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住宅産業(2023年10月)
知っておきたい 断熱性能
2022年10月、日本住宅性能表示基準における断熱等級の最高等級が引き上げられ、世界基準となった。建物の断熱等級を後から上げることはできないため、新築時にどの等級を選ぶか、コストと性能の面から慎重に考えたい。筆者の断熱等級と性能に関する考え方と、最低限クリアしたい基準を紹介する。
最高等級が引き上げられた背景
省エネ住宅・建築が日本につくられ始められたのは、1973年の第1次オイルショック後であるが、普及は北海道や北東北の一部であった。諸外国ではオイルショックをきっかけにエネルギー問題を深刻に考えるようになり、エネルギー削減に各種の施策が実行され、現在に至っている。西欧などの先進国・先進地ではより高性能な断熱住宅が普及し、オイルショックの10年後には既に断熱等級7相当の省エネルギー住宅が普及し、義務化されていた。
そこから考えると日本の住宅・建築の省エネルギー政策は30年ほど遅れている。義務化の等級4はこれまでの次世代省エネルギー基準が元になっている。同基準は1999年3月に建設省によって改正された、日本の断熱化基準の通称である。多くの先進国の断熱基準より緩く設定されている上、法的拘束力が無いため、日本の住宅の断熱化率は先進国の中でも最低である。
2010年にドイツで行われたパッシブハウスカンファレンスで、日本の次世代省エネルギー基準の値を発表したら会場から笑いが起こったという。さらに、この基準が義務ではなく努力目標であり、住宅の30%以下しか達成していないと発言したら失笑を買ったそうだ。
第1次オイルショックから50年、次世代省エネルギー基準の登場から24年たったが、ようやく等級4(次世代省エネルギー基準)が義務化される。近年は輸入木材の高騰(ウッドショック)やウクライナ情勢により、石油価格や資材価格が急激に上がり、さらに省エネルギーや温暖化防止のための二酸化炭素(CO2)削減が求められる。
22年4月に新たに等級5が設置され、10月には上位等級である等級6と等級7が設置された。等級7が世界基準である。25年4月以降に着工する全ての建築物に「省エネ基準」等級4への適合を義務付けることが決まったが、義務基準の等級4の住宅は全日全館暖房すると一般住宅(部分間欠暖房)の暖房エネルギーの2倍ほどになり省エネルギー住宅とは言えない。
その反省から仕様が無理のない等級6が登場したが、まだ物足りなく、海外の先進地並みの等級7が登場した。ここでの問題は、図1のように等級6と7では仕様に差がある。等級6までは無理のない仕様だが、等級7では性能が最高級である分、コストがかかる。
断熱性能を表す指標
表のように新たに等級5、6、さらに7の新等級が設けられた。断熱等級7は最高等級で世界基準である。
省エネルギー住宅・建築は断熱性だけではなくライフ・サイクル・カーボン・マイナス(LCCM)住宅、認定低炭素住宅などのCO2削減と一体になっている。住宅の省エネルギー性能の頂点に立つのがLCCM住宅、等級7である。その下に、等級6、等級5のゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)、Nearly(ニアリー)ZEHと認定低炭素住宅、等級4の省エネルギー基準住宅がある。
等級4は当初は次世代省エネルギー基準と呼ばれ、現在は「平成4年基準」と呼ばれている。大部分の地域となる4―7地域の断熱の仕様は、天井がグラスウール1立方メートル当たり10キログラム・厚さ150ミリメートル、外壁と床がグラスウール1立方メートル当たり10キログラム・厚さ105ミリメートル、アルミ樹脂複合ペアガラスサッシ、三種換気で、在来工法を元に断熱・気密化する多少の工夫をした工法と仕様であった。
突如として超高性能な等級7が出るまでは、等級4―6が認識されていた。そこへ急に5―7地域で外皮平均熱貫流率(UA値)0・26の超高性能な等級7が新設された。UA値1平方メートルケルビン当たり0・26ワットの等級6と、1平方メートルケルビン当たり0・30ワットの等級7では性能、仕様、コストに雲泥の差がある。西方設計では独自に等級6と等級7の中間にUA値1平方㍍ケルビン当たり0・30㍗の等級6・5を設けた(表)。
最低限クリアしたい基準
当社では表のように最低限クリアしたい基準を等級6で「標準下限」とし、「標準」を断熱等級6・5、「推奨」を断熱等級7に設定している。省エネルギー住宅の等級区分は使い勝手の良さから便宜上UA値で表現されるが、暖冷房の省エネルギー性はUA値だけでなく、日射取得・日射遮蔽、換気排熱、内部発熱などの影響が大きいので最終的には一次消費エネルギーで考えたい。
省エネルギー住宅の良さはエネルギーやCO2の削減だけでなく、人に優しい室内空間が維持できることである。具体的には室温と表面(窓・壁)温度と流速などによる体感温度、湿度、空気質である。これらの要素から総合的に考え、最低限クリアしたい基準は等級6である。
義務基準のUA値1平方メートルケルビン当たり0・87ワットの等級4の住宅は、省エネルギー住宅とは言えない。室内温度環境は図2のように自然温度差が5・47度C、LDKの室温が9・3度Cで良好でない。室温を20度Cにするため全日全館暖房すると、一般住宅(部分間欠暖房)の2倍の一次エネルギーを消費するため、省エネルギーにならない。
新築時に最低限クリアしたい基準は、当社のUA値0・46の「標準下限は等級6」である。等級6の住宅は自然温度差が7・59度C、LDKの室温が13・3度Cで比較的良好な室内環境である。一次消費エネルギー量は等級4の50%削減である。
一次消費エネルギー量が等級4の70%削減となる推奨住宅(西方設計)はUA値0・26、等級7である。この住宅は自然温度差が10・6度C、LDKの室温が19・9度Cで良好な室内環境である。室温を20度Cに暖房するには、若干の一次消費エネルギーの使用で済む。日射がある日は昼も夜も無暖房である。
UA値0・46の等級6とUA値0・26の等級7は、仕様・コストともに差があり過ぎる。そのため、当社では中間のUA値0・30の等級6・5を設定した。UA値0・30でありながら、窓を大きくし日射取得を多くするなど設計の工夫から、一次消費エネルギーをUA値0・26の等級7と同様のレベルにする。
他社も同様に対応しているところが多い。等級6・5は等級4と比べ、コストが約2倍の1戸当たり約250万円アップで済む。等級6は等級4と比べコストが1・5倍の約100万円のアップ、等級7で約2・5倍の約340万円のアップになる。世界基準を考えながら、費用対効果が高い等級6・5を標準とし、予算が厳しくても最低限クリアしたい等級6にしよう。
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文中の室温や消費エネルギーなどは人口の大部分となる5-6地域(6地域の練馬)でのQpexシミュレーションによる
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【執筆】西方設計 西方里見
西方設計代表取締役。1981年に西方設計を開設。建築物の設計・工事監理の共同受注を行う「設計チーム木」の代表理事を務める。2008年に「サステナブル住宅賞」の国土交通大臣賞を受賞。22年に道の駅ふたついの設計が「木の建築賞」大賞を受賞した。