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市場開拓 成長分野に的
多様な産業領域で活躍
「水素社会」への取り組みも
産業ガスは製造現場で原料や雰囲気ガスなどとして利用されている。酸素、窒素として単体で用いられるもののほか、2種類以上を混合して機能性を高めたガスや、半導体製造や分析機器の校正に用いる高純度ガスなど、さまざまな種類がある。これらのガスの中でも、酸素や窒素、アルゴンといったいわゆるエアセパレートガスは、その売り上げ規模から“三大産業ガス”と呼ばれている。
エアセパレートガスは空気を分離して得られる。酸素、窒素、アルゴンそれぞれの沸点の差を利用して製造されている。
酸素は大気中に約21%含まれ、可燃性物質の燃焼を助ける支燃性から燃焼関連の補助燃料や酸化剤などの用途でも利用される。鉄鋼業をはじめ幅広い産業分野で用いられている。鉄やガラスなどの原料を溶かす際に、酸素を吹き込むことで燃焼効率を高め、より少ない燃料での生産を可能にする。
クリーンエネ 機運が高まる
鉄鋼業では高炉への酸素富化による溶鉱の効率化だけでなく、転炉・電炉では酸素の吹き込みによる脱炭、脱硫、脱リンなど不純物除去の目的でも活躍する。
金属加工では、ガス、プラズマ、レーザーなどの切断に用いられる。このほか、パルプの漂白などにも多くの酸素が用いられる。また医療分野では吸入用などでも利用されている。
窒素は大気中に約78%存在し、常温や低温では化学反応を起こしにくい不活性な性質がある。他の物質と化合しにくいことから、酸化防止や食品の品質保持用として広く用いられている。スナック菓子の袋の中や缶ジュースの容器中の空気と入れ換えて窒素を充填することで、鮮度や風味を損なわないようにしたり、食品の腐敗を抑制したりできる。このため、食品ロスの削減にも貢献している。
アルゴンは大気中に約0・9%しか存在せず、量が少ない貴重なガス。窒素よりもさらに不活性で高温・高圧下でも他の物質と化合しにくい。この性質を生かして鉄鋼の精錬や溶接などの金属加工、半導体製造工程などで用いられている。中でも半導体の材料である超高純度シリコン単結晶(インゴット)の製造には不可欠だ。このインゴットを製造する工程は非常に高温環境で行われるため、アルゴンを利用することで不純物との反応を防いでいる。
水素は石油精製時の水素化脱硫や化学原料などとして利用される。さらには産業ガスとしてだけでなく、クリーンなエネルギー源として利用拡大の機運が高まっている。
拠点の新設や拡充進む
技術生かし需要掘り起こす
産業ガスの供給拡大を目指し、拠点の新設・拡充が進められている。さらには新技術開発や用途開拓によって新たな需要を掘り起こす戦略も進められている。
日本酸素ホールディングス傘下の大陽日酸は、台湾にエレクトロニクス向けの産業ガス関連装置の新工場を建設。精製装置やガスキャビネットなど産業ガスの供給設備の生産能力を従来比2倍に高めた。現地での設備供給能力を向上することで、半導体や電子部品産業向けの需要を取り込む。
新工場はグループ会社の大陽日酸系統科技股份有限公司(新竹県湖口郷)の拠点内に建設。能力増強により、台湾でのガス供給設備の製造販売や配管工事などのエンジニアリングサービス事業の拡大・強化を図る。
また大陽日酸は水素ガスを燃料に用いる工業炉向け水素―酸素バーナー技術を開発した。水素ガス燃料は炭素を含まず、燃焼時に二酸化炭素(CO2)が発生しないカーボンフリーな燃料として注目され、工業炉のCO2排出量削減への貢献を目指す。
鉄スクラップ溶解用電気炉や加熱炉などで用いるバーナーに対応。ノズル構造を水素用に最適化し工業炉で運用できるレベルまでNOxを低減し、天然ガスを燃料とした場合と同等の伝熱特性を持たせた。今後、各種工業炉向けに最適な水素-酸素バーナーを開発・設計し、ユーザーに導入を提案していく。
海外市場で事業基盤強化
海外市場で事業基盤の一段強化を図る動きも見られる。エア・ウォーター(AW)は昨年、インド子会社のエア・ウォーター・インディア(西ベンガル州)を通じてインドの国営製鉄会社SAILから製鉄所向けの産業ガスオンサイト供給案件を受注した。約135億円を投じ、SAILのドゥルガプル製鉄所(同)の隣接地にプラントを建設し、パイプラインでガスを直接供給する。AWとしてはインドで初めての大型深冷空気分離プラントの受注で、2025年10月の稼働を目指している。
