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産業ガス&ガス発生装置
窒素、酸素、アルゴン、水素といった産業ガスは、モノづくり産業を支えるインフラとして、製品開発から製造、品質管理、設備保全に至るさまざまな分野で利用されている。自動車や機械、金属加工の分野では切断・溶接、熱処理などに酸素や窒素、アルゴンなどが用いられ、鉄鋼や化学産業では酸素が広く活用されている。需要は半導体向けの復調で総じて底堅さを維持しているものの、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会への転換を目指す取り組みが世界規模で進む中、主要産業ガス会社はこれに貢献する技術開発のほか、成長市場の開拓に力を入れている。水素を活用した新たな事業の拡大への動きも広がっている。
成長市場の開拓に力
産業ガスは主にモノづくりの現場において原料や製造の雰囲気ガスとして用いられている。窒素、酸素として単体で用いられるもののほか、2種類以上を混合して機能性を高めたガスや、半導体製造、分析機器の校正に用いる高純度ガスなど、その種類は多岐にわたる。これらのガスの中でも、窒素や酸素、アルゴンといったいわゆるエアセパレートガスは、その売り上げ規模から“三大産業ガス”と呼ばれている。
窒素は常温の環境で不活性な性質から酸化防止の雰囲気ガスとして使われ、液化窒素は食品などの冷却にも利用されている。酸素は可燃性物質の燃焼を助ける支燃性や酸化力があり、燃焼関連の補助燃料や化学工業における酸化剤として使われている。鉄鋼業では高炉への酸素富化による溶鉱の効率化のほか、転炉・電炉では酸素吹き込みによる脱炭・脱硫・脱リンなど不純物除去に用いられている。このほか、医療用も大きな需要先となっている。
アルゴンは空気中に容量で約0・93%含まれ、高温・高圧下でも不活性な性質で、鉄鋼業や金属加工業で多く用いられている。金属の溶接用シールドガス、ステンレス鋼の精錬などで利用されており、半導体の材料である超高純度シリコン単結晶の製造にも不可欠な存在となっている。
水素は石油精製時の水素化脱硫や化学原料などとして利用される。さらには産業ガスとしてだけでなく、クリーンなエネルギー源として利用拡大の機運が高まっている。
AI(人工知能)ブームと呼ばれる状況が続くなか、半導体製造関連の需要は旺盛で、材料ガスに加え、半導体製造に欠かせないガス検知装置などの需要も高まっている。
エレクトロニクス産業は、半導体に関わる開発技術の進展によって拡大が続いている。こうした環境のもと、日本酸素ホールディングスグループの日本産業ガス事業会社である大陽日酸は、中期経営計画の重点戦略として「エレクトロニクス事業の拡大」を掲げ、エレクトロニクス向けの革新的な新製品・技術の創出に向けた開発体制の構築を進めている。大陽日酸のつくば開発センター(茨城県つくば市)に「エレクトロニクス先端材料開発棟」を新設し、新たなプロセス材料とそのハンドリング技術の確立を目指している。新棟は2027年3月の完成を予定している。
半導体工場向けの機器では、メンテナンスの負担を減らし、生産性向上に寄与する製品が注目を集めている。理研計器は最大2種類のガスを同時に検知できる半導体工場向けの定置型ガス検知器「GD—81Dシリーズ」を開発した。1種類のガスを検知する従来機と筐体サイズが同じため設置面積が1台分で済む省スペース化を実現している。1成分型、2成分型を合わせて450種類のガス検知センサーユニットを取り付け可能で、警報発生時にはウェブブラウザーから漏洩ガスの種類や場所、濃度などを遠隔で確認し、迅速に対応できる。更新や増設も容易に行える。国内半導体工場への拡販のほか、海外半導体工場にも提案していく。
海外でのサプライチェーン拡充 インド市場の需要獲得目指す
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インドのチェンナイ工場の液化ガス製造プラントが稼働(提供=エア・ウォーター) -
一方で、将来を見据え、海外での産業ガスのサプライチェーン拡充も進んでいる。エア・ウォーター(AW)は25年8月、インド子会社のエア・ウォーター・インディア(西ベンガル州)を通じてチェンナイ工場(タミルナド州)内に液化ガス製造プラントを新設・稼働した。これまでベッラーリ工場(カルナータカ州)で製造する産業ガスをチェンナイを含む南部エリアのユーザーに供給してきた。同エリアは自動車関連産業の一大集積地で近年、電気自動車や電子部品関連の工場も数多く立地しており、チェンナイ工場内へのプラント新設により、年々高まるガス需要に対応。チェンナイ周辺の製造業向け産業ガスや医療ガス需要を取り込む。
またAWは、インドのタタ・スチールのジャムシェドプル製鉄所(ジャルカンド州)向けとして、大型の製鋼向けオンサイト産業ガス供給プラントを稼働した。タタ・スチールから同プラントを取得し、20年間の長期運転保守契約を締結した。1日当たりの酸素生産能力は約1800トン。窒素やアルゴンも生産するほか、液化ガスも併産し、東部・北部エリアのユーザーに供給する。
インド市場は、東部では造船、電力、インフラなど、北部では自動車関連産業を中心に産業ガス需要が増えている。インド政府による半導体製造・設計拠点へ発展させる取り組みも進展しており、半導体製造に不可欠な窒素を中心とした産業ガス供給インフラ構築の重要性が高まっている。AWはサプライチェーン強化により、これらの需要獲得を目指す。
低炭素水素製造・供給モデル構築へ
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オンサイト型低炭素水素製造供給事業のスキーム(提供=岩谷産業)
水素の利用拡大を促進し、サステナブル(持続可能)な社会の実現を目指す動きも加速している。豊田通商、ユーラスエナジーホールディングス(東京都千代田区)、岩谷産業の3社は、再生可能エネルギー由来の電力を活用し、低炭素水素を製造・供給する「オンサイト型モデル」の構築に共同で取り組んでいる。
愛知製鋼知多工場向けオンサイト案件が先ごろ、経済産業省の「水素社会推進法に基づく価格差に着目した支援」の認定を受けた。この案件では2030年を目途に同工場に水電解装置を設置し、ユーラスエナジーが所有する風力発電所の電力を用いて年間約1600トンの低炭素水素を製造しオンサイトで供給する。同工場の加熱炉でこの低炭素水素を活用することで、温室効果ガス(GHG)排出量が少ない鉄鋼材料「グリーンスチール」の製造に貢献する。
こうした水素の製造コスト低減に向けた取り組みを通じて、3社はオンサイト型低炭素水素の製造・供給の最適モデルを構築し、水素社会の実現を目指す。
主要産業ガス、今年度上期 出荷堅調/半導体製造向け復調
2025年度上期は半導体製造向けの復調を映し、主要産業ガスの出荷は総じて堅調だった。中には一部高炉の停止などに伴うガス供給量の減少がみられたものの、生成AI向け半導体の好調な需要や、半導体メーカーの設備投資の増加に支えられ、全体では底堅く推移している。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)の調べによると、25年度上期(25年4—9月)の主要産業ガスの販売量(液化、パイプ圧送、ボンベ詰の合計)は、窒素が前年同期比2%増の26億5443万立方メートル、酸素も同2%増の7億2078万立方メートル、アルゴンは同微減の9418万立方メートルだった。窒素は23年度上期(23年4—9月)以降、5半期連続で前年同期比プラス。酸素は22年度下期(22年10月―23年3月)以降、6半期連続で8億立方メートルを下回っている。アルゴンも22年度下期(同)以来、6半期連続で前年同期比で減少している。
