込んでいく」
宝ホールディングス社長 木村 睦氏/成長分野に経営資源シフト
―2026年3月期までの3カ年中期経営計画は、前中計と比べて約2・7倍の880億円を成長投資に充てます。
「当社の成長投資に対する考えを大きく変革した。日本がデフレに取りつかれていた約30年間、コストダウンに取り組んできた。ただ、コストダウンの目的は本来、成長分野に経営資源をシフトするための余力を生み出すことのはずが、近年はその行為が目的化している節があった。現中計では捻出した資金や人材、時間などを最大限、成長強化領域へ投じる」
―成長著しい海外市場で日本食材卸事業に注力しています。課題と戦略は。
「米国市場は競合他社と比べ、拠点数が少ないことが課題。数を追うわけでないが、設備投資やM&A(合併・買収)などをうまく活用し、当社の販売網を拡大する必要がある。直近では、米テキサス州南部で日本食材卸業を手がけるミナモトホールセールを買収した。当社の既存拠点から遠かった地域での営業・販売を強化するのが狙い」
―フランスで日本酒などを製造販売するスタートアップ、WAKAZE(ワカゼ、東京都世田谷区)に出資しました。
「スタートアップへの出資は当社として初めての取り組みだ。ワカゼの取り組みには以前から関心があり、出資によって好影響が見込めるというのもあったが、稲川琢磨社長の柔軟な発想力や『日本酒を世界酒に』という熱い思いに共感したことも大きい。社員も稲川社長の熱量に良い刺激を貰っているようだ。今後も良いシナジーが発揮できそうであれば外部のリソースを活用する方針だ」
京セラ社長 谷本 秀夫氏/新事業でBX加速
―布地にデザインを施すデジタル捺染(なっせん)機など、グループ技術を結集した新事業を相次ぎ打ち出し、ビジネストランスフォーメーション(BX)を加速させています。
「新事業の創出は原則、グループ内の既存事業の延長、もしくは組み合わせで考えている。一方、今後強化する必要があるのはソフトウエア開発機能だ。当社はみなとみらい(横浜市西区)で、ソフトウエア開発拠点を持っているが、国内だけでは十分な人材を獲得できない。グループ企業の海外拠点を活用するなど、グローバルで人材を採用する必要がある」
―セラミックス部品や電子部品事業が落ち込む一方、複合機などのソリューション事業が堅調です。
「複合機やコピー機などのドキュメントソリューション事業は、競合他社と比べ、シェアを伸ばす余地がまだまだ大きいからだ。また、ディスプレー事業も自動車のヘッドアップディスプレー向けで好調だ。当社のヘッドアップディスプレーは輝度の高さが特徴で、約半分の市場シェアを持つ。大型ディスプレーは市況が落ち込んでいるが、当社はニッチ分野に特化したことで収益を出している」
―デジタル変革(DX)などを取り入れた業務の効率化にも取り組みます。
「DXを活用した働き方改革を検討している。夫婦の共働きが一般化しつつある現代、社員の転勤が難しくなっている。一方、当社では人事などの間接部門の社員も、地方の工場で勤務している。全員は難しいが、そういった社員が本社からでも働けるような仕組みを整備する方針だ」
堀場製作所社長 足立 正之氏/Xセグメントで提案の幅拡大
―自動車や半導体といった既存5事業のリソースを掛け合わせる戦略「X(クロス)セグメント」が社内外に浸透してきました。
「2017年頃から掲げて変革を進めてきた。例えばソリューションビジネスが先行する自動車セグメントの営業のDNAを、環境セグメントに持ってくるだけで提案の幅を広げることができている。大きなプロジェクトも取れるようになってきた。4月に『先端材料・半導体』などの重点分野を軸とする組織改革を行ったが、社会の変化に合わせて会社の仕組みを柔軟に変えられるのは強みだ」
―石油精製工程に用いるラマン分光分析装置が強みで、北米で高シェアの米プロセス・インスツルメンツ(PI)を買収しました。
