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関西発―次世代産業への取り組み(1)
2025年に開かれる「大阪・関西万博」を控え、関西の多くの企業では”次世代産業”への取り組みが目立つ。脱炭素・環境対応やデジタル変革(DX)、新素材開発など幅広いテーマの下、未来社会を切り拓く挑戦が今、加速している。そんな各社の動向を追った。
パナソニックHD/キナリで石油由来材削減
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京都府福知山市で使い始めた「kinari」の学校給食用食器(パナソニック提供)
パナソニックホールディングスはグループ全体の環境行動計画「パナソニックグリーンインパクト」を掲げるなど、地球環境問題の解決を重要な事業課題の柱に据えている。グループ各社の多様な製品で環境負荷低減に取り組むことに加え、新たな技術開発も進める。その一つがセルロースファイバーを樹脂に混ぜた新材料「kinari(キナリ)」。石油由来材料の使用量を削減できると注目を集めている。
キナリは55%以上の高濃度でセルロースを樹脂に混ぜ込み、軽量で高強度を実現する。間伐材や廃紙、果実などの搾りかす、コーヒーかす、わら、天然繊維の衣服など、植物由来の廃棄物をセルロースの原料として有効活用できる。
通常のプラスチック同様に成形し着色もできるが、元の原料によって異なる色や香りなどの個性を残したいという要望も多いという。
活用事例として京都府福知山市の同市立小中学校向けの給食用食器がある。2学期の給食が始まった9月4日から計23校で約6700セットの使用を始めた。同市内の森林間伐材を原料にトレーや皿、茶わんなど食器一式を福知山市と共同開発した。地元由来の材料を使うことで地域特有の環境教育も合わせて行っている。
大阪ガス/スペースクール核に事業化加速
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今春オープンしたショッピングモールでも「COOL分電盤」が採用された
2年後の夏、もし猛暑が大阪を襲ったなら、大阪・関西万博のガスパビリオンが展示内容以外でも注目されるかもしれない。放射冷却素材「スペースクール」を採用した膜構造建築物だからだ。パビリオンを覆い尽くす同素材は、太陽光を反射させる遮熱と、熱そのものを電磁波として宇宙空間に逃がす放射冷却を両立したことが特徴で、大阪ガスの光学制御技術で実現した。
地球上では、太陽光からの入熱が放射冷却による出熱を上回る昼間は気温が上がり、夜間はその逆。スペースクールは放射される出熱を増やすことで、太陽光が降り注ぐ昼間であっても温度を下げる仕組みだ。大阪ガスによる実証実験では真夏の直射日光が当たった状態で、表面温度が外気温より最大で約6度C低くなった。
大阪ガスはスペースクールの事業化を、米ベンチャーキャピタルのWiLとの合弁でスタート。事業化のスピードを上げるのが狙いで、22年には配電盤メーカーと共同で暑熱対策用屋外分電盤「COOL分電盤」、23年に入ってからは折板屋根用のサンシェードや、土木建築現場用仮設資材など社外パートナーと組んで相次いで商品化した。中東などでの実証実験も計画し、事業はグローバルに拡大しそうだ。
エア・ウォーター/低濃度のCO2回収・利活用
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エア・ウォーターのCO2が回収・利活用できる「ReCO2STATION」
エア・ウォーターは地球環境とウェルネスの2分野を成長軸に据える。地球環境分野では政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向け、脱炭素技術に取り組む。22年5月、脱炭素の象徴的な製品を発表した。工場の排ガスなどから低濃度の二酸化炭素(CO2)を回収し有効利用できる装置「ReCO2STATION(レコステーション)」だ。
21年4月、技術開発部門に「CO2回収事業化プロジェクト」を発足。長年の産業ガス製造・エンジニアリング技術や炭酸ガス・ドライアイスメーカーの知見を生かし、開発に挑んだ。独自の吸着分離技術でCO2を回収し、そのCO2から炭酸ガス(気体・液体)、ドライアイスを製造できる装置を1年強で完成させた。設置・搬送がしやすいよう、40フィートコンテナサイズにしたのも特徴。
同装置はグループの日本海水の赤穂工場(兵庫県赤穂市)で実証した。同社のバイオマス発電所の燃焼排ガスから低濃度のCO2を99%程度回収し、それを原料にドライアイスを製造して顧客へ提供。性能に問題がないことを確認した。CO2削減と炭酸ガス・ドライアイスの地産地消にもつながり、今後の導入拡大が期待される。