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産業ガス&ガス発生装置
産業ガスは鉄鋼、自動車、化学をはじめ、わが国の産業を支える重要インフラとして、製品の開発から製造、品質管理、設備保全に至る多様な分野で利用されている。鉄鋼や化学産業では大量の酸素が使用されており、自動車や機械、金属加工の現場では切断・溶接、熱処理といった工程で酸素や窒素、アルゴンなどが利用されている。酸素や窒素は医療分野でも重要な存在で、安定供給が欠かせない。このため、主要産業ガス会社はエアセパレートガスのサプライチェーン拡充に取り組んでいる。さらには将来を見据え、サステナブル社会構築を目指した事業活動も推進している。新たなエネルギーとして期待される水素ビジネスの拡大に向けた動きも加速している。
アジア・欧米など需要増
産業ガスは製造現場で原料や雰囲気ガスとして使われる。酸素、窒素として単体で使用されるもののほか、2種類以上を混合して機能性を高めたガス、半導体製造や分析機器の校正に用いる高純度ガスなど、その種類はさまざまだ。
これらのガスの中で窒素、酸素、アルゴンの3品目の需要が多く〝三大産業ガス〟と呼ばれる。窒素は常温で不活性で、酸化防止の雰囲気ガスとして用いられる。酸素は可燃性物質の燃焼を助ける支燃性とその酸化力から、補助燃料や酸化剤として採用されている。アルゴンは高温・高圧下でも不活性という特徴を生かして、金属の溶接や鉄鋼の精錬などの現場で活躍している。ヘリウムも他の元素と反応しない不活性ガスで、沸点がマイナス269度Cと、全元素の中で最も低い物質であるなどの特性がある。ヘリウムガスは熱伝導性が高く、光ファイバーの原料となるガラスを焼成する時の雰囲気ガスとして用いられる。半導体製造では熱処理後のシリコンウエハーの冷却に利用。溶接、リークテストなどでも使用されている。磁気共鳴断層撮影装置(MRI)の超電導磁石の冷却用にも多く利用されている。
産業ガスは顧客の事業所にガス配管で直接供給するほか、タンクローリーやシリンダー容器で配送するので地産地消がビジネスモデルの中心となる。このため、アジアや米国、欧州など需要増が見込め、成長力のある地域に供給網を築く動きが今後も活発化していきそうだ。
脱炭素取り組み活発化
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エア・ウォーター枚方工場(大阪府枚方市)では2025年度上期中をめどに、
「グリーン産業ガス」の製造を始める
一方で、脱炭素社会の構築に向けた取り組みが活発化している。エア・ウォーターはカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向け、製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにした「グリーンメニュー」を新たな製品ラインアップとして展開する。
2025年度上期中をめどに、グループ内のバイオマス発電施設で創出される環境価値を活用し、「グリーン産業ガス(酸素・窒素)」として製造・販売する。
エア・ウォーターグループには、環境価値として認定できるバイオマス発電所を複数保有している強みがある。ここで創出する環境価値と産業ガス製造時に発生する電力由来のCO2を「マスバランス方式」で相殺(オフセット)することなどにより、グリーンメニューとして展開する。エア・ウォーターの枚方工場(大阪府枚方市)で製造する液化酸素と液化窒素が対象で、タンクローリーによるバルク輸送で供給する。今後需要に応じて対象工場を拡大していく。
「水素社会」実現へ準備着々 利用拡大の動きも加速
産業ガスの製造には、原料空気の圧縮や冷却などのプロセスで大量の電力を使用しており、グループにおける温室効果ガス(GHG)の全排出量のうち電力に由来するGHG排出量は約80%に相当する。ただ、産業ガス製品の〝グリーン化〟には、購入電力のグリーン化(再生可能エネルギー由来電力か非化石証書の購入)が求められることから、対応手段が限られるといった課題があった。
グリーン産業ガスそのものの品質は従来の産業ガス製品と変わらず、代替として利用してもらうことで、ユーザーのサプライチェーン(供給網)全体のGHG排出量「スコープ3」の削減に貢献する。脱炭素社会への転換過程を新たなマーケットとして捉え、グループシナジーを最大限活用し、事業拡大を図るとともに、各種製品・サービスの需要動向に応じたカーボンニュートラル化も積極的に推し進めていく。
水素は石油精製時の水素化脱硫や化学原料などとして利用される。液体水素は燃料電池自動車(FCV)の燃料として利用が広がっている。水素をFCVに充填する「水素ステーション」の設置が国内外で進められている。また国内では水素エネルギーの利活用拡大に向けたサプライチェーンを構築する動きもあり「水素社会」実現への準備が着々と進められている。
トヨタ自動車と岩谷産業は、既存の水素ステーションを活用し、トヨタが開発中の水素エンジン車に液体水素を充填する実証実験を行った。両社が共同開発した液体水素貯槽から直接液体水素を充填できる装置を利用。既存水素ステーションから気体水素・液体水素のどちらも充填できることを確認した。水素を燃料とする自動車の普及を見据え、インフラ側を整備する。(2024年10月25日付、日刊工業新聞)
産ガス出荷、総じて堅調
2024年度上期は電子材料ガスの販売復調や、主要ユーザーである鉄鋼、非鉄、金属加工向けの需要が底堅く推移したことなどにより、主要産業ガスの出荷は総じて堅調に推移した。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)の調べによると、24年度上期(24年4-9月)の主要産業ガスの販売量(液化、パイプ圧送、ボンベ詰の合計)は、窒素が前年同期比13%増の26億1134万立方メートル、酸素は同8%減の7億465万立方メートル、アルゴンは同3%減の9440万立方メートルだった。窒素は23年度上期(23年4-9月)以降、3半期連続で前年同期比プラス。酸素は22年度下期(22年10月ー23年3月)以降、4半期連続で8億立方メートルを下回っている。アルゴンは22年度下期(同)以来、4四半期連続で前年同期比マイナスとなった。