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住宅産業(2024年4月)
効率の良い家事動線と間取り
1人当たりの年間の家事活動時間は、内閣府経済社会総合研究所の調査(2021年)によると、男性が325時間、女性が1289時間だった。女性の場合、1年間の14・7%の時間を家事に充てていることになる。日々の家事はできるだけ無駄なく時短に、できれば楽しみながら取り組みたいもの。住まいづくりにおいては効率の良い家事動線を実現することで、身体への負担を軽くし、タイムパフォーマンスを上げ、家族との時間や生きがいを楽しむ時間を増やそう。
家事動線の考え方
家事といっても、洗濯や掃除、片付けなど、家の中を動きながら一連の流れで行う作業もあれば、キッチンという一つの空間の中で「食事の準備から片付けまで」の動作と移動の繰り返しを行う作業もある。
いずれも効率の良い家事動線にするには①移動距離をできるだけ短くする配置②回遊動線などで無駄な重複移動を避け、日常生活の自然な動線をたどりながら家事をこなせる間取り―を考えることが必要だ。
キッチン回りでは、同じ動線を何度も行き来することが多いので、無駄な一歩の積み重ねが家事効率を大きく落とすことにつながる。例えば、米を出して研いで炊く、コーヒー豆を取り出しひいて入れてカップに注ぐなど、具体的な一連の動作で動く距離が短くなるよう、キッチンの配置や各調理器具の収納場所、置き場所を工夫することが大切だ。
洗濯物を庭に干すのであれば、洗濯場所と干す場所との移動動線や、乾いた洗濯物を取り込んで収納するまでの距離をできるだけ短くする間取りを考えよう。
動線づくりのポイント
動線づくりにおいてはまず、家事を含めたライフスタイルや収納計画を整理することから始めたい。
例えば、洗濯を例にとって考えてみよう。干し方は外干しか、部屋干しか、外干しの場合は庭か2階のベランダか、乾いた洗濯物をどこに取り込んで畳むのか、どこにどう収納するのか、といった全体の方針だ。
住まいづくりの過程では、こうしたことをぜひ家族全員で検討してほしい。話し合いの中で家事の大変さを家族全員で共有できる。「衣類は家族全員のものを1カ所に集める集中収納にしよう」「自分のモノは自分でピックアップして収納しよう」というように、家事を含めた暮らし方を家族全員で計画するようになる。
その結果、家族が自分のことは自分でする動線、子どもが自然にお手伝いを身につけられる動線をつくることにもつながり、1人の家族に家事負担が集中することが減る効果も期待できる。
また各家事で使用する用具やモノの収納場所は、家事動線にとって重要なポイントだ。掃除用具をはじめ家事道具の収納場所が、それを使った家事を行う場所から離れていると、出し入れだけで無駄な動線が生まれてしまう。
例えば、洗濯物が主に脱衣室でたまることから、脱衣室に洗濯機を置くとする。洗濯に必要な洗剤や用具、物干しハンガーなどをそばに収納できるようにしよう。さらに洗濯機の手入れに必要な用具の収納場所も、近くに設けるようにしたい。
家事動線の効率化のためには、住宅設備機器の機能を上手に取り入れるのも良いだろう。照明を人感センサーにすれば、手がふさがった状態でも移動でき、照明のオンオフのための余計な行き来も不要になる。
家中の家電設備の稼働状況をひと目で把握、操作ができるよう、設備機器のコントールパネルを1カ所に集中して設けることでも動線は減らせる。さらにIoT(モノのインターネット)によって、外出先での操作で家事の一部を片付けられれば、結果的に家事動線も減ることになるだろう。
間取りの工夫
玄関回りは動線と収納計画を工夫することで、家事動線を効率化できる。例えば、玄関横に余裕のある収納庫を設け、玄関から土足のまま入って買ってきたモノを収納、コートなど上着もそこに掛けられるようにし、靴を脱いで廊下に上がれる動線だ。買い物から帰り、あちこち離れた場所にモノをしまい、コートを部屋のクローゼットに掛ける、という従来の動線が一気に省略できる。
同時並行が多いキッチン作業と洗濯や風呂掃除などは、キッチンと洗濯室や浴室が近くにあり、さらにほかの場所へも行き来がしやすい回遊性が備わっていると、家事効率が上がり、一度に複数の家事をこなすストレスも軽減されるのではないだろうか。
設計・施工段階で確認したいこと
具体的な住まいづくりの過程では、プランの段階で、希望する家事動線を設計者側にしっかり伝えておこう。その際、その家事動線を希望する理由や背景も併せて伝えることがこつだ。
例えば、「共働きなので」「家族が在宅で仕事をするので」「子どもの自立心を育てたいので」など。理由や背景が伝わることで、ハウスメーカーや工務店はその豊富な経験をもとに、具体的な提案のイメージが沸きやすく、より良い提案につながりやすい。
また、住宅展示場や現場見学会を活用して、実際の空間のなかで家事をしているつもりになって動いてみよう。距離感や動き方がイメージどおりか確認できる。
現場の工事の段階では、施工が進むにつれて、実際に目で確認することも大切だ。設計段階では気づかないことも、空間が具体的に出来上がって初めて気づくこともある。早めに気づけばコストをかけずに変更できる可能性も高いので、現場での確認は重要だ。
◇ ◇
家事は動線を効率よくすることで、誰か1人の家族が背負うものではなく、家族全員で取り組むものになる。その結果、生まれた時間や心のゆとりを、家族で楽しめる時間に充ててほしい。
【執筆者】
住まいのナビゲーター 川道 恵子(一級建築士/宅地建物取引士/住宅ローンアドバイザー/整理収納アドバイザー1級)
【プロフィル】
2011年から一級建築士事務所を主宰するとともに、住まいに関わるセミナー講師として毎年数多くの講演を行う。14年から住まいづくりナビセンターの住まいのナビゲーターとして住宅相談、セミナー講師を担当。