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工業炉と関連機器
工業炉は材料や部品の物理的・化学的・機械的性質などを変化させるための加熱設備の総称で、産業の各分野で利用されている。産業分野で使用する材料(鋼材、炭素材など)は、工業炉を用いて加熱、溶解、製錬、金属熱処理を行うことにより、高品質な工業製品で使用される。工業炉業界においても、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けた省エネルギー促進が求められており、技術開発が進んでいる。
アンモニア・水素へ燃料転換 燃焼炉/電気炉 精微に温度制御
工業炉は主に鉄鋼や機械、電機・電子、自動車、化学および環境関連産業などの幅広い分野で原料から最終製品に至る加工プロセスを担い、製造現場では欠かせない存在だ。工業炉は加熱方式によって燃焼式工業炉(燃焼炉)と電気式工業炉(電気炉)に分類される。
燃焼炉の加熱方式は火炎や燃焼生成ガスの放射が材料に触れながら加熱する「直接加熱方式」と、マッフルやラジアントチューブなどの隔壁を設けて材料を触れさせない「間接加熱方式」に分類される。間接加熱方式は材料の表面が火炎や燃焼生成ガスの影響を受けないため、光輝熱処理、浸炭などの雰囲気処理に適している。現在、燃焼炉の多くが化石燃料を主な熱源としている。工業炉業界では脱炭素化に向け、アンモニアや水素への燃料転換に向けた技術開発などが進められている。
一方、電気炉は金属やセラミックス、ガラスの溶解、焼成のほか、自動車部品やエンジン部品などの硬度を上げる熱処理に用いられる。電気ヒーターで加熱するため、精緻な温度制御が可能で、炉の省スペース化や静音化にもつながる。電気炉の中でも真空炉は真空ポンプで炉内を真空に近い無酸化状態にし、電気ヒーターで炉内を約200度―2000度Cに加熱する。対象物(ワーク)の表面に付着した油や酸化被膜を除去できる。
工業炉の省エネ技術は、高効率電気式工業炉(誘導加熱型および金属溶解型)、断熱強化型、排熱回収型、原材料予熱型などに分類される。適用技術は材料予熱や電気と燃焼のハイブリッド、モジュール化、排熱回収、高断熱化、構成機器の最適化などであり、工業炉に実装する新規技術の開発が期待されている。
2023年2099億円 売上高22%増加
2023年における工業炉の売上高は2099億円となり、22年と比べて22・2%増加した(表)。20年3月以降は新型コロナウイルス感染症流行の影響で受注が減少したが、22年3月から回復基調となった。一方で、23年は22年に引き続き、半導体やその他部品の供給不足、電気部品および汎用品部品の納期遅延、エネルギーや資材の高騰などの課題も浮き彫りとなった。
23年の燃焼炉の売上高は、22年と比べて23・3%増の305億円となり、主な用途は鉄鋼、非鉄金属関係の金属の熱処理、加熱、溶解など多岐にわたっている。
一方、同年の電気炉の売上高は、22年比22・3%増の795億円となった。内訳を売上高の比率でみると、抵抗炉64・3%、誘導加熱溶解炉7・2%、誘導加熱装置14・3%、アーク炉14・2%。金属、一般機械、電子部品、ファインセラミックスなどの幅広い分野で、溶解、精錬、焼結、反応といった工程で使用される抵抗炉の比重が高い傾向にある。
アイデアを創造・交流の場/工業炉協会、サーマルテクノロジー2024開催
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「サーマルテクノロジー2024」の開会式テープカット(日本工業炉協会提供)
日本工業炉協会は2024年10月10、11の両日、グランフロント大阪北館ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター(大阪市北区)で「サーマルテクノロジー2024 第5回工業炉・関連機器展&シンポジウム」を開催した。工業炉や熱処理に関する最新技術が披露され、3537人が来場した。「素形材月間展示ブース」が設けられたり「SDGsツアー」などの多彩なイベントが行われたりし、アイデアの創造・発信および交流の場となった。
柔軟な発想で新たな一歩/日本工業炉協会 会長 髙橋 愼一
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日本工業炉協会 会長 髙橋 愼一
新年明けましておめでとうございます。皆さまにおかれましては健やかに新しい年をお迎えのこととお喜び申し上げます。
昨年は日本の政治・経済・社会の分野でさまざまな出来事があった1年でした。世界でも混沌とした状況が継続しています。日本では経済安全保障の観点から①重要物資の安定供給(サプライチェーンの強化)②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保③先端的な重要技術の開発支援④特許出願の非公開-の4本柱で対応が進み始めています。他方、米国は「バイ・アメリカン」の姿勢をより一層明確にして、自国優先・保護主義的施策の実現を目指してくるでしょう。
日本は人口減少が進む国としてさまざまな課題を抱えています。金利の上昇や賃金の上昇、働き方の変化に加え、人工知能(AI)の利用など多くのことが動き出しています。それぞれの動きに功罪はあると思いますが、変化は新たな一歩であるはずです。
日本工業炉協会は昨年10月10、11の両日、グランフロント大阪北館ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンターにて「サーマルテクノロジー2024 第5回工業炉・関連機器展&シンポジウム」を開催し、3500名を超える来場がありました。加えて、今回は素形材センター30周年記念行事の一環として、工業団体(17団体)が連携して「素形材×デザイン」をテーマに「素形材月間展示ブース」を出展しました。次回は2026年に東京で「第9回サーモテック2026」が開催される予定です。持続可能な社会に向けた工業炉業界の進化にご期待ください。
また、当協会が21年に制定した「いい炉の日」(11月6日)の認知が広がりつつあり、昨年は「持続的なものづくりを支える工業炉のカーボンニュートラルへの挑戦」をテーマに東京で記念講演会を開催しました。ご協力いただきました皆さまや協賛団体の皆さまには改めて御礼申し上げます。
今年は巳年。ドイツの哲学者ニーチェはその著書『曙光』の中で「脱皮することのできない蛇は破滅する」と著しました。脱皮は蛇の新陳代謝でありますが、企業や社会も脱皮を繰り返すことで発展していけるのだと思います。今年は柔軟な発想で新陳代謝を繰り返し、新たな展開を目指す年にしたいと思います。
本年が皆さまにとりまして希望に満ちた年となりますよう心からお祈り申し上げます。