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川崎特集
市制100周年を迎えた川崎市。京浜工業地帯の中心地として日本の経済成長を支え、近年では先端分野の新産業の集積が進むなど産業都市として発展を続けている。一方で、産業発展に伴う環境問題に長年向き合った経験を踏まえ、「環境と産業の調和を目指す環境先進都市」としても存在感を高めている。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現に向け、市内から先進事例を創出する取り組みが進展している。
カーボンニュートラルに挑戦
地産地消の再エネ導入推進
溝口から全国へ、先進事例発信
川崎市は2050年の脱炭素社会の実現に向けて、20年に脱炭素戦略「かわさきカーボンゼロチャレンジ2050」を策定した。同戦略の一環で、脱炭素モデル地区として高津区溝口エリアを選定。同エリアで脱炭素化に寄与する先進的な取り組みを集中的に実施するとともに、市民にもその効果や利便性を伝えて行動変容を促進し、脱炭素社会の実現を目指している。
こうした取り組みは国からも評価され、22年に川崎市は「脱炭素先行地域」の指定を受け、高津区溝口エリアを中心とした脱炭素関連の取り組みをさらに加速している。
最近では、同エリア内の配送事業者の営業所で、地産地消型の再生可能エネルギーの導入を促進する取り組みが進展した。ヤマト運輸は、川崎市、川崎未来エナジー(川崎市幸区)と連携し、ヤマト運輸高津千年営業所(同高津区)の使用電力の100%を市内でつくられた再生可能エネルギー由来電力でまかなう取り組みを開始。営業所内の電気設備や集配用の電気自動車(EV)の充電などに使うすべての電気に地産地消型の再エネを活用する。ヤマト運輸の営業所では全国初という。
同営業所は市内のゴミ焼却施設で発電した電力を川崎未来エナジーを通じて調達するほか、自社の太陽光発電設備を活用する。ヤマト運輸は今回の取り組みを通じて脱炭素化と地域貢献を推進する狙いがあり、鈴木浩治川崎主管支店長は「地域での再エネの循環モデルを提案したい」と意気込みを語る。
川崎未来エナジーは川崎市が51%出資する再エネの小売り電気事業者。地域の廃棄物処理施設で発電した電力を調達し、川崎市内の需要家に供給する役割を果たす。供給先は市内の学校など200の公共施設。民間の事業者に電力を供給するのはヤマト運輸高津千年営業所のケースが初めてで、川崎未来エナジーの井田淳社長は「先進的な取り組みとして意義深い」と話す。
同営業所では配送業務用EVを夜間に一斉充電するため従来は電力コスト増が課題だった。また、太陽光発電だけでは電力が不足し、天候に左右される課題もあった。官民連携で地域の廃棄物発電由来電力と組み合わせることで、こうした課題の克服に成功した。
市民が排出した廃棄物がエネルギーに変わり、そのエネルギーが生活に身近な配送業務に使われことは、市民に再エネや脱炭素をアピールする絶好の機会にもなる。福田紀彦市長は「こうした取り組みをしっかり市民に伝え、好循環を生み出したい」としている。
プラスチック資源の循環を創出
一方、臨海部を中心にプラスチック資源の循環をつくり出す取り組みも進む。市は22年にプラスチック資源循環を目指すプラットフォームとして「かわさきプラスチック循環プロジェクト」を設立。市内をフィールドに市民、事業者、行政の協働によるプラスチック循環や拠点回収の取り組みを推進している。
同プロジェクトに関連し、市はレゾナックと連携して川崎港で回収した海洋プラスチックゴミを高度リサイクルする実証実験に取り組んでいる。同社川崎事業所(川崎市川崎区)の「川崎プラスチックリサイクル(KPR)事業」のケミカルリサイクル(CR)プラントを活用。川崎港の海面清掃で回収した海洋プラスチックゴミを高温でガス化して分子レベルまで分解し、水素などにリサイクルするための評価検証を進める。
ブランド認定で市内事業者の脱炭素促進
また市は、環境技術に優れた製品・サービスを「川崎CNブランド」に認定する事業に取り組んでいる。同事業は、原材料調達から廃棄までのライフサイクル全体で二酸化炭素(CO2)を削減するとともに、市民の行動変容や他の事業者の模範となり、さらなる環境意識向上に波及効果がある製品・サービスを認定するもの。同事業の主催は「川崎CNブランド等推進協議会」で、川崎市と川崎商工会議所、川崎信用金庫、川崎市産業振興財団、産業・環境創造リエゾンセンターで組織する。
24年度の同ブランド認定製品として、計測技術研究所(川崎市幸区)の「Eneーphant series 回生型電源(双方向)」など9件の製品・サービスを認定し、「第17回川崎国際環境技術展」内で認定式を開いた。認定製品には同ブランドのロゴマークを付与し製品PRに活用されるほか、同推進協議会の構成団体や関連団体が広報活動を支援する。
そのほか市は、金融機関や産業支援団体と連携して「川崎市脱炭素経営支援コンソーシアム」を23年に設立。脱炭素経営を支援する人材の育成などに取り組むことで、市内中小企業の脱炭素化を支援している。