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川崎特集
産業都市として日本経済を支える川崎市。石油化学や鉄鋼関連の企業が集積する臨海部、電機・電子・精密機械などモノづくり企業が集積する内陸部を含め、大企業と中小企業がバランス良く発展している。近年は臨海部を中心に水素を軸としたクリーンエネルギーの供給・需要拠点の形成が進展。先進的な環境技術を持つ企業も多く、グリーンイノベーションを目指した取り組みでも日本をけん引する存在となることが期待される。
水素の供給・需要拠点形成へ
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水素の利活用拡大が期待される川崎臨海部(CCBY4・0by川崎市)
利用時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、次世代のクリーンエネルギーとして期待される水素。川崎市臨海部は水素の供給側と需要側で核になる地域になりそうだ。液化水素を大量調達するための基地をつくり、将来は東京や横浜を含めた需要家にパイプラインで供給する構想が進展している。
5月には、2023年9月に高炉を休止したJFEスチール東日本製鉄所(京浜地区)の土地を転用し、水素基地の建設が始まった。同プロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)グリーンイノベーション基金(GI基金)事業に採択された「液化水素サプライチェーンの商用化実証」の一環。日本水素エネルギー(JSE、東京都港区)が主体となり、川崎重工業、大成建設、東亜建設工業の3社で形成される共同企業体に発注し、着工となった。同基地は貯蔵容量5万立方メートルの液化水素貯蔵タンク、海上荷役設備、水素液化設備などを備えた世界初の商用規模の施設となる見込みだ。
まずは国内で調達した水素ガスを同基地で液化し、大量貯蔵や海上輸送が商用規模で実行できるかなどを検証する。30年以降、海外から調達した液化水素を同基地で貯蔵し、国内の需要家にパイプラインで供給する技術の実現につなげる。
臨海部核に資源循環の仕組み創出
川崎市は15年に「川崎水素戦略」を策定するなど、水素の利用促進に積極的に取り組んできた。現在は「カーボンニュートラルコンビナート構想」を掲げ、臨海部を核に水素などクリーンエネルギーの利用促進や新たな資源循環の仕組みの創出を目指している。
将来は川崎臨海部に集積する発電所や製油・化学プラントなどで水素の利用拡大が期待されている。一方で水素の需要を広げ、大量の水素をどうきれいに分配して使い切るかは今後の重要な課題となる。市内立地企業も水素の利活用に高い関心を示す中、水素の利用促進に向けた企業間の連携促進がポイントの一つになりそうだ。
川崎市は企業間連携に向けたプラットフォームとして「川崎カーボンニュートラルコンビナート形成推進協議会」を22年に設立。臨海部に拠点を持つ企業を中心に約100社・団体が参画する。脱炭素に向けた課題の検討や連携プロジェクトの創出に取り組んでいる。
また市では企業訪問などを通じ、水素利用のニーズをヒアリングする取り組みを推進している。企業訪問を通じて供給側と需要側の企業のマッチングにも結びつける。さらに水素の需要を開拓するため、臨海部の立地企業向け勉強会にも新たに着手。水素利用機器などに関する最新の技術開発動向を立地企業に伝え、将来的な水素利用につながる設備の先行導入などの検討を促進する。
コンテナターミナル、CNP認証を取得/「レベル4+」の高評価
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CO2フリー電力で駆動する荷役機械を導入した川崎港コンテナターミナル
港湾の物流拠点となる川崎港コンテナターミナル(CT)の脱炭素化の取り組みも注目される。川崎港CTは国土交通省の「CNP(カーボンニュートラルポート)認証」を9月に取得した。CNP認証は環境対策に配慮した港湾のCTを客観的に5段階で評価して認証する制度で、今回は制度創設後初の認証となる。
全国5カ所のCTが認証を受けており、そのうちの1カ所として川崎港CTが認証を受けた。関東地方では初めてで、5段階中「レベル4+」の高い評価を受けた。
川崎港CTでは22年からCO2排出量実質ゼロのCO2フリー電力の導入を実施。インバーター制御方式によりCO2フリー電力で稼働するガントリークレーンなどを導入している。港湾内照明の発光ダイオード(LED)化も推進する。さらに、環境に配慮した船舶への入港インセンティブ導入などにも取り組む。
こうした市と指定管理者、ターミナルオペレーターの官民連携の取り組みが高い評価を受けている。川崎港全体のカーボンニュートラルコンビーナート構想に寄与する。CNP認証の取得を受け、今後さらに脱炭素化を重視する荷主や船会社などの企業から選ばれるCTとなることが期待されている。
脱炭素化へSDGs加速/事業者が交流 新たな価値創造
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SDGs推進に取り組む事業者の交流会を開催
脱炭素化や循環型社会の実現など、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みも加速している。川崎信用金庫(川崎市川崎区)は「川崎市SDGsプラットフォーム」の事務局として川崎市とともに、SDGsの普及・促進に向けた活動を展開。SDGsフォーラムや事業交流会を開催するほか、事業者の取り組み支援など、地域の発展を目指す。
7月には川崎市と横浜市でSDGs推進に取り組む事業者の交流会を川崎信用金庫本店で開いた。このような取り組みは初めて。川崎信用金庫が両市に呼びかけて実現した。市域を越えたマッチングの促進や事業者同士の新しい価値を創造するのが狙い。
両市からSDGsの認証を受けた事業者が参加。再生可能エネルギーや省エネルギー、リサイクル、生物多様性などをテーマに、グループに分かれ意見交換や異業種交流が行われた。
川崎信用金庫は川崎未来エナジー(川崎市幸区)、川崎市と連携し、脱炭素化に向けた取り組みを進める。4月に脱炭素先行地域内の店舗である高津支店(同高津区)、梶ヶ谷支店(同)は、川崎未来エナジーからの電力需給を開始した。使用する電力のすべてを地産地消の再エネ電力で運営する店舗として稼働している。
情報発信・人材育成を推進
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トキコシステムソリューションズは大阪・関西万博で水素ディスペンサーを紹介
川崎市内には先進的な製品や技術で脱炭素化に貢献する企業が集積する。脱炭素化や環境配慮への取り組みを市内外で情報発信したり、未来を担う子どもたちに伝えたりする取り組みも活発だ。
水素など流体の制御技術に強みを持つトキコシステムソリューションズ(川崎市川崎区)は9月、2025年大阪・関西万博で開催された水素がテーマのプログラム「水素パーク!!」内で、水素ディスペンサー「NEORISE(ネオライズ)」を出展した。燃料電池車(FCV)などへの水素供給で実績のある同製品の実物を展示し、水素ガス充填を模擬体験できる機会を提供した。体験コーナーは順番待ちの列ができるほど人気を集めた。一般市民に対して水素利用促進への理解を深め、関連する要素技術をアピールした。
川崎市では内陸部の高津区在住・在学の小学生とその保護者らを対象に、水素活用をはじめとする最新の環境技術を体験・学習できる「川崎臨海部見学会」を8月に開催した。水素発電を導入したホテル見学や燃料電池バスの試乗体験などを実施した。
またレゾナックは川崎事業所(川崎市川崎区)で、廃プラスチックのリサイクル工場見学と化学実験教室を組み合わせた小学生向けイベントを7月に開いた。夏休み中の小学生9人とその保護者らが参加。同事業所の社員がドライアイスやアンモニアを使った化学実験を提供しながら、実験材料の原料となる炭酸ガスや水素が廃プラから作られていることを紹介し、そのリサイクル工程を見学した。