「私自身とても興奮している。当社のラマン分光技術は世界一だと自負しているが、研究開発向けが主体。PI買収で産業向けの展開を加速させる。従来の温度や圧力といった物理的なパラメーターを見ていた製造プロセスに対し、当社グループは物質を構成する分子を見て計測制御が可能。製薬や食品、半導体などへ広げていき、さまざまな業界のプラントを分子制御の世界へと変えていきたい」
―コロナ禍で停滞した医用セグメントの状況は。
「血液などの検体を検査する機器で使われる試薬は、販売がかなり回復している。18年にロームから買収した微量血液検査システム事業では、血液分析装置の試薬チップの当社への生産移管を9月に終えた。本社(京都市南区)内の製造エリアでは自動化によって生産効率を高め、顧客向け見学コーナーも設けている」
SCREENホールディングス社長 広江 敏朗氏/DX・GXで半導体市場拡大
―2033年3月期売上高を現状比約2倍の1兆円に伸ばす計画です。
「世界的なデジタル変革(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)などを背景にした半導体市場拡大を念頭に、主力の洗浄装置や期待の熱処理装置といった半導体製造装置事業を中心に売上高を伸ばす。計画実現には新規事業も一定の役割を担う。水電解装置の中核部品であるセルスタックや、燃料電池に使われる膜電極接合体(MEA)などの水素関連事業がその一つ。半導体パッケージ基板の高性能化に対応したパターン用直接描画露光装置といったアドバンスドパッケージ事業なども貢献する」
―グラフィックアーツ機器事業では、版を使わないオンデマンド印刷(POD)の普及を推進します。
「インクジェットプリンターの普及に向け京都と東京、北米と欧州の4カ所にショールームを整備した。当社製プリンターを実際に見てもらい、有用性を知っていただくのが目的だ。デジタル技術を活用した同プリンターは、インクや無駄紙の使用量、作業時間を削減できるのが特徴で、顧客のDXやGXに貢献していく」
―新事業・技術開発にも積極的です。
「直接描画装置などで培った光学技術の応用で、次世代通信技術とされる宇宙光通信の研究開発事業を国から受託し、将来のビジネス展開を目指している。例えば、自動運転が実用化されると、モビリティー市場で通信技術の重要性が今以上に増すことが想定できる。将来の市場トレンドを捉えた技術開発を他分野でも進めていく」
京都フィナンシャルグループ社長 土井 伸宏氏/変化を楽しむマインド醸成
―京都銀行の持ち株会社体制移行で、銀行や証券、投資会社など傘下に置く京都フィナンシャルグループ(FG)が発足しました。
「マイナス金利政策による閉塞(へいそく)感を打破しようと、これまで証券子会社の設立、信託業務の本体参入、M&A(合併・買収)支援、ファンドを作ったりしてきたが、いよいよダイナミックに変わる。新しいことに挑戦するので、アンテナは高く、横の連携は常に意識し、変化を面白いと感じるマインドを醸成していきたい。銀行は規制がいろいろとあり、その枠内で対応してきたが、これはすごく傲慢(ごうまん)というか、多様化するニーズ対応を真剣に考えて非金融分野含め、顧客が望んでいることに応えていく」
―FG化の狙いは。
「ソリューション機能拡充と新事業領域拡大、役職員の意識・考動改革とグループ各社の自立・連携、ガバナンス高度化と業務執行スピード向上の3点。維持してきた広域型地銀の強みと事業領域拡大を組み合わせる。これまで自分たちで完遂できる業務を増やしてきたが、子会社は銀行に頼ることが多かった。銀行の重要性は変わらないが、子会社の自立を促し増員も行う。このほか、債権回収子会社の設立準備も始めた」
―さまざまな人材が必要となります。
「来年度から初任給を地銀トップクラスに引き上げる。ある程度はないと、選択対象にもならないと考えた。キャリア採用も強化する。特に欲しいのはDX(デジタル変革)人材などのスペシャリスト。非金融分野では、システム開発会社や人材派遣会社などのM&Aも視野に入れている」
(順不同)