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産業洗浄
産業界で活躍する洗浄技術—ファインバブルが招く環境負荷低減型洗浄
【執筆】 新潟大学 自然科学研究科 材料生産システム専攻 准教授 牛田 晃臣
産業界で薬品使用量の削減と高い洗浄性能の両立が求められる中、目に見えない微細な泡「ファインバブル」が注目を集めている。ファインバブルは国際標準化機構(ISO)で定義され、気体の溶解効率が高いなどの特徴を持つ。ここでは、幅広い分野で応用が進むファインバブルの事例と有効性を紹介する。
“薬剤頼り”の洗浄方式脱却へ
産業界では環境負荷の低減や作業者の安全確保、排水処理コストの削減など、現場で抱える多くの課題を背景に、“薬剤頼り”の洗浄方式からの脱却が共通テーマとなってきた。
こうした中、目では確認できないほど微細な泡「ファインバブル」の利用が注目されている。ファインバブルは粒径100マイクロメートル未満の微細気泡の総称で、特に1マイクロメートル未満の気泡は「ウルトラファインバブル(UFB)」として分類されている。これらの定義や分類はISO20480—1や日本産業規格(JIS)として国際的に整備されており、技術開発や評価実験の基盤として機能している。
筆者らの研究グループはファインバブルを実用場面へ橋渡しするため、布や野菜といった日常的な試料を用いて、現実の洗浄工程に近い条件で実験を行ってきた。その中で特に注目してきたのが、洗浄液を前後に揺らす「交番流(交互流)」とUFBを組み合わせた洗浄方式だ(図1)。
単に泡を混ぜるだけでなく、液体の流れ方そのものを制御することで、洗浄率が顕著に向上することが確認されている。洗浄液の動かし方によって洗浄性能が劇的に変化するという事実は、洗浄という極めて身近な工程に新たな視点を与え、従来の常識を覆すものである。
さらに、洗浄中の水流による機械的作用で気泡が圧壊する瞬間、微小だが鋭い衝撃が発生し、付着物を剥がす力として働く。こうした作用の組み合わせによって、ファインバブルは薬剤に頼らずに高い洗浄効果を発揮することが可能となる。
また、筆者らの研究では気泡の作用だけでなく、ファインバブルが混ざることによって洗浄液の“流れそのもの”が変化する場合がある点も明らかになった。洗浄液には界面活性剤が含まれることが多く、界面活性剤はミセルという構造を形成しているが、ファインバブルが存在するとミセルの並び方が変調し、流動抵抗や粘弾性が変わることがある。このように、ファインバブルの洗浄効果は単純な泡の存在だけでは説明できない奥深さを持っている。
医療・半導体分野へ広がるUFB技術
医療分野でも期待が高まっている。特に、反応性が高く扱いが難しいオゾンをUFB化した「オゾンUFB水」は、環境細菌や歯周病関連菌に対する高い殺菌効果を示すことが報告されている(図2)。
従来の薬剤による殺菌や消毒では避けがたい副作用や取り扱い上の制限を考えると、UFBによって安全性と効果を同時に確保できる点は大きな魅力だ。口腔衛生や医療器具の洗浄など、今後の応用範囲は広がると考えられる。
半導体分野ではUFBを用いた洗浄装置の開発が進み、超純水とUFBだけで従来の薬品処理と同等の洗浄効果が得られる可能性も示されている。薬品削減、工程短縮、設備の簡素化など、多くの利点が期待されており、環境負荷とコストの双方を抑えながら品質を確保するための新たな解決策として注目されている。
こうした応用の広がりを支えているのが、新たに整備されたISO規格群である。気泡のサイズや数濃度の測定法、発生装置の性能評価方法、UFB中の活性酸素の定量法など、多面的な基準が整えられ、研究と産業の両面で統一的な評価が可能になった。これはファインバブル技術の信頼性を高め、さらなる普及と高度化を支える重要な基盤となっている。
薬品、温度、時間といった従来の洗浄条件に、ファインバブルという新たな要素が加わったことで、洗浄技術は大きな転換期を迎えている。
環境負荷を軽減しながら高い洗浄力を求めるという、これまで矛盾していた課題に対し、ファインバブルは科学的根拠に裏付けられた有力な解決策として存在感を強めている。研究の蓄積と標準化の進展により、この見えない泡は、今後ますます多くの産業分野を支える基盤技術として発展していくことになるだろう。
