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水素利活用とインフラ技術
近年、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ、CN)社会の実現に向けて、水素エネルギーの利活用が注目されている。水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を排出せず、エネルギー、産業、運輸など幅広い分野で活用可能だ。政府が掲げる2050年のカーボンニュートラル達成には水素の本格的な利活用と、それを支えるインフラ技術の確立が欠かせない。
水素社会推進、燃料価格差を補助
水素は水を電気分解することで製造が可能であり、長期貯蔵や輸送もできる。そのため、天候などによって発電量が大きく変動する再生可能エネルギーを補完・調整する仕組みとして期待されている。また、産業部門の高温熱利用や船舶・航空機の輸送燃料など、電化による脱炭素化が困難な領域において、燃料の脱炭素化が期待できる。さらに水素を用いた基礎化学品製造や水素還元製鉄など、素材としての利用も広がる。
日本は17年、世界で初めて水素の国家戦略「水素基本戦略」を策定し、水素関連の取り組みを強化してきた。その後24年10月には、水素をエネルギーとして普及させ、活用を後押しするための法律である「水素社会推進法」を施行した。しかしクリーン水素は発展途上のエネルギーであり、石油・天然ガスなどの既存燃料と比較するとコストが高い点が課題となっていた。
そこで、水素製造事業者が一定期間安定的に水素を供給できる環境を整えるために、同法に基づき助成金を交付する「価格差支援制度」を25年9月より実施。審査の結果、認定を受けた場合、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から最長15年間の支援を受けられる。すでに豊田通商やレゾナック、三井物産などが認定を受けており、30年頃の供給開始を目指しサプライチェーン(供給網)の構築を進めている。
水素利活用、実証進む 各社の技術開発活発化
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ニチアスの水素実験棟
こうした状況を受け、各社で水素を用いた技術開発が活発化している。
ニチアスは3月に断熱材やシール材の研究開発拠点である浜松研究所(浜松市浜名区)で水素実験棟を完成させた。液化水素タンクと液化窒素タンクを設置したことにより、液化水素だけでなくマイナス196度Cの液化窒素や窒素ガスの供給ができ、目的に応じたさまざまな低温実験が行える。
また、液化水素温度(マイナス253度C)における材料物性データが少ないため、同社は強度や熱伝導率といった材料の物理的・化学的性質を測定するための評価装置の開発・拡充も進めている。実使用温度での特性を把握することにより、液化水素市場向け製品の開発を加速することが狙いだ。
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三菱化工機の水素吸蔵合金・燃料電池一体型システム「HyDel」
三菱化工機は水素吸蔵合金タンク(MHタンク)と燃料電池を一体化した、水素吸蔵合金・燃料電池一体型システム「HyDel(ハイデル)」を、カワサキ文化公園(川崎市幸区)に常設稼働施設として設置した。25年12月に行われた点灯セレモニーで、照明器具に水素由来のエネルギーを供給した。
同製品は寒冷地での使用に課題があった吸蔵合金からの効率的な水素の取り出しと燃料電池による運転を可能にした据え置き型システム。水素吸蔵合金を用いた配送システムは水素の貯蔵や運搬が容易なことから、比較的小規模な場所や使用期間が限定されない場所での電力供給に優位性がある。高圧ガスの取り扱いや安全性が導入の障壁となっている都心部や病院、大学の研究機関などでの活用が期待される。今回設置した1号機で実証実験を重ね、26年度中の販売開始を予定している。
CN実現に向けた水素の本格運用にはインフラと実用時の価格面が整備されることが重要だ。各社は技術面で実証実績を着実に積み重ねており、近い将来に成果として花開くことが期待される。
