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4月18日 発明の日
4月18日は「発明の日」。1885年4月18日に、現在の特許法の前身である「専売特許条例」が公布されたことに由来する。特許や意匠、商標など産業財産権の普及・啓発を目的に制定され、日本の産業発展の礎となった。技術進化や産業構造が大きく転換している現代、知的財産権の重要性は増している。競争力の源泉となる知財の創出や保護、活用のあり方について、あらためて考えたい。
意匠・商標の新潮流 制度改正のポイント
企業活動の実態に即し柔軟に権利化
【執筆】
Markstone 知的財産事務所
代表弁理士 中村 祥二
この10年の間に保護対象が拡充した意匠法と商標法について、今年は制度利用の利便性の向上につながる法改正が施行された。意匠法では新規性喪失の例外の適用要件の緩和、商標法では他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和とコンセント制度の導入だ。これらは企業活動の実態に即して柔軟に権利化を図る手だてを提供するもので、知的財産の保護促進や手続きの生産性向上が期待される。
【意匠法】 新規性喪失の例外の適用要件の緩和
意匠権は新しいデザインを保護する権利だ。この「新しい」という要件は新規性と呼ばれ、開発した製品デザインを自社のウェブサイトなどで公開しただけでも新規性を失い、意匠権を得られなくなるのが原則だ。
しかし、自社の公開行為によって意匠権を得る機会を即座に失うことはあまりにも酷である。それゆえ、公開後1年以内であれば「新規性喪失の例外」という例外規定の適用を受けることで、自社の公開行為を新規性喪失の事由にせずに審査を受けられる救済措置が設けられている。
ただし従来は、新規性喪失の事由が複数回発生した場合、そのすべてを特定して、新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を意匠出願から30日以内に提出しなければならなかった。例えば、最初の公開行為から1年以内に、雑誌への広告を複数回掲載したり、会員制交流サイト(SNS)での情報発信を不定期に行ったりした場合、それらの行為全てについて証明書を作成しなければならなかった。
SNSなどでの情報発信が一般的になった今日では、すべての公開行為を網羅的に把握し、意匠出願から30日以内に証明書を提出することは大きな負担となっていた。過去には、新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出していたにもかかわらず、証明書の対象から漏れていた公開行為に基づいて新規性なしと判断された事案も散見されていた。
今回の改正で、複数の公開行為があった場合、各公開行為で公開された意匠が同一または類似であれば、最も早い日の公開行為についての証明書を提出すれば、後の行為については何ら手続きを要せず、新規性喪失の例外の適用を受けることができるようになった。
この改正により、すべての公開行為を網羅的に記録したり、過去の公開行為を確認したりする負担が減るほか、自社の公開行為による拒絶や無効のリスクを低減できる。デザインの重要性が増している今日において、この改正はデザイン保護の促進につながるだろう。
なお、今回の法改正によっても新規性喪失の例外の適用を受けるための手続きは必須であり、怠ると意匠権を取得できない。米国では何らの手続きを要せずに自己の公開行為が救済される法制度となっている。さらなる利便性の向上のためには、出願時の手続の要否についても検討が進むことが期待される。
【商標法①】 他人の氏名を含む商標の登録要件緩和
商標法では、商標の構成中に他人の氏名を含むものは、その他人の承諾がない限り、商標権を得られない旨が規定されている。この規定は、個人の人格的利益を保護する制度として位置付けられ、近年厳格に運用されてきた。
例えば、氏名のローマ字表記であっても、漢字の読みにおいて同姓同名の他人が現存する場合には、その他人の承諾を得なければ商標権を得られなかった(【過去に登録が認められなかった事例】参照)。
一方で、創業者やデザイナーなどの氏名をブランド名に冠することが多いファッション業界では、この規定の影響で十分なブランド保護が実現できない状況が生じており、要件緩和の要望が高まっていた。そこで導入されたのが今回の改正である。
改正法によると、商標に含まれる氏名について、同姓同名の他人が存在しても、その他人が一定の知名度を有せず、かつ、商標に含まれる氏名と出願人との間に相当の関連性があること、および不正目的がない場合には、他人の承諾なく、商標権を得られることになった。
従来の商標審査では、ウェブサイトや新聞などに掲載された会社代表者や国会議員、地方議員など、同姓同名の他人の存在を理由に拒絶されることがあった。だが今後は同姓同名の他人がいたとしても、その他人の知名度が低ければ拒絶されないことになる。
一方で、出願人本人とは無関係の第三者が他人の氏名を先取り的に権利取得する可能性があることから、商標の構成に含まれる氏名と出願人との「相当の関連性」や「不正目的がないこと」の要件が加重されることになった。「相当の関連性」とは、自己の氏名のほか、企業の創業者・代表者の氏名や出願人の商品に使用するキャラクター名であることなどが該当する。
この改正により、ファッション業界を代表に、これまで実質的に保護が困難であった氏名からなるブランド名の権利化が促進されるだろう。
【商標法②】 コンセント制度の導入
商標権の取得は早い者勝ちが原則だ。先行して他人が同一または類似の商標について商標権を保有している場合には、後から出願した者は商標権を得られない。
コンセント制度は、そのような先行商標が存在する状況でも、先に商標権を保有している権利者から併存の同意(consent)を得ることで、後から出願した者にも商標権の保有が認められる制度だ。商標が類似するかどうかは、特許庁の審査官が出願された内容から半ば形式的に判断する。その判断に対して、当事者同士が二つの商標が併存しても実質的に問題ないと合意した場合には、登録を認めるというものだ。
米国や台湾など、海外では以前から実務上用いられていたが、日本では法制度が整備されていなかった。これまでは当事者間の合意がある場合、出願の名義を一時的に先行商標の権利者と一致させる、いわゆる「アサインバック」という2回の譲渡手続きを経る対応が必要だった。コンセント制度の導入により、そのような回りくどい手続きをせずとも商標権を得られる点でメリットがある。
ただ、今回導入されるコンセント制度は、当事者が合意するだけで登録が認められるというものではない。
当事者の合意に加え、審査官が現時点に加え将来も混同を生ずるおそれがないと判断できなければ登録が認められない制度となっている。コンセント制度によって、似た商標が市場に併存し、消費者が両者を取り違えてしまう可能性が増すことを考慮した要件だ。
将来も含めた混同のおそれを説明するために当事者間の合意内容などを審査官に示す場面も想定されており、合意の内容次第では、先行商標権者と出願人の将来の事業の制限になる可能性もある。
そのため従来どおり、初めから他者と混同を生じない商標(=他者からの同意なく登録できる商標)を採用し、出願するということが原則であることに変わりはないだろう。