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熊本の半導体産業
台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ半導体産業の集積が進む熊本県。日本工場となる半導体受託製造サービス会社「ジャパン・アドバンスド・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)」は第一工場に続き第二工場の建設を菊陽町で進める。地元の教育機関でも人材育成が進むなか、地元企業もサプライチェーン参入に向けて投資を続ける。
JASM、第二工場建設 地元経済活性化に期待
県内経済波及効果 31年までに11兆円超え/サプライチェーン参入 目指す設備投資も盛ん
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JASMは、27年末までに第二工場の建設および稼働開始を目指す
JASMは2024年末までに第一工場の稼働を本格化させるとともに、27年末までの第二工場建設を目指す。同社は2工場あわせて3400人以上の雇用を見込んでおり、地元経済の活性化にも期待がかかる。
九州フィナンシャルグループは9月、JASMをはじめとした半導体や電子デバイス産業に伴う31年までの県内経済波及効果について、23年の試算から4兆3402億円増の11兆1920億円になると発表した。進出企業数は前回発表の90社から2倍近い171社になると予想する。同社では半導体サプライチェーン(供給網)参入を目指す地元企業と進出企業のマッチング支援も手がける。既に半導体製造装置などの設置や保守メンテナンスといった分野で商談が進んでいる事例もあるとしており、今後の地元企業との取引拡大にも期待がかかる。
将来の半導体産業を担う人材育成も進む。地元の熊本大学では4月、半導体教育に特化した教育課程「半導体デバイス工学課程」の1期生が入学した。同大は3月、TSMCと半導体分野の研究および人材育成における産学連携協定を結んだ。学内にクリーンルームを設置するなどの設備投資も進める。
地元製造業もサプライチェーン参入や事業拡大を目指した設備投資や生産性向上に向けた取り組みを進める。本特集ではそれらの企業を順不同で紹介する。(順不同)
設備を拡充し事業拡大狙う/ナカヤマ精密
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二テクニカルセンター(手前)などへの投資を続ける
ナカヤマ精密(大阪市淀川区、中山愼一社長)は日本国内でのモノづくりに重点を置き、設備投資を実施。半導体産業の集積が進む熊本県に工場を構え、自社の技術力向上や事業拡大に挑む。
同社は2023年、熊本県菊陽町に建設した新工場「第二テクニカルセンター」の本格稼働を始めた。大型部品の加工や、付加価値の高い製品提供を目指してホイストクレーンやコーティング炉を設置した。コーティング事業について中山社長は「剥離や再コーティングの技術も強化し、事業の幅を広げていきたい」と語る。今後、より高精度の加工が可能なマシニングセンターなどの工作機械も導入を考えており、微細加工にも力を入れる。
時代のニーズに沿った技術を提供/オジックテクノロジーズ
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工場には太陽光発電設備を整え、環境にも配慮
オジックテクノロジーズ(熊本市西区、金森元気社長)は表面処理の技術を生かし、時代のニーズに沿った技術を提供する。同社の半導体関連産業参入は1960年代にさかのぼる。当初はマイコンのリードフレームへのめっきなどを手がけていた。現在は、パワーデバイスや半導体製造装置などの分野に事業を拡大。世界的な半導体需要に合わせ、ここ数年で合志事業所内に設備を増強。
また半導体で培った技術やノウハウを応用し、医療や化粧品といった異分野にも参入している。金森社長は「品質管理など蓄積されたノウハウが生きた」と振り返る。今後は機械学習によって素材開発を効率化するマテリアルズインフォマティクス(MI)の活用など、社内の生産性向上にも意欲を示す。
生産性向上を目指しプロジェクト発足/熊防メタル
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生産性向上でさらなる需要獲得を目指す
熊防メタル(熊本市東区、前田博明社長)は、独自の表面処理技術「KBM処理」で半導体や電子部品製造装置などの分野から引き合いを獲得。同処理は黒色クロムめっきの上から、フッ素やアクリルのコーティングを施し、コーティング膜の剝離を防止する。
同社は需要拡大と顧客獲得のため今後3年間で10億円規模の投資を見込むほか、生産性向上にも注力する。2024年5月から外部の専門家を招聘(しょうへい)し各工程における不良品の低減など、品質改善に挑む。6月からは社員を中心にデジタル変革(DX)による生産性向上プロジェクトが始まった。新入社員向けに先輩がメンターとして支える制度もあり、より良い職場作りを目指す。
装置開発からクリーンブース設備まで/プレシード
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「115 PANEL BOOTH」は工場レイアウトに合わせて組み立てが可能
プレシード(熊本県嘉島町、松本修一社長)は、半導体や電子部品などの自動化機械の開発・設計から製造を手がける。年間受注のうち約15%が新規案件。全国から需要を獲得している。
同社は装置開発に加えてクリーンブースや大風量低速回転ファンなどの自社製品も販売。クリーンブース関連では幅1150ミリメートル×高さ2300ミリメートルのモジュール化されたパネルを組み合わせて作る「115 PANEL BOOTH」や、軽量なアルミフレームで組み立てが簡単な「TENBOOS」をラインアップ。「工場の一角をクリーン化したい」といった顧客のニーズに応える。
松本修一社長は「海外メーカーとの協業も計画する」としており、さらなる事業拡大に期待がかかる。
産業集積 波及効果を県内全域へ/熊本県知事 木村 敬 氏
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熊本県知事 木村 敬 氏
TSMCをはじめとする半導体産業集積に伴い、地元製造業には新たなサプライチェーンへの参入とさらなる競争力・技術力の獲得を期待しています。県では、新技術として注目される3次元積層実装技術の確立を目指す「くまもと3D連携コンソーシアム」を通じた産学連携での技術開発支援など、研究開発から事業拡大まで切れ目なく技術的・財政的支援を進めています。
また、TSMC進出効果の熊本県内全域への波及は熊本県政の重要なテーマです。特に、県南地域への波及効果を高めるため、八代地域に新たに県営工業団地を整備し、交通結節点としての優位性を生かした物流の拠点化や食文化産業の強みを生かした企業誘致に取り組んでいます。
一方で、熊本都市圏の渋滞解消および地下水保全にも取り組む必要があります。これらを促進するため、全庁横断的な組織「渋滞解消推進本部」と「地下水保全推進本部」を設置しました。渋滞解消推進本部では道路や公共交通におけるハード・ソフト対策を、地下水保全推進本部では地下水の「量」と「質」の保全を、国や関係自治体などと連携し取り組んでいます。
県としてやるべきこと、やらなければならないことが多くありますが迅速かつ丁寧に対応しながら「新生シリコンアイランド九州」の実現に加え、熊本がアジアの半導体サプライチェーンの中心的役割を担えるよう全力で取り組んで参ります。