新プラント「エア・ウォーター・インディア ドゥルガプルオンサイト工場」は現地で3カ所目となる製鋼向けオンサイトガス供給拠点で、1日当たりの酸素生産能力は1250トン。窒素やアルゴンも生産する。製鉄所向けパイピング供給だけでなく、一部は液化して周辺地域のユーザーにタンクローリーで輸送・販売する。
AWは海外における産業ガス事業を成長の牽引役と位置づけている。中でもインドを重要戦略エリアと捉えており、鉄鋼メーカー向けのオンサイトガス供給事業を基軸にインド全域での事業展開を見据えた製造・輸送・販売インフラのネットワーク構築を進めている。
高度なエンジニアリング力を生かしたコスト競争力のあるガス供給によって鉄鋼生産の拡大が続くインドで存在感を高め、産業ガスの市場開拓に拍車をかける。
サプライチェーン強靭化
水素は気体や液体、固体などあらゆる形態で貯蔵・輸送が可能で、エネルギー効率が高く、環境負荷低減にも大きな効果が期待できる。このため、水素の利用拡大に向けたサプライチェーン強靱化や関連する技術の開発・改良などの取り組みも加速している。
コスモエンジ 岩谷産業 協業
コスモエンジニアリング(東京都品川区)と岩谷産業は、水素関連プロジェクトのエンジニアリング事業で協業するため、「コスモ岩谷水素エンジニアリング合同会社」(同)を23年11月1日付で設立した。出資比率はコスモエンジニアリング60%、岩谷産業40%。
コスモエンジニアリングが持つ水素設備関連のエンジニアリング技術と、岩谷産業が持つ水素供給ネットワークなどを活用し、水素供給網関連の設備設計や建設工事など、大規模水素サプライチェーンにかかわるプロジェクトを手がけていく計画だ。水素関連プロジェクトのエンジニアリング事業を通じて、脱炭素社会実現に向け、水素燃料の社会実装や水素の需要拡大を強力に後押ししていく。
また岩谷産業と三菱重工業は昨年、液化水素昇圧ポンプの開発・販売に向けた覚書の締結に合意した。三菱重工が開発した同ポンプを用いて、国内の水素ステーションの最適化および各設備を合理化したパッケージ開発を共同で進め、革新的な水素供給システムの構築を目指す。
まずは三菱重工の開発済みの90メガパスカル級の同ポンプを使って取り組み、ポンプの高性能化などにより今後、水素発電設備や液化水素受入基地への適用も検討する。三菱重工の同ポンプは水素を気体状態で昇圧する従来方法と比べエネルギー消費量を約10分の1に抑えることができ、水素社会における環境負荷の低減への貢献が期待される。
ニーズに合わせ供給・配送
エアセパレートガスは主にオンサイト、バルク、パッケージの3種類の供給形態があり、ユーザーの必要量や立地条件など個々の生産現場のニーズに合わせて効果的に供給・配送している。
オンサイトはユーザーの工場のそばにガスの生産プラントを設置し、パイプラインで直接供給する形態で、ガスの使用量が多い鉄鋼業や石油化学、石油精製などの素材関連産業向けに行われることが多い。これは大容量のガスを常時供給できる利点がある。
高純度製品をユーザーに供給
バルクはタンクローリーを利用し、ガスや液体として高純度の製品をユーザーのもとに届ける。ユーザーは最適なサイズのタンクを設置して利用でき、用途に応じた供給が行える。三つの供給形態のうちオンサイトに次いで多量のガスを使う自動車や造船、建設機械、半導体、太陽電池、液晶パネルなどの産業のほか、病院や食品、ガラス製造などさまざまな分野のユーザーに利用されている。
パッケージは気体を高圧で充填したシリンダー(ボンベ)をユーザーに配送する供給形態で、小規模で小容量での利用に向く。工事現場をはじめ、比較的少ない量のガスを利用する工場や病院、研究機関などのユーザーにトラックなどで配送される。
主要産業ガス 半導体・電子部品向け伸び悩む
2023年度上期はコロナ禍が収束傾向となったことに伴い社会経済活動は正常化が進んだ。ただ、コロナ特需の反動減などでメモリーを中心に半導体市場が減速するなど半導体や電子部品業界向けの販売量は総じて伸び悩んだ。酸素の販売量は化学工業向けの減少が目立った。
日本産業・医療ガス協会(JIMGA)の調べによると、23年度上期(23年4-9月)の主要産業ガスの販売量(液化、パイプ圧送、ボンベ詰の合計)は、窒素が前年同期比1%増の23億276万立方メートル、酸素は同7%減の7億6333万立方メートル、アルゴンは同11%増の9776万立方メートルだった。酸素は22年度上期(22年4―9月)以降、3半期連続で前年同期比マイナス。アルゴンは22年度下期(22年10月―23年3月)以降、2半期連続で前年同期比減少している。