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水素(2024年5月)
地球環境問題の悪化に歯止めをかけるため、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成し、脱炭素社会を実現することが急がれている。だが、再生可能エネルギーを代表する太陽光や風力などは安定性の点で力不足だ。そこで、使用時に二酸化炭素(CO2)を排出しない水素エネルギーの利活用に期待が寄せられている。水素の利活用と、それらを支える「つくる」「運ぶ」インフラの整備が欠かせない。
脱炭素社会実現のカギ
FCV普及のカギ 水素ステーション拡充
水素エネルギー利活用の代表的なアプリケーションが燃料電池(FC)。そのFCを動力源とするのが燃料電池車(FCV)だ。FCVを運用するためには、水素を供給する水素ステーションが必要となる。
水素ステーションは水素製造装置、圧縮機、蓄圧器、プレクーラー、ディスペンサーなどで構成される。水素ステーションで供給する水素確保の形式は主に、施設で水素を製造するオンサイト型と大規模なプラントで製造した水素を搬入・貯蔵するオフサイト型の2種類。オンサイト型の施設では都市ガスや液化石油ガス(LPG)を原料に改質したり、水を電気分解したりして水素を製造する装置が設置される。バイオガスの原料利用や、再生可能エネルギーの電力利用なども可能だ。
現在は都市ガスやLPGの改質から得た水素が主流だ。化石燃料が原料となっている。そこで、再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解し、水素を製造するシステムの開発が進められている。太陽光や風力などの不安定さを補う蓄電としての側面への期待も大きい。
FCVの充填の流れは、まず圧縮機で800気圧程度まで昇圧。高圧化した水素は蓄圧器(容器)にためられる。水素の急速充填による断熱圧縮でFCVのタンク内の温度が上昇するのを抑えるため、プレクーラーであらかじめ水素をマイナス40度Cまで冷却する。
FCVへの充填を制御し、計量するのがディスペンサー。ノズルはFCVのレセプタクル(受け口)としっかりかみ合って、漏れない構造になっている。
「燃料電池自動車等新規需要創出活動補助事業」として運用されている水素ステーションは現在、首都圏、中京圏、関西圏、九州圏を中心に152カ所。FCVの普及には車両コストの低減とともに、水素ステーションの拡充が急がれている。
水素を直接燃焼利用/アンモニア化で扱い容易
水素は燃焼時にCO2が発生しない。水素利活用のアプリケーションはFCだけでなく、ガスエンジンやガスタービンで直接燃焼させる技術の開発が進められている。さらに現在、アンモニアの燃料化が注目されている。運搬・保管などの取り扱いが水素と比べると容易なことから、水素からアンモニアを製造して利用しようというものだ。
水素利活用の課題の一つが、輸送や保管など取り扱いが難しい点。液化水素の場合、体積は常圧水素比800分の1だが、マイナス253度Cという極低温の維持が必要だ。一方、液体アンモニアは毒性・腐食性があるものの常圧水素と比較し体積比1300分の1、温度はマイナス33度Cで、この点では液化水素よりも格段に扱いやすい。
21年10月に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」では、水素やアンモニアによる発電が初めて電源構成に盛り込まれ、政府もアンモニアの燃料利用に期待を寄せていることが示された。
アンモニア燃料のガスタービン発電は14年に産業技術総合研究所の研究チームなどによって初めて成功した技術。アンモニア発電には①発電時にCO2を排出しない②水素と比べて運搬が容易でコストが安い③既存施設を有効活用できる―などのメリットがある。
半面、①燃焼すると窒素酸化物(NOx)を排出する②アンモニアの合成には大量のエネルギーが必要―という課題がある。このデメリットをいかに解決するかが普及のカギとなっている。
カーボンニュートラル、脱炭素の姿の一つ、水素社会を構築するため、水素をいかに「製造」「輸送」「利活用」するか。描いた全体像に対して、一つひとつの課題を克服することで実現に近づくことができるだろう。
AXIA EXPO/6月5―7日、アイチスカイエキスポ
次世代エネで展示会
6月5日から7日までの3日間、愛知・セントレアのアイチスカイエキスポで「AXIA EXPO 2024」が開かれる。主催は日刊工業新聞社、愛知県、中部圏水素利用協議会、愛知国際会議展示場、モノづくり日本会議で組織するAXIA EXPO実行委員会。「愛知発スマート未来都市の実現へ」をテーマに、170以上の社・団体が出展し、近未来社会に求められるエネルギー、通信、グリーン・トランスフォーメーション(GX)に関する最新技術・サービスを紹介する。
AXIAは3展示会で構成される。「水素・アンモニア次世代エネルギー展」はCO2を排出しない究極のエネルギーである水素、アンモニアの利活用を核としたカーボンフリー社会の実現に向けた次世代エネルギーの展示会。「次世代通信Tech」はスマートシティー実現に向けた第5世代・第6世代(5G・6G)通信技術と、その実装に不可欠なインフラ基盤やデータセンター、サービス産業が集う。「GXイノベーション展」はカーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーや脱炭素技術など、GXソリューションを紹介する。
入場は事前登録制・無料。会場では講演会や出展者セミナーなどのステージプログラムが多数用意されている。また、5月29日から6月14日まで、オンライン会場が開設される。詳細は公式ホームページへ。