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万全な熱中症対策を
春の大型連休が明けると、日増しに暑さを感じるようになる。それと同時に、熱中症の発生リスクが高まってくる。熱中症によって仕事を何日も休むことになったり、最悪の場合に命を落としたりするのは、本人や家族にとってつらいばかりでなく、事業者にとっても大きな痛手になる。暑さが本格化する前に十分な対策を進めて、今年の夏を皆で無事に乗り切ろう。
職場の安全・健康守る 労災防止―重要テーマ
昨年の救急搬送9万人超/職場の死亡災害も多数発生
熱中症は高温多湿な環境に身を置いた際、発汗が進む一方、身体が十分に冷やされず、体内の水分とナトリウムなどの塩分のバランスが崩れたり、体内の調整機能が破綻したりすることによって発症する。体温調節機能がうまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態になることだ。
症状はめまい・失神、筋肉痛・筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐(おうと)・倦怠(けんたい)感・虚脱感、意識障害・痙攣(けいれん)・手足の運動障害、高体温など。症状が重い場合は死亡することもある。
熱中症発症者は例年5月頃から現れはじめ、暑さの盛りとなる7、8月にピークを迎える。総務省消防庁のまとめでは、2023年5-9月の全国の熱中症救急搬送数は9万1467人。記録的な猛暑だったこともあり、22年同期比で2万438人増だった。
年齢区分では65歳以上の高齢者が5万173人(54・9%)、18歳以上65歳未満の成人も3万910人(33・8%)が救急搬送されている。また、救急搬送先医療機関での初診時の傷病程度は6万1456人(67・2%)が軽症(外来診療)で済んだが、長期入院が必要な重症者が1889人、死亡者は107人だった。熱中症は決して軽く考えてよいものではない。
職場での発生状況は厚生労働省のまとめによると、23年までの過去10年間の職場での熱中症死傷者(死亡者・休業4日以上の業務上疾病者)は、厳しい猛暑となった18年の1178人が最大だが、記録的な猛暑だった23年も1045人(速報値)と、18年に迫る死傷者数を記録した。23年の死亡者数は22年の30人よりは少ないものの、速報値で28人が命を落としている。熱中症の危険性について、認識は広がっているものの、対策はまだまだ十分ではないと言える。
過去5年間の熱中症死傷者数を業種別にみると、建設業が最も多く、次いで製造業。この2業種で約4割。月別の死亡災害は、過去5年間では全体の8割弱が7月と8月に発生している。23年の死亡災害は6月1人、7月16人、8月9人、9月2人だった。
水分補給、休憩は不可欠/暑さ指数の有効活用も
このように熱中症は働く場面でも毎年のように多くの死傷者が発生しており、職場の安全と健康、労働災害防止の観点から重要なテーマだ。事業者は作業環境を適正に管理することが求められる。
熱中症のいちばんの対策は職場(作業場所)の暑さを抑えること。その前段として、職場の温湿度環境の把握が必要だ。指標となるのがWBGT(暑さ指数)。気温、湿度、風速、輻射(放射)熱から算出される暑さの指数で、作業や運動の度合いに応じた基準値が定められている。
WBGTが基準値を超えるおそれがある場合は屋根(日よけ)、通風・冷房設備、ミストシャワーなどの散水設備といった設備・機器の設置が有効だ。
作業者の対策としては透湿性・通気性のよい服装とすること。積極的に体を冷却する機能を備えた服も登場している。また、涼しい場所で休憩をとること、体から失われた水分・塩分を適切に補給することも不可欠だ。
もし職場で熱中症が疑われる人が発生した場合はまず、エアコンの効いた室内や風通しのよい日陰などの涼しい場所へ避難させる。そして衣服を緩めて体を冷やし、水分・塩分、経口補水液などを補給する。
症状が重い場合は急を要する。とりわけ自力で水が飲めない、意識がないときは、迷わず救急車を呼ぼう。
24日から警戒アラート運用
厚生労働省は労働災害防止団体などと連携し、職場での熱中症予防対策を呼びかける「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を5月から9月まで実施する。事業者に対して、すべての職場において「職場における熱中症予防基本対策要綱」に基づく基本的な熱中症予防対策を講ずるとともに、①WBGTの把握と予防対策の実施②管理者や労働者への労働衛生教育の実施③糖尿病、高血圧症などの持病がある従業員熱中症の発症に影響を及ぼすおそれのある疾病を有する者に対する配慮―など、重点的な対策の徹底を図るよう呼びかける。
環境省は24日、同省の熱中症予防情報サイトでWBGTの情報提供を開始する。今年の運用は10月23日まで。WBGTの実況と予測を中心に、関連資料の提供などを行う。