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住宅産業(2023年10月)
住宅政策の動向―住宅生産団体連合会/会長ごあいさつ
住まいに求められるものは何か―。人生100年時代を迎え、ライフスタイルも多様化する中、住宅にはより高い付加価値が求められてきている。耐震性・省エネ・バリアフリー、災害時にも暮らせるレジリエンス性など、家そのものの強さや快適さはもとより、魅力ある街並みやまちづくりにより、20代―30代の若年層からシニア層までさまざまなターゲットに向けて積極的な提案が行われている。ここでは住宅産業の状況やその取り組みを支える住宅政策・支援策について概観する。
本格的なストック型社会へ
わが国の住宅ストック総数は約6240万戸であり、そのうち人が住居している「居住世帯のあるストック」は約5360万戸である。数の上では既に住宅ストック数が世帯数を上回る状態となっている。
国土交通省の推計では、この中で、1980年以前に建てられたストックは約1300万戸、そのうち耐震性不足のものが約700万戸あるとみられている。国民が安全で安心して、豊かな住生活を享受できる持続可能な社会を構築するためには、十分な量の良質な住宅ストックの存在が不可欠である。
少子高齢化が進む中、住まいの維持管理、リフォーム、建て替えを適時適切に実施することで住宅ストックの質を向上し、有効活用を図ることは喫緊の課題となっている。
住宅省エネキャンペーン2023
こうした背景を踏まえ、2022年度の第2次補正予算では「こどもエコすまい支援事業」が創設された。高い省エネ性能(ゼロ・エネルギー・ハウス=ZEHレベル)を有する新築住宅の取得などに対する支援が継続するとともに、「先進的窓リノベ事業」「給湯省エネ事業」の支援措置が盛り込まれた。22年12月には国交省、経済産業省、環境省の3省連携による「住宅省エネキャンペーン2023」として打ち出された。
「こどもエコすまい支援事業」はZEH住宅に1戸当たり100万円を補助する。省エネと併せて行う一定のリフォームにも内容に応じた補助額が設定された。「先進的窓リノベ事業」は大きな関心を呼び、特にリフォームしやすい「内窓」の設置が大きな需要を生んだ。
これらの支援策は住宅市場の下支えとともに、ZEHの普及や省エネリフォームの推進につながっている。
一方、住宅価格の上昇が続く中(グラフ1)、実質賃金は前年割れの状況が続き、物価上昇に追いつくにはまだ時間を要するとみられる(グラフ2)。さらに長期金利の上昇という懸念材料もあり、こうした住宅取得環境の厳しさを考えると、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)の実現や子どもを産み育てやすい環境整備などにつながるよう、子育て世帯などの良質な住宅取得を引き続き切れ目なく後押しすることが必要となっている。
省エネ対策の加速
25年4月から省エネ基準への適合が全面義務化されるのに向け、諸制度においても動きがある。金融面では23年度からフラット35を利用する全ての新築住宅の融資基準に、省エネ基準適合が要件化される。
税制面では24年1月以降に入居する場合、住宅ローン減税の要件として省エネ基準適合が必須となる。さらに同年4月からは新しい「建築物の省エネ性能表示制度」が始まる。新たに建設される建築物の販売・賃貸を行う事業者は、販売・賃貸時に、その広告などに所定の省エネ性能ラベルを表示することが求められる。住宅を購入・賃借する際に省エネ性の把握・比較のため、制度を広く普及させることが重要になる。
空き家対策の推進
今年の通常国会では、改正空家対策特措法が可決され、6月に公布された。居住目的のない空き家は、この20年で1・9倍に増えており、今後さらに増加する見込みだ。
周囲に悪影響を及ぼす空き家を「特定空家」と呼ぶが、特定空家になってからでは対応に限界がある。空き家の活用拡大や特定空家になる前の管理不全空き家に対し、市区町村が指導・勧告するなど、特定空家化するのを未然に防止することなどが盛り込まれている。
ごあいさつ/住宅生産団体連合会 会長 芳井 敬一
豊かな住生活を実現
平素より住宅生産団体連合会(住団連)の活動にご理解・ご支援を賜りまして、誠にありがとうございます。
現下の住宅市場はウクライナ危機の長期化などによる世界的な物価高、大幅な円安などの影響により、建築資材価格も高騰し、受注や着工への影響が出ております。新設住宅着工戸数も年率換算で約81万戸前後と低調で、とりわけ「持ち家」の着工戸数は、8月時点で21カ月連続の前年同月比マイナスが続き、大変厳しい状況にあります。
また昨今の金利の上昇により、住宅ローン利用者の負担がさらに大きくなることが懸念されており、省エネ性能の高い住宅の取得やリフォームに対するマインドが冷え込みかねない状況です。
こうした中、昨年の補正予算で措置された「こどもエコすまい支援事業」など3省連携による省エネ住宅の支援策は大変ありがたい支援策であり、ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)、長期優良住宅の促進や性能向上リフォームの推進により、良質な住宅ストックの形成に向け一層の取り組みを行っているところです。
「住生活産業が目指すべき姿」として、住団連は2022年3月に「住生活産業ビジョンVer.2021」を策定し公表いたしました。ビジョンの中では30年までに住生活産業が目指すべき姿や国に期待される取り組みとして、「良質な住宅ストックの形成」「人生100年時代に適応した豊かな住生活の実現」「次世代の子どもたちを育む住環境の整備」「DXの推進による生産性の向上」など、住生活産業界が中長期的に取り組むべき方向性を示しました。
住宅は「生きる場所」としての生活の基盤であると同時に、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)社会の実現など重要な社会基盤としての役割もあります。住団連は「内需の柱」と言われる住宅市場の落ち込みによる日本経済の減退を防ぐための経済対策、住宅税制・住宅政策への要望活動を行っていくとともに、引き続き豊かな住生活の実現に向け積極的に活動してまいります。