-
業種・地域から探す
続きの記事
11月29日開幕 2023国際ロボット展(2023年11月)
いま ロボットに期待されるのは何か
ロボットには、「“要領よく”仕事を覚えてくれ=【覚え】、“上手に”作業をこなしてくれ=【役立ち】、“十分に”稼いでくれる=【稼ぎ】こと」が期待されている。ここでは製造、食品、物流、施設、建設、農業、そして福祉分野におけるロボットの現状、期待、課題を【覚え】【役立ち】【稼ぎ】の観点から整理する。図はここで議論するロボットの働く場【稼ぎ】と、ロボットシステム【役立ち】と、ロボットに教えるのは誰か【覚え】を示したものである。
ロボットの現状と今後の方向性
ロボットが働く場は、歴史的にも、製造大企業から中堅・中小製造企業へと範囲が拡大し、今後、食品・医薬品・化粧品の三品企業、物流企業、店舗、建設、一次産業へと展開、さらに病院、介護施設、グループホームへ拡大することが期待されている。そのようなロボットの使いこなしの事業者として、モノづくり場面では、大企業の生産技術部の部隊やラインビルダーが存在していた。
最近はロボットシステム構築企業(SIer)が顕在化した。それ以降の分野では、SIerがいないことが図示されている。この育成がロボットの社会実装には不可欠である。さらにこの図では、ロボットが活躍する社会づくりは、モノづくりを含む“なりわいづくり”と“くらしづくり”と“ひとづくり”からなるまちづくり活動が必須であり、かつ、この日本で実現された日本式モノづくり現場は、安全安心社会現場とともに、世界に輸出できることを描いている。
ロボットへの「要領よく『仕事を覚えてくれる』期待」の現状は、ロボットの作業教示に専門家が手間暇かけている。近い将来には、ロボットメーカーは素人でも作業教示できるロボットを実現することになろう。一方SIerは、シミュレーターを活用して教示時間を短縮し、さらにロボットシステムに豊かなデジタルツインを持たせ生成人工知能(AI)を活用することで、容易なロボットへの作業教示やシステム改善を可能にするだろう。
ロボットへの「上手に『作業をこなす』期待」に関しては、ロボットの作業能力は残念ながら、「遅い、信頼性がない、コストが高い、できない」など不十分であることが多いのが現状である。その一方で、ロボット使いこなしの業界として、日本ロボットシステムインテグレータ協会の会員企業がきめ細かなロボットシステム構築を事業として発展しつつある。将来的には、付加価値を可能とする顧客課題を解決するモノづくり(ソリューション・モノづくり)の中堅・中小企業をロボット化する先導部隊として発展する。
ロボットが「十分に『稼ぐ』期待」に関しては、産業用ロボットは1兆円の産業に成長した。サービスロボットでは、まだロボットの職さがし(=事業化やエコシステム構築努力)が模索されているのが現状である。今後は事業化へのコンセプト実証(PoC)実験を脱し、バリューチェーンやエコシステム構築が、まちづくりの一環として進められ、ロボットの社会実装が実現されよう。
産業分野ごとの開発トレンド クリアすべき技術課題、制度上の検討項目
―製造―
現状の産業ロボットは、溶接、塗装、組み立ての領域で活躍している。今後は中堅・中小企業へのロボット導入が中心課題である。
モノづくり分野では、若い人が採用できない、付加価値が大きくないなどの課題を抱えている。ロボット導入により、働き方改革、つまりワーカーからロボットの使い手エンジニアへの職種転換が図られれば、若い人にとって魅力的な職場となるし、顧客の課題を解決するソリューション・モノづくりへの展開も容易になろう。そうなれば「1980年代においてモノづくり産業に育てられたロボットの、2020年代におけるモノづくり産業への恩返し」(経済産業省ロボット政策室長談)が実現する。
その決め手は、素人でもロボットに働き方を教示できるロボットの実現(これはロボットメーカーの責任)【覚え】と、ロボットフレンドリーの概念に基づいて改善を集積・統合することによるきめ細かな個別ロボットシステムづくりの実現(これはSIerの責任)である。そこでは、(a)ユーザーとSIerがシミュレーターを共有することにより打ち合わせを効率化したり【人間側の覚え】、(b)ユーザーの困りごとへのソリューションを与えるロボットとロボットシステムの構築【役立ち】を可能にしたり、(c)構築システムやその要素をロボフレ要素として共通化し、横展開できる商習慣、情報集積・活用法の実現が求められる【稼ぎ】。
―食品―
三品分野では、医薬品、化粧品、食品の順で高価なものを扱うため製造分野で述べたことから遠ざかるので、ここでは食品分野を扱う。大手、中堅の食品会社では、食品製造には自動化機械が多用されており、現状ではロボットは、その“前さばき”や“後さばき”作業に関わることが多い。現状では、ポテトサラダの盛り付けロボットが実用されつつある。製品を小売店に配送するための仕分けロボットは実用されている。
