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住宅産業(2023年10月)
安心して長く住むためのメンテナンス
家の中で一番重要な箇所はどこか。それは「屋根と外壁」である。雨や風から家を守ってくれているからである。家を持つ人でこのことを認識している人は2割もいない。家を購入した後は、メンテナンスに無関心な人が多いようだ。理由は誰からも教わってないし、家を売る人も説明しないからである。ここでは「家を長持ちさせることが、老後の安心と幸福につながる」ということを伝えたい。
家を大切にする人ほど幸福になれる
不動産事業を手がけるスミカ(東京都目黒区)が2014年に行った「『家』と『幸福度』に関する調査」によると、「今の家が好き」と答えた人の約7割が幸せだと感じ、「家が嫌い」と答えた人のうち2割の人しか幸せを感じていない。さらにリフォームを経験した人のうち、約7割が「幸せを感じている」と答え、「幸せを感じない」と答えた人は約1割にとどまるそうだ。
あくまで私見だが、ペットやコレクションは自分が気にかけたり手をかけたり、世話したりするほど、愛着が湧く。同じようにリフォームも手をかければかけるほど愛着が湧くということだろう。家の世話=リフォームと捉えているので日々の生活が楽しく、愛着が湧いて楽しくなり、幸福を感じるのではないか
家を長持ちさせると老後資金が貯まる
リフォームは大きく二つの意味がある。一つは外壁の塗り替えや雨漏り対策など、家を健康に保つためのリフォームで、いわゆる「メンテナンス」を指す。私はこれを「家のアンチエイジングリフォーム」と呼ぶ。もう一つは家を自分の使い勝手や趣味、好みに合わせるリフォームである。
突然だが、持ち家の建築25年後を想定し、図の二つの場合で考えてみたい。Aは持ち家を売却して賃貸物件に住んだ場合、Bは持ち家をリフォームして住み続けた場合である。
リフォームして住み続けた方が1642万円得するという結果だが、世間では「持ち家リスク」がささやかれる。確かに持ち家は気軽に売買できないし、貸し出しも難しい。資産価値もすぐに落ちるので、所有することがリスクだと感じるだろう。また子どもが巣立ってしまうと家が広過ぎて掃除が大変、などの理由で持ち家を売ろうとする人もいる。本当に持ち家はリスクなのだろうか。
決してそうではない。近年は人口が減少し、不動産マーケットの見通しも明るくないので高く売れない。また持ち家を処分する時点で諸経費がかかり、結果的に費用面では負担が増えてしまう。だが例に示したように、先の時代を見据えれば持ち家は全くリスクではないのである。
一方、賃貸住宅での暮らしにはそれ以上に費用がかかる。住んでいる限り、家賃と更新料は支払い続けなければならず、時間がたつにつれてそれは重くのしかかり、「長生きのリスク」につながる。さらに高齢者になると更新が難しくなることさえある。
それでは、「長生きのリスク」を避けるためには、どうすればいいのか。持ち家を適切にメンテナンスして、老後の生活が送りやすいようにリフォームすればいい。一生快適に暮らせる家が手に入り、老後資金にも余裕が生まれる。長く住むには大き過ぎる家賃の負担も、持ち家なら心配ないというわけだ。
例えば、夫が65歳、妻60歳の夫婦が自宅を2200万円で売ったとする。売却後、二人で家賃12万円の賃貸住宅に住むと、家賃と更新料だけで15年もたたずに貯金が尽きてしまう。その時夫は80歳、妻は75歳。平均余命は夫は約8年、妻は約15年もある。
それからも妻が同じ賃貸住宅に15年間住み続けたとしたら、家賃と更新料だけでさらに2250万円必要になる。家賃以外にも生活費はかかるため、家を売ったお金のほかに相当の貯蓄がない限り、老後資金に余裕を持てるような状況にならない。
その点、持ち家に住み続けていれば、ローンを払い終えて以降、家賃にあたる費用は全くかからない。持ち家のメンテナンスやリフォームに追加で300万円を支払ったとしても、家賃12万円の賃貸住宅に住む費用の2年分にしか過ぎない。家を持ち、そこに住み続けるのが、余裕のある老後を送るための最善の道なのだ。
