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進取の精神と独自性、持続性で成長に挑む 京都企業トップに聞く―1
「100年に一度」や「大変革期」といった言葉が至るところで用いられ、このメガトレンドを乗り越えるために、さまざまな『X』が必要とされている。
トランスフォーメーション(変革)のトランスを1文字であらわす『X』や、エクスペリエンス(体験)を1文字で示す『X』などと、その前にさまざまなアルファベットを組み合わせて表現する”アレ”のことだ。
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市民権を得たDX(デジタル変革)や、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、CX(カスタマーエクスペリエンス)。はたまた、BX(ビジネス・トランスフォーメーション)や、QX(クオンタム・トランスフォーメーション)から、企業が打ち出す独自の「●X」まで。AtoZに『X』を加えたキーワードで、先行きが見通しにくい変化の時代の潮流を掴み、先取りし、柔軟に対応することが求められている。
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千年の都・京都は伝統と革新の相反する二つの要素を併せ持つことで、幾度となく降りかかってきた大変革期を乗り越えてきた。先行きが不透明とされる今、受け継がれる進取の精神と独自性、持続性で成長に挑む京都企業の様々な『X』を探る。
島津製作所社長 山本 靖則氏/AXで顧客のラボを変革
―分析計測機器はAX(アナリティカルトランスフォーメーション)、医用機器はイメージングトランスフォーメーション(IMX)を戦略に掲げます。
「AXは顧客のラボを変革するという概念だ。人工知能(AI)や各種データ、ロボットなどを使って分析作業などの自動化を支援する。IMXではX線画像のAI解析などで”プラスアルファ”の情報を提供し、医療従事者の操作性を高めて、安全かつ素早い診断で患者の負担を軽減していく」
―GX(グリーントランスフォーメーション)では「バイオものづくり」を推し進めています。
「微生物に二酸化炭素(CO2)などを食べさせて有用な材料を生産するというもので、カーボンニュートラルの実現に大事な技術だ。神戸大学との取り組みや、京都大学発ベンチャーなどとの活動に力を入れている。遺伝子改変した微生物を最適な条件で培養するために、条件を変えながらデータ取得していくのを自律的に行うラボシステムや、各種分析計測機器で携わっている。地球に優しいモノづくりにつながるので、どんどん後押ししたい」
―足元では不透明感がある米国事業の展開は。
「物価が上がり、投資意欲は低い。後ろ倒しになる案件も出てきた。特に重要市場の製薬業界が厳しい。ただ北米の製薬市場は圧倒的に大きく、開発から製造、販売、サービスの一連を北米で回せるようにしたい。液体クロマトグラフなどの開発機能を強化するため、2023年内のR&Dセンター本格立ち上げに向けて準備を進めている」
ローム社長 松本 功氏/経営改革で成長資金創出
―半導体業界が大変革期を迎える中、2030年度の売上高1兆円達成を見据え、積極的な投資を継続しています。
「21年度以降、売上高に占める設備投資額の割合が高い状態で続いている。負担は大きいが、さらなるシェア獲得には不可欠。25年度までの成長投資は従来計画比2割増の6000億円に増額した。社長就任以来、さまざまな経営改革を実施してきたが、ここ数年で着実にキャッシュを生み出す力が進化している。自己資金内で設備投資を実施できるように継続してキャッシュ創出力を伸ばし、投資効率向上にも取り組む」
―25年度までに実施する成長投資の具体的な内容は。
「主に生産能力向上と土地、建物の取得などに充てている。具体的には、自動車の電動化で市場が急拡大している炭化ケイ素(SiC)パワー半導体や、大規模集積回路(LSI)におけるウエハーサイズ12インチの生産能力増強が中心だ。LSI事業では、幅広いニーズに合うASSP(特定用途向け標準IC)の開発を強化中。付加価値の高い商品群を拡充するため、生産ライン増強を計画している」
―SiC半導体としては国内3拠点目となる生産拠点を宮崎県に開設します。
「出光興産子会社ソーラーフロンティア(東京都千代田区)の旧国富工場(宮崎県国富町)を取得し、整備する。規模が大きいうえ、既存の建屋やクリーンルームの活用で早期の生産立ち上げが可能な点が決め手となった。旺盛な需要に応えるため、安定供給体制を迅速に整える」
オムロン社長 辻永 順太氏/トランスフォーメーション加速期
―2024年度までの中期経営計画は”トランスフォーメーション加速期”と位置づけています。
「『カーボンニュートラルの実現』や『健康寿命の延伸』といった三つの社会的課題に対して、事業を通じた解決を目指す。深刻度が増すこれらの課題で、人々の価値観も大きく変わってきた。製品中心のビジネスで本質的に解決するのは限界がある。これまで展開してきた製品から得られるデータをうまく活用することが必要で、多様なソリューションに転換させていく」
―ビジネスモデル変革への戦略として、医療データサービスを手がけるJMDCを子会社化しました。