もともと食品業界の作業は人手で実施されていたこともあり、そのロボット化は、自動化・省力化という意味で、人手不足に貢献するし、人にとっては厳しい保冷滅菌環境における過酷作業から解放される。しかしながら、食品業界では、多様な食物が扱われており、柔軟物を扱う多様な作業技術が求められる。そして、対象や作業ごとにそれぞれに応じた多様なハンドを装備したロボットシステムが求められる【役立ち】。その作業教示においては、作業ごとにことなる実施ノウハウをロボットに教示しなければならない【覚え】。さらに、大手スーパーやコンビニエンスストアや多様な小売店のニーズに応じられる、販売法も含んだエコシステムの構築が求められる【稼ぎ】。
―物流―
現状の物流ロボットは工場では無人搬送車(AGV)、自動走行搬送ロボット(AMR)として、倉庫ではGtP(グッズ・ツー・パーソン=棚を動かすロボット)として活躍している。このような搬送ロボットの方向性は、前述した製造分野と共通部分も多いのでここでは省略する。
その一方で、屋外の物流ロボットはこれからの有望な分野と期待されているが、多くの課題を抱えている。現状の物流業界には、6万3000の事業者が存在し、ある意味バラバラにサービスを提供している。それゆえ2024年物流問題もありなおのこと、例えば「フィジカルインターネット(PI)」のような指導原理、コンセプチャルな方向付けが求められている分野である。
PIは情報世界で有効活用されているパケット通信の概念を、現実の荷物の輸送で実現しようというものである。実現における重要なコア要素がロボットになることは疑いの余地がない。この信念のもと、物流拠点でのハンドリング作業や、屋外搬送(物流プロセス)への適用における課題を解決しなければならない。もちろん扱う物品の標準化や、物流設備やロボットのソフトウエアの標準化がその第一歩となる。
その上で、さまざまな事業者を包含したバリューチェーン構築をめざした社会実装活動が次に重要となる。その際には、荷物輸送に関して新たな価値を提供するサービスの考案が必須であり【役立ち】、その一方で、地域における物流をデザインし運用にまでもちこむSIerの育成とその技術支援が求められる【覚え】。さらに、配送ロボットオペレーションにおける遠隔操作技術の高度化による運用コストの低減とともに都市圏での活用において、エコシステムとしての成功事例を創り出すこと【稼ぎ】が求められる。
―施設―
近頃、チェーンレストランにおいて配膳ロボットをよく見かける。いち早く、大きな投資をし、量産体制までもってきた中国製のロボットが席巻しているといっても過言ではない。それにしても、エンタメ的な側面を持つ、人と共生するロボットが実用レベルにまで育ったことは、サービスロボットの今後を考える上で、メルクマールな出来事であった。
さらに最近では、高層オフィスビルや大型小売店舗、病院、空港などの施設でも、掃除ロボットや人や物の運搬ロボットが働いているのをみかける。将来は、案内ロボットや警備ロボット、品出しロボットが、社会実験の段階を超えて、実用的に利用されよう。
複数のマルチベンダーロボットが連携して、施設におけるインフラ労働をこなし、人手不足を補うことが期待されている。この際、日本人が得意とするきめ細かなサービスの実現が、この分野で日本の存在感を示すカギとなる。このような多様な場において、ロボットがきめ細かく的確に働けるようにする主体は、いわゆるサービスロボットのSIerである。が、現状では、その数は少ない【覚え】。それとともに、作業をロボット化した場合、そのメリットがその作業を請け負っている下請事業者にとってもメリットになるのでないと普及しない【役立ち】。また、真の普及期を迎えるためには、施設にいる人や施設管理者が支払うお金に見合う価値をロボットが生み出せるかどうか、その説得と納得が得られるかどうかが課題である【稼ぎ】。
―建設―
1990年代の建設ロボットのように、大手のゼネコンが各社それぞれのロボットを作るのではなく、RXコンソーシアムのもと、複数の事業者が協力して、建設ロボットを社会実装する動きは、3K現場、苦渋作業でもあることから人手不足にも陥りやすいこの業界、さらに労働者の高齢化に悩むこの業界課題に対して、タイムリーで有効な活動である。さらに、建設資材がエレベーターの前に置かれたとき、その部材をこれから作業が始まる現場まで運搬する作業や、作業終了時の掃除作業、仕事中の作業員に飲料を届けるといった、建設作業からみるとバックヤード的な作業の実施によって役立つようにする活動である点も、実際的で興味深い。
