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東九州メディカルバレー構想
大分県・宮崎県の産学官で進める「東九州メディカルバレー構想」が早くも15年を迎える。医療機器関連産業の集積を目指す取り組みとして2011年12月22日に国の地域活性化総合特区に指定され、現在は第3期計画(22―26年度)にある。2月13日に開かれた東九州メディカルバレー構想推進大会(両県の共同開催)の模様をベースに追加取材をし、両県内の最新の取り組みを追った。
アジア市場視野に海外展開加速
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大分県と宮崎県の共同開催となって以降、大分県で初開催した「東九州メディカルバレー構想推進大会」(2月13日、大分市内のホテルで)
大分県と宮崎県、医療関連機器産業の集積を目指す「東九州メディカルバレー構想推進大会」を大分市内のホテルで開いた。共同開催では大分県で初開催となった。医療機器産業に参入したい企業など関係者ら約220人が参加した。
基調講演では旭化成メディカル(東京都千代田区)の稲留秀一郎取締役が登壇。東南アジアは、特にタイが強い市場になってきており、血液浄化市場の高い成長性を見込んでいると解説。「国産の人工透析膜を発売してから、我々の技術に基づいた医療機器を世界中に届け、世界中の人々に貢献する人材を作っていくのも会社の使命」と語り、「4月以降、旭化成グループから離れ、血液浄化専業会社となるからこそ、今後ますます皆さんと共に東九州メディカルバレーを振興していきたい」と述べた。
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販売が堅調なカフ圧自動調整器「カフキーパー、カフキーパーDX」(トクソー技研提供)
大分県内の事例ではトクソー技研(宇佐市)の徳永浩幸社長が登壇し、同社が開発した医療機器「カフ圧自動調整器」を紹介。病院や在宅医療で人工呼吸器を使用した患者の気管チューブの呼吸漏れなどを防ぐカフ圧管理に利用する製品。電源不要でカフ圧を自動調整する点が特徴だ。大分県産医療機器補助金や大分市日常生活用具補助制度などを活用しながらカフチェッカーは年々販売台数は増加しており、堅調に販売が伸びている。25年度は、デジタルタイプを2機種投入し、海外展開も計画している。
宮崎県内からは「食卓から宇宙まで」を合い言葉とするサニー・シーリング(都城市)が登場。早くからクリーンルームを整備し、超低温や有機溶剤の中といった特殊環境下でのラベル・シール印刷と精密型抜き加工・粘着加工・貼り合わせに強みを持つ同社。現在は「意匠性の高い商業用途のカラー印刷まで、全方位対応する」(久野康之常務取締役)。
効率化・競争力向上へ社内DX化
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会場のロビーでは製品紹介のブースが設けられ、多くの来場者が興味深そうに見学していた(推進大会事務局提供)
大会では社内のDX化を紹介。17年からノーコードのクラウド型業務支援システムを導入し、300近いアプリケーションソフト(アプリ)を立ち上げ済みだ。経営企画室システム課の3人を核にして、今では社員15人が自前でアプリ作成するようになった。在庫管理システムから日次、月次の承認やファイリング、マニュアルやメール配信の自動化したことで格段に仕事が効率化した。宮崎大学医学部と連携しながら「5年ぐらい先に一つぐらい製品を世に出したい」(泉田弘志営業部課長)と意気込む。
次回大会は、来年2月中旬に宮崎県延岡市で開催を予定する。
【トピックス】
大分県/新製品の市場投入 着々と 硬性内視鏡洗浄カバー「オプリス」販売
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トライテックが開発した一般医療機器(クラスⅠ)の硬性内視鏡洗浄カバー「オプリス」
トライテック(大分市)は一般医療機器(クラスⅠ)の硬性内視鏡洗浄カバー「オプリス」を2025年度内に販売する。腹腔鏡手術でスコープの先端が汚れても生理的食塩水とCO2ガスで洗浄して手術が続行できるのが特長だ。体内からスコープを抜き出すことなく手術に集中でき、手術時間を短縮できる。昨年、大分大学医学部で動物実験を終え、「今秋、臨床現場で使う予定」(竹崎博社長)だ。7年前から共同で開発する長崎大学医学部ともエビデンス(根拠)をとる計画だ。
デンケン(由布市)は、クロスアポイントメント制度を活用し、4年前から大分大学医学部と光治療分野に取り組んでいる。内容は基礎研究に近く、「光と温熱と、電気刺激などで新たに医療分野で活用できればと思う」(石井源太社長)。2月28日には同大医学部へ200万円を寄付しており、今後も連携強化を図っていく。
大分大学医学部付属臨床医工学センターは、医療・福祉機器開発に取り組む企業研究者へ医療現場を開放し、ニーズ発掘や人材育成、情報提供を続けている。昨年11月に開いた医看工芸ものづくりワークショップでは臨床現場研修、デザインシンキングの実践と知的財産教育も組み込み、他業種のグループによる課題抽出と解決策のアイディア出しを行った。穴井博文教授は、「25年度は海外展開を主題においた人材育成も盛り込み、アジア地域のニーズ収集や大分県産製品の普及・ネットワーク開拓に活動を広げる」と意気込む。
宮崎県/伴走支援でPR・販路拡大 人材育成に産学官が連携
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出前授業で学ぶ高校生たち(宮崎県提供)
宮崎県では2022年度から、宮崎県メディカルバレー推進事業を開始。医療関連機器の開発・改良および販路開拓を加速化するため、専門のコーディネーターが伴走支援する。これまでに六つの開発プロジェクトを認定し、そのうち一つは販売され、三つが市場化間近だ。これら製品は、6月25日からインテックス大阪(大阪市住之江区)で開かれる大阪・関西万博関連イベント「Japan Health」に出展し、宮崎県発の医療機器製品を世界に向けアピールする計画。
人材育成・確保の取り組みでは、高校での出前授業を23年度から実施。人工透析用の針や血液由来の医薬品を製造する際に用いられるウイルス除去フィルターなど、企業が県内で製造した製品を持ち込んで説明した。実物に直接触れ、興味を持ってもらうのが目的で来年度も継続する。
同構想の中で研究開発の拠点である宮崎大学医学部血液・血管先端医療学講座の鶴田敏博教授は10月18日には錦本町ひなたキャンパスで「第3回医農工連携プロジェクト ものづくりフェスタ2025」を開く。JR宮崎駅近くに4月開学する同キャンパスで終日、県内企業と医療関係者の出会いの場を創出し、医農工学部間の研究連携も進める。
さらに、大学病院・県立病院内でラウンドテーブルディスカッションや企業展示会を開くなど、共同研究や販路拡大を進める。鶴田氏は、20―30年後のわが国や世界を見据えた「未来逆算思考」で構想の将来像を大分・宮崎両県で描き直す必要があると説く。