「22年からの資本業務提携を通じ、データをソリューションに変えるJMDCのすごさを感じた。これまで協業してきたヘルスケア領域に加えて、FA(工場自動化)などの領域でも価値を創出していく。例えば、製造現場のデータを収集・分析・活用する当社サービスは現状個社ごとに提案しているが、JMDCがデータを標準化・整理すれば、同じ業界の同じような工程向けに汎用的なパッケージを展開できる。まずはデータプラットフォームの開発や狙う領域を定める」
―患者が家庭で測定した血圧データを医師が観察し必要に応じて診療する遠隔診療サービスの戦略は。
「遠隔診療のニーズはどの国にもあるが、まだ温度差がある状態。現時点で高いニーズのある米・英国での早期立ち上げに注力する。当初は広いエリアでの展開も想定したが、新しいビジネスなのでしっかりモデルを作り込み、成功させてから他のエリアに広げる」
イシダ社長 石田 隆英氏/AXで食品工場完全自動化
―あらゆる産業が大変革期を迎える中、来春始動の中期経営計画で、2030年に現状比約4割増の連結売上高2030億円を掲げます。
「詳細は詰めている最中だが、企業理念『三方良し』をテーマに考えている。『自分良し』は社員にとって快適に働ける環境づくりをさらに進める。『相手良し』は食品工場全体のシステム提案を強化していく。深刻な人手不足で、より全体を見てほしいという声が高まっており、主力の計量・包装機、異物検査装置、箱詰め機に加え、上流・下流工程も提案していきたい。あらためて品質やサービスのあり方も見直す。『第三者良し』は所有地の活用などで地域に貢献していく。これらで目標達成を目指す」
―AX(アライアンストランスフォーメーション)を積極化しています。
「椿本チエインとのアライアンスでは、当社の包装機と椿本の天井搬送システムを組み合わせ、包装フィルムロール交換の自動化を提案。食肉スライサーなどを手がけるワタナベフーマック(名古屋市中川区)とも連携している。当社のX線による質量推定を活用し、不定形な食肉の定量カットに最適な位置を算出する機械の展開を始めた。食品工場の完全自動化にはアライアンスが不可欠だ」
―業務で対話型人工知能(AI)「チャットGPT」の活用を始めました。
「ソフトウエア開発のプログラミングコードのテストなどで用い、これまで1時間かかっていた作業が10秒ほどに短縮できた事例もある。人による工夫や確認は必要だが、さらに活用比率を高めたい」
NISSHA社長 鈴木 順也氏/事業ポートフォリオを変革
―市場環境の変化に応じて、業態を大きく変革してきました。
「当社の歴史はトランスフォーメーション(変革)の歴史だ。印刷業が祖業だが、印刷技術にコーティングや成形、金属加工といった多様な技術を融合させてコア技術を拡充し、事業の多角化、グローバル化を進めてきた。現在、需要変動が大きいIT市場に偏重した事業ポートフォリオの変革に取り組んでいる。今後の成長が期待できる医療機器やモビリティー、脱炭素関連資材市場でのシェア拡大を目指し、経営資源を投入していく」
―足元の事業環境は。
「世界的な景況感悪化などで製品需要が総じて弱い。事業別で見ると、産業資材事業は家電向けの加飾製品や蒸着紙、デバイス事業ではタブレット向け部品が巣ごもり特需の一巡や顧客の在庫調整などにより、弱含んでいる。一方、コロナ禍収束に伴って外科手術件数が増えたことで、医療機器の開発・受託製造(CDMO)事業が堅調に推移している。加飾製品もモビリティー向けは新製品の投入や自動車の電動化に伴い伸びており、将来需要をにらんで増産を計画している」
―生産性向上のため、デジタル変革(DX)に取り組んでいます。
「設計から生産工程をDXによって見える化し、取得したデータを基に最適な設計手法や生産体制を人工知能(AI)などによって導き出せる体制を整えている。事務作業でも、米オープンAIが開発した対話型AI『チャットGPT』を活用したシステムを導入することで、業務の効率化を図っている」
ニチコン社長 森 克彦氏/NECST事業で大変革
―主力のコンデンサー事業や、蓄電システムなどで構成するNECST事業の市況は。
「コンデンサー事業は半導体の供給緩和や電動車(xEV)の普及拡大などを背景に自動車市場向けは堅調。一方、家電市場向けが悪く、昨年度の顧客在庫がまだはけていないようだ。産業機器市場向けも同様だが、家電よりは回復時期が早いとみている。NECST事業は家庭用蓄電システムが中心で、世界的な脱炭素の潮流を背景にずっと調子が良い。現在、売上高全体に占める同事業の構成比は3―4割ほどだが、2025年にはコンデンサー事業と半々にする計画だ。コンデンサーを主力事業としてきた当社にとって、大きなトランスフォーメーション(変革)と言える」
―デジタル変革(DX)などによって、モノづくりの品質や生産性向上に取り組んでいます。
「製品の品質や歩留まり改善に向けて、各工場にモデルラインを作り、プログラマブルコントローラー(PLC)から得られる製造装置の稼働データなどを分析、他の工場に横展開するようにしている。各工場で得られたノウハウや成功体験を全体共有することで、会社としてモノづくりのレベルを底上げするのが狙いだ。生産性向上を念頭に、生産現場の省人化に向けた準備も進めている」
―サプライチェーン(供給網)の効率化にも取り組んでいます。
「サプライチェーンの改善は終わりがない。顧客の注文に対して的確な数量を正確かつ迅速に届けることを、今以上に進化させる。まだまだ道の途中だ」
(順不同)