将来的には、墨付け作業や高所作業をはじめ建設に関わる作業のロボット化が進展するものと思われる。その一方で、ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)との連携による作業教示や作業管理の効率化【覚え】、多様な苦渋作業からの解放を可能にするロボットの開発【役立ち】、そして下請け事業者を含むエコシステムの構築【稼ぎ】が課題である。
―農業―
生育状態を見ながら水や飼料を散布するなど農業機械のロボット化が進んでおり、草刈りロボットなどが実用されている。将来的には、耕作放棄地の利用や、農業の6次産業化をロボットなどを活用して実現することが行われる。
人手不足対策や苦渋作業対策、そして農業のスマート化にロボットが有効である。ロボットにも実施しやすい農作業を考え教示すること【覚え】、ロボットにより、人が担う作業の軽労働化が実現されれば効率生産農業への道が開け、農業におけるトレーサビリティーが実現されれば、6次産業化が容易になる【役立ち】。ただ、農作業には季節性、地域性があり、これを克服できるエコシステム、レンタルやサブスクなどのようなビジネスモデルの構築が求められている【稼ぎ】。
―福祉―
福祉分野では、ベッドモニターや、ベッドから車いすへの移乗シート、リフターなどの道具・装置が現状では有効に活用されている。
これらのものは、被介護者の尊厳を守りながら、そのQoL(生活の質)を向上させ、かつ、介護者の健康を守りつつ仕事を楽にしてくれるからである。その一方で、パワースーツなどは、その着用に時間がかかったり、装着すると、非介護者を移乗する作業の前後に行われる被介護者のシーツを剝いだり、靴下を履かせたりする作業が阻害されるといった理由で、活用は進んでいない。
これからのロボットとして筆者が期待しているのが、ケア使い走りロボットである。このロボットは見守り(どこでもモニター、覚えてくれているケア)、元気づけ(エンカレッジ)、翻訳(外国人労働者対応)、運搬作業(洗濯物、ちょっとした届けもの)、案内(対施設訪問者)などをこなすべきであり、生成AIが可能にすると考えている【役立ち】。これによってロボットの稼働時間が長くできるし、生きる一個の存在としての人間のWell-being実現のためにも、このような統合サービスの実現が求められる。
ただし、このようなロボットが今後、施設などに導入活用されるためには、その前提条件がある。それは、施設において、施設メンバーの働き方を分析し、特定の曜日と時間に集中する仕事のピーク時のみに外部からの助っ人をいれるなどにより、施設の収支を改善するとともに、施設長と従業員の意思疎通が図られ、介護の質を高めようとする雰囲気や、ロボットや機器を導入するリテラシーを向上させておくことが、ロボット導入の前提条件である。
このような施設の収支改善と介護への意識変革が、これからのロボットの使いこなしを加速する【人間側の覚え】。また、福祉事業のステークホルダーとしては、被介護者を中心として、家族・親戚が存在し、介護側には施設の従業員・施設長・関連地域サービス事業者がいる。
専門家としては、ケアマネージャー・医師もおり、広範囲である。さらに、人手不足を解消する手だてとして、地域住民、外国人労働者の参加も求められる。
福祉分野においては、このような多様なステークホルダーから構成される地域コミュニティービジネスとして取り組んで、バリューチェーン、エコシステムを構築することが望まれている。これは、まちづくり活動として取り組めれば、より実効的になる【稼ぎ】。
結び 覚え・役立ち・稼ぎ―ロボット社会実装大国の道
「要領よく仕事を覚えて【覚え】、上手に作業をこなし【役立ち】、稼いでくれる【稼ぎ】」ロボットへの期待が実現すれば、今世紀(21世紀)は、ロボットの世紀となる。そして、生成AIは人とロボットの対話能力を飛躍的に向上させ、人間との協調能力を強化したロボットの進化形である“コ・ロボット”を可能とし、素人でも作業を教示できるロボットをもたらす【覚え】。近い将来のロボットにおける技術革新は、生成AIを中心に物理世界を巻き込んで展開する。その活用によるSIerの強化は、上手に“作業”をこなすロボットシステムを増加させる【役立ち】。
まちづくりは、稼いでくれるロボットを地域から可能にする【稼ぎ】。これが、ロボット大国日本を、ロボット社会実装大国に生まれ変わらせる原動力になる。
このことは必然的に、日本がコ・ロボットとその使いこなしを“ロボフレブランド”のもと、パッケージとして世界に提供する「モノづくり現場」と「安全安心社会現場」の輸出国となることにつながる。
これは、1980年代の工場を世界展開していた大企業を中心とした輸出とは異なって、大企業によって守られた中堅・中小企業やSIerを中心とした新しい輸出形態となる。ぜひともこれらが実現することを期待したい。
【執筆】
東京大学 名誉教授
佐藤 知正