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製造現場に不可欠な加工プロセス
工業炉は材料や部品の物理的・化学的・機械的性質などを変化させるための加熱設備の総称である。主に鉄鋼や機械、電機・電子、自動車、化学および環境関連産業など幅広い分野で原料から最終製品に至る加工プロセスを担い、製造現場では欠かせない。
工業炉は加熱方式によって電気式工業炉(電気炉)と燃焼式工業炉(燃焼炉)に分類される。
電気炉は金属やセラミックス、ガラスの溶解、焼成のほか、自動車部品やエンジン部品などの硬度を上げる熱処理に用いられる。電気ヒーターで加熱するため、精緻な温度制御が可能で、炉の省スペース化や静音化にもつながる。
電気炉の中でも真空炉は真空ポンプで炉内を真空に近い無酸化状態にし、電気ヒーターで炉内を約200度―2000度Cに加熱する。対象物(ワーク)の表面に付着した油や酸化被膜を除去できる。
ステンレスやチタンなどのワークへの光輝性の付与をはじめ、高濃度の炭素を浸透させて表面強度や靱(じん)性などを高める真空浸炭、焼き入れ、焼き戻し、ロウ付けなどの熱処理・加熱加工でモノづくりの高付加価値化を支えている。
燃焼炉の加熱方式は火炎や燃焼生成ガスの放射が材料に触れながら加熱する「直接加熱方式」と、マッフルやラジアントチューブなどの隔壁を設けて材料を触れさせない「間接加熱方式」に分類される。間接加熱方式は材料の表面が火炎や燃焼生成ガスの影響を受けないため、光輝熱処理、浸炭などの雰囲気処理に適している。
現在、燃焼炉の多くが化石燃料を主な熱源としている。工業炉業界では脱炭素化に向け、アンモニアや水素への燃料転換に向けた技術開発などが進む。政府はグリーンイノベーション(GI)基金を活用し、燃焼技術の開発を後押しする。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は昨年8月、工業炉の脱炭素化に向けて304億円を投じると発表した。燃料をアンモニアや水素に転換し、二酸化炭素(CO2)排出を抑える技術などを開発する。実施体制は脱炭素産業熱システム技術研究組合および中外炉工業などの民間企業8社で構成する。民間からの投資を合わせると事業規模は453億円となる。
補正予算 中小に省エネ支援
日本工業炉協会によると、日本では約4万機の工業炉が稼働し、国内のCO2排出量の約12%を占めている。工業炉の省エネ性能の向上や環境負荷の低減は産業界の脱炭素化に直結する。
こうした中、昨年11月に国会で成立した「令和5年度補正予算」では、事業者・家庭向けの省エネ支援策を強化。「令和5年度補正予算における省エネ支援策パッケージ」に事業者向けの省エネ設備更新支援や省エネ診断などの拡充が盛り込まれた。
事業者向けに今後3年間で7000億円規模の支援策を見通す。今回、脱炭素につながる電化・燃料転換を促進する「(Ⅱ)電化・燃料転換型」を新設した。主に中小企業の活用を念頭に置く。脱炭素につながる電化や、低炭素な燃料転換を伴う設備更新をする場合、更新費用の半分を補助し、カーボンニュートラルを加速させる。
補助金の限度額は上限を3億円、下限を30万円としている。対象は①産業用ヒートポンプ②業務用ヒートポンプ③低炭素工業炉④高効率コージェネレーション⑤高性能ボイラなどの設備となる。コークスを使用したキュポラ式の工業炉から電気を使用する誘導加熱式へ更新する場合などを想定している。
ごあいさつ/日本工業炉協会 会長 髙橋 愼一 氏
2024年の年頭にあたり、新年のごあいさつを申し上げます。
まず、このたびの「令和6年能登半島地震」により亡くなられた方々に謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された多くの皆さまに心よりお見舞いを申し上げます。
日本国内では新型コロナウイルスが昨年の5月から5類感染となり、徐々にコロナ禍前の日常に戻りつつあります。世界に目を向けますと22年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻は停戦の機運もなく長期戦に進み、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃はこれまでも不安定だった中東情勢を一気に緊迫した状況に変えました。アジアにおいても地政学的緊張はかつてないほどに高まっており、この2―3年は世界の潮流において大きな節目の時期となることが予想されます。日本国内においても77年ごとの節目、100年に一度の大変革期というキーワードが使われ、あらゆる産業が変革期を迎えている観があります。
このような中、当協会は昨年6月にドイツ・デュッセルドルフで開催された工業炉の展示会「サーモプロセス2023」に会員企業5社と共同出展をしました。JAPANパビリオンとして日本の工業炉業界のサステナブルな活動をグローバルに情報発信する良い機会となりました。同時に視察ツアーも組成し、多くの皆さまにご参加いただき情報収集、情報交換の機会とすることもできました。
また、当協会では本年24月に「サーマルテクノロジー2024」の開催を大阪にて予定しております。熱技術、省エネルギー技術に関連する工業炉製品を協会正会員や、工業炉の関連機器を取り扱う賛助会員の皆さまが積極的な情報発信をする場として活用いただいております。前回(19年)は8カ国から101社・団体にご参加いただき、2日間で3000人を超える来場者となりました。特に協会の賛助会員数は10年前の46社から80社を超える水準まで増えており、より活気のある展示会となることが予想されます。皆さまのご参加、ご来場をお待ち申し上げてております。
最後になりますが本年も皆さまの変わらぬご協力をお願い申し上げますとともに、新しい年が皆さまにとりまして希望に満ちた年となりますよう心からお祈り申し上げます。