屋根と外壁のメンテナンスが重要
家を長持ちさせるアンチエイジングリフォームのメリットについてこれまで述べた。ここではメンテナンスのポイントをもう少し詳しく説明する。アンチエイジングリフォームは、家を長持ちさせるのに不可欠な、外壁と屋根を中心としたリフォームである。
最低でも外壁と屋根をメンテナンスしておけば、なんとかなる。家にとっての最大の敵は水分だからだ。つまり「長く住み続けられる家」に保つことは、水分から家を守ることといっても過言ではない。雨水、生活用水、結露という家に関わる水分のうち、量が圧倒的に多く、家に与える影響も大きいのが雨水である。
科学技術・防水技術が発達した現代でも、雨漏りはなくなっていない。住宅瑕疵担保責任保険法人によると、新築時の欠陥によって起きた事故のうち、実に90%以上が雨漏りに関わるものだと報告されている。これほど技術が発達した今でも、なぜ雨漏りが起きるのか。
雨水から家を守っているのは、外壁、屋根、床下といった部位である。その中でも、風雨に直接さらされる外壁と屋根は特に大きな役割を果たしている。外壁と屋根は家の大敵となる雨水を防ぐ役割を担う、とても重要な部位である。ここを健全に保てるかどうかが、「長く住み続けられる家」を持てるかどうかの、大きな分かれ道なのだ。
メンテナンスの具体的進め方
ここでは家を長持ちさせるためのアンチエイジングリフォームの具体的な進め方、方法を述べる。いきなりメンテナンスにとりかかる必要はなく、まずは自身でチェックをしていただく。
ここで大切なことは、築10年前後には必ずメンテナンスが必要になるということだ。チェック項目は①外壁②屋根③床下(シロアリ)―の三つである。これを見るだけで異常がわかる。
◆ステップ1
家を一周して表1の外壁チェックの内容を確認して欲しい。一つでも当てはまれば、既にメンテナンスの時期にきている。まずは家を建てたハウスメーカー(HM)・工務店に相談することをおすすめする。
◆ステップ2
HM・工務店がきたら屋根も合わせて見てもらいたい。屋根は自身では見ることができない。屋根のチェック項目は表2をポイントにHM・工務店に見てもらい、報告を受けてほしい。
◆ステップ3
床下に潜ってもらい、シロアリがいないかをチェックして報告を受けてほしい。
この三つを確認して何か問題があれば、早急なメンテナンスが必要だ。特にシロアリがいたら必ず室内に水が入っている。シロアリがいる=シロアリは湿気が大好き=雨漏りがしている可能性があるからだ。
新築時の業者選びが大切
私自身、家はHMに建ててもらった。決断した理由はその会社が唯一、購入後のメンテナンスについて伝えてくれたこと。そして点検や保証など、「買った後の事」を説明してくれたからだ。これは今でも覚えている。
当時4社の業者を比較した。選んだHM以外は買う時のお金のことや間取りのことが話の中心だった。今買うべきだと強く押してきたのだ。家は購入後が大切で、保証とメンテナンスも考えなくてはといけないという直感が当時働いたのだが、今でも間違いをしなくてよかったと思う。
つまり家で大切なのは「購入後」のメンテナンスなのだ。新築する際には表3の質問をして、回答をもらえるところに決めたい。必ず自身で業者に質問してほしい。家は買ってからが大切なのだ。
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【執筆】
ヤマテック 代表取締役社長 山下 隆盛
ヤマテックのサイディング工事数は年間約1000棟。長年、家のアンチエイジングのためのメンテナンスリフォームを提唱し続けている。「外装リフォームのお困りごとをゼロにする」をミッションに、外装リフォームプロ集団を立ち上げ施工店を全国に増やすために活動中。木造リフォーム住宅塗装協会理事/建築士。著書に『あなたの持ち家が危ない』(アスコム)。