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瞬低・停電対策技術
瞬間的に電圧が低下する「瞬低」(瞬時電圧低下)の主な原因は落雷。瞬低は精密で高感度な制御装置や、高度な情報通信機器を備える施設に対して甚大な被害を与える。場合によっては企業活動を停止せざるを得なくなることもある。安定して生産活動や営業活動を継続させるには、瞬低への対策が重要だ。
瞬低ー生産現場に重大な影響
半導体ー製造ライン停止も
瞬低は2秒以内のごく短い時間、電圧が低下する現象。長くて1分程度電圧がゼロとなる「瞬停」とは異なる(図1)。
電気系統で瞬低や停電が発生する主な原因は落雷だ。落雷による電力系統の瞬低・停電は小規模落雷の場合、雷の電流は架空地線(避雷線)から鉄塔を経由して大地に流れるため、異常は発生しない。
一方、大規模落雷の場合は大きな雷電流で鉄塔の電位が大幅に上昇すると、ガイシにかかる電圧が耐電圧を超えて、故障が発生してしまう。電力会社は異常を瞬時に検知し、その系統を切り離して正常な系統からの送電に切り替えることで、再び送電する。この間わずか0・07秒から2秒程度であるが、その間は定格電圧が下がった電流が流れてしまう。電圧異常を検知してからの対処となるので、瞬低の発生をゼロにすることは難しい。
瞬低の発生頻度は停電より圧倒的に多く、一つの施設に対して年間5回程度といわれている。雷多発地域では10回程度、多ければ20回以上発生することもある。継続時間は全国的に0・2秒以下の場合がほとんどだ。
自然現象である落雷の影響を防ぐことはできず、電力を使う側が瞬低の影響を受けないように対策を講じる必要がある。
瞬低・停電が生産活動に及ぼす影響について見てみる。瞬低の場合、家電製品などはほぼ影響がない。一方、高度に制御された先端・精密部品の生産現場では影響が大きい。
例えば、半導体製造などは製造プロセスの多くが極微細で超精密、デリケートな制御を必要とする。電磁開閉器やロータリーエンコーダーなどは本来、瞬低に対する耐性は高くないため、電圧低下が発生した際にはメインコンダクターが開いてしまったり、チャクタリングを発生させてしまう。結果的には電源やドライブのフロントエンド整流器部分の損傷につながり、生産ラインが停止するおそれがある。また生産中であった仕掛品を廃棄せざるを得なくなるなど、さまざまな損害が生じる。
瞬低は電圧低下度と継続時間の二つの要素から、さまざまな機器に影響を与える(図2)。例えば、パワーエレクトロニクス応用可変速モーターでは、20%程度の電圧低下が0・01秒継続すると停止などの影響が発生する。これによりモーターが駆動するポンプ、エレベーター、ファンなども停止する。
電磁開閉器は工場のモーターの大部分に使用されている。50%程度の電圧低下が0・01秒継続するとモーターが停止する場合がある。その後複数のモーターの再始動を一斉に行うと、始動電流により大きな電圧低下を引き起こすことがあるため、注意が必要だ。
高電圧放電ランプでは20%程度の電圧低下が0・05秒程度継続すると、消灯してしまう。いったん消灯するとランプが冷却されて内部蒸気圧が低下するまで、十数分程度の再点灯時間を要する場合がある。
故障発生から故障の除去までの電圧低下時間は、短くても0・07秒程度なので、多くの機器が影響を受ける。瞬低は起こりうることとして発生する損失を許容するか、しっかりと対策を施すか、企業の判断となる。
万能タイプーUPS 補償装置で瞬低カバー
瞬低・瞬停・停電の全てを対策できる「無停電電源装置(UPS)」の導入が最も有効だが、コストやスペース面から導入が難しい場合、瞬低のみをカバーする瞬低補償装置も対策として有効だ。どちらも電池やコンデンサー(キャパシター)などの蓄電デバイスを搭載し、入力電源異常が発生した際に、電源を供給する機器(負荷機器)に対して安定的に電力を供給する。
瞬低補償装置とUPSの大きな違いは蓄電デバイスだ。瞬低補償装置には主に電気二重層コンデンサー(EDLC)が用いられ、UPSには鉛蓄電池やリチウムイオン電池(LiB)が用いられる。
ニチコンは瞬低補償装置とUPSを製造・販売する。ニチコン草津フィルム・装置グループフィルム装置技術課の青木智志主任は、「北陸電力と連携し、基礎技術を共同開発しているのが当社の特徴」と話す。北陸電力が保有する瞬低発生装置により多様な評価試験を行っている。例えば、瞬低試験では繰り返し瞬低、三相平衡瞬低などの試験、瞬低を伴わない試験では負荷急変、電圧不平衡などの試験だ。これらの性能試験をクリアし、「多機能を持った製品を生み出している」(青木主任)という。
またコンデンサーはニチコン大野(長野県安曇野市)で製造している。「ニチコンで完結するため、安定供給が可能。さらに保守やメンテナンスの部分でカスタムしやすい」(青木主任)としている。
萩原テクノソリューションズはジェイテクト製のリチウムイオンキャパシター(LIC)をUPSに採用した。LICは正極材料にEDLCと同様の活性炭、負極材料はLiBと同様の炭素で構成されている。LiBの電気を多く長期間蓄えられる特性と、EDLCの電気を素早く流せて寿命が長いという特性を併せ持つ。
従来のUPSで課題となっていた消耗や劣化によるバッテリー交換の手間を回避し、10年以上メンテナンスが不要となる。