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瞬低・停電 対策技術
瞬間的に電圧が低下する「瞬低」は、精密で高感度な機器を備える施設に大きな被害を与える。生産設備に影響を与え、気づかないうちに不良品が発生していることもある。生産活動や営業活動を安定的に継続させるためには、瞬低への対策が重要だ。
0・01秒に備える
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落雷による短絡は瞬低の原因となる
瞬低とは「瞬時電圧低下」の略で、0・01秒から2秒程度のごく短い時間、定格電圧を下回る状態になる現象を指す。長くて1分程度電圧がゼロとなる「瞬停」とは異なる。
瞬低は雷や雪、暴風雨、台風の日などに多く発生する。こうした日には送電線に故障が起こりやすい。例えば落雷により発生する短絡のほか、強風による送電線の振動、送電線から着雪が落下する時の跳ね上がりなどにより、故障が起こる。
電力会社は異常を瞬時に検知し、故障箇所を切り離して正常な系統に切り替えて再び送電する。この間わずか0・07秒から2秒程度だが、その間は電圧の低い電流が流れてしまう。電圧異常を検知してから対処するため、瞬低の発生をなくすことは難しい。
瞬低の発生頻度は一つの施設に対して年間5回程度といわれている。雷多発地域では10回程度、多ければ20回以上発生することもある。自然現象である雷や雪、強風などの影響を防ぐことはできない。電力を使う側が瞬低の影響を許容する、または影響を受けないように自衛する必要がある。
半導体装置—被害深刻/製造工程複雑・精密
パワーエレクトロニクスを使用した機器やシステムは、電圧の低下に敏感に反応する。電圧低下に対する許容度が低いため、瞬低によって直ちに機能を停止してしまう可能性がある。
半導体製造工場で瞬低への対策をしていなかった場合、被害は深刻となる。半導体製造のウエハープロセスでは複雑で精密な製造工程を何度も繰り返し、工程数は数百から1000を超える。そのため、ウエハー製造には数週間から数カ月を要する。この間で一瞬でも電圧が低下すると、精密な制御ができなくなり、製品の品質保証が難しくなる。処理中の高価なウエハーが不良となり、廃棄される場合が多い。
またクリーンルームの装置が止まることでクリーン度が下がりコンタミ(不純物)が混入するリスクや、装置再起動に時間がかかり稼働ロスが発生するリスクがある。経済的損失が膨大であるため、半導体製造工場では瞬低対策が必須となる。
不良品、原因は瞬低⁉
瞬低の多くは0・2秒以下で、ほとんど気づかれていない。例えば加工の現場では、工作機械のモーターの回転数が低下して、一時的に切削条件が変わってしまう。そのため狙った精度が出ない。原因不明の不良品が実は瞬低によるものであったというケースは多い。
瞬低は電圧低下率と継続時間の二つの要素から、さまざまな機器に影響を与える(図)。パワーエレクトロニクス応用可変速モーターでは、20%程度の電圧低下が0・01秒続くと停止などの影響が発生する。これにより制御されている上下水道用ポンプ、エレベーター、ファンなども停止する。電磁開閉器(マグネットスイッチ)は工場のモーターの大部分に使用されている。50%程度の電圧低下が0・01秒続くとモーターが停止し、生産ラインが停止する場合がある。故障発生から故障の除去までの電圧低下時間は、短くても0・07秒程度なので、図にあるように多くの機器が影響を受ける。
補償装置で瞬低カバー
瞬低補償装置の導入を検討するにあたり、年間の瞬低による損失額と補償装置のコストを比較する。年間で瞬低が発生した際に被る損失額が、補償装置の導入費用を耐用年数で割った年間コストを上回る場合、装置を導入したほうが経済的に有利だと判断できる。
瞬低補償装置は常時入力電源を監視することで瞬低を瞬時に検出し、瞬低発生時には商用電源から切り離す。同時に補償対象となる装置に給電して稼働停止を防ぐ。常時商用給電により装置内のコンデンサーに充電し、瞬低発生時にはコンデンサーから不足電圧を供給して対象負荷に一定の電圧を供給する。
瞬低補償装置にはさまざまな仕様があるので、導入の際には自社にどのような設備があり、どこまで補償したいかを専門業者に伝え、適切な組み合わせを提案してもらうことが肝要だ。
UPS—非常時に電力
日本は電力会社の設備強化やメンテナンスの徹底により、停電は減少している。しかし台風や地震など災害による局地的な大規模停電が発生しており、依然として停電のリスクは存在する。
瞬低補償装置は2秒以下の電圧低下を補償するのに対し、停電補償装置(UPS)は蓄電池を内蔵し、5分程度の補償動作を行う。瞬低に加えて停電にも備えるには、UPSで対策を取るとより安心だ。UPSは停電時に5分程度、対象機器に給電することでユーザーに時間的猶予を与える。ユーザーはその間、通常のオペレーションで機器を停止させることで停電の被害を防げる。
ニチコンは瞬低補償装置とUPSを製造する。北陸電力と共同で基礎技術を開発しており、北陸電力が保有する瞬低発生装置により多様な評価試験を行っている。瞬低補償装置は繰り返しの充放電に強く、サイクル寿命が長いという特徴を持つ。いずれも蓄電部は15年と寿命が長く、保守メンテナンスを削減できる。