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研削盤&研削加工技術(2023年8月)
EVモーターシャフト対応 広幅円筒研削盤の開発―ジェイテクトグループの総合力でお客さまのチカラに
近年、持続可能な社会の実現に向けた全世界的な取り組みが一層加速している。日本は「2050年カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)」を宣言し、「グリーン成長戦略」を策定、「乗用車は、35年までに新車販売で電動車100%を実現する」と掲げた。「EVシフト」(電気自動車化)が一層加速され、ガソリン車に代わってEVが自動車産業の中心に躍り出ようとしている。そのような動きの中で、EV関連部品を効率よく生産できる新たな商品の提供が急務となった。ここではジェイテクトブランドの円筒研削盤技術とセンターレス研削盤技術を融合し、EVの主要部品であるEVモーターシャフトを効率よく生産するために開発した広幅円筒研削盤について紹介する。
広幅円筒研削盤「C6040E」開発の狙い
EV普及に向けた課題の一つが、求めやすい価格で販売するための生産性の向上である。そこで重要となるのが量産化対応であり、それを可能にするのが「eアクスル」だと言われている。
eアクスルは駆動用モーター(EVモーター)やインバーター、減速機などをパッケージ化したEV専用パワートレーンであり、その主要部品の一つがEVモーターシャフトである。EVモーターシャフトは回転時の動バランスに優れることが求められるため、ほぼ全外周面を研削する。
EVモーターシャフトのような異なる外径が複数箇所存在するシャフト部品を大量生産する研削方式としては、シャフト全長に相当する砥石(といし)幅を持つセンターレス研削盤を用い、加工径に対応した砥石を組み合せ、インフィード(ワンプランジ)研削する方式が最も効率が良い。ただ、EVモーターシャフトにおいては内径スプラインとの兼ね合いもあり、センター基準での部品精度が要求されていることが多く、実験結果や実績によりセンターレス研削盤を採用するユーザーもあるが、工程保証の観点からセンター基準で研削する円筒研削盤を要望するユーザーが多い。
円筒研削盤は自由度が高く型番変更などに対応しやすい半面、研削箇所を1段ずつプランジもしくはプランジ+トラバース加工するため工作物1個当たりの加工時間が長くなる。このため設備を複数台並べ研削箇所を分散することでタクトタイムを確保することになり生産ラインも長くなる。これらの課題を克服するために開発したのが、「第31回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2022)」で展示した広幅円筒研削盤「C6040E(図1)」である。
ジェイテクトグループではTOYODA、Koyoとそれぞれのブランドを冠し成長を続けてきたが、22年4月ブランドの垣根を越え、グループ社員一人ひとりが一丸となりすべてのユーザーに貢献していくという決意のもと、ブランドをJTEKTに統一した。これを機にジェイテクトグループの円筒研削盤技術とセンターレス研削盤技術を融合することで(図2)、EVの主要部品であるEVモーターシャフトの高効率生産を実現する設備を目指し開発を行った。
開発コンセプト
①かつてない生産性
「圧倒的スペース生産性」を実現するため、シャフトの全外周面を一挙同時研削可能な機械構成を追求した。外径610ミリメートル×組み幅405ミリメートルの砥石を搭載できるスピンドルとしてはセンターレス研削盤で実績のある軸両端に軸受を備えた両持ち砥石軸を採用、モーター容量は45キロワットをラインアップした。工作物を保持し回転駆動させサポートする主軸台・心押台・振れ止めや検測ユニットには円筒研削盤で実績のあるツーリングユニットを採用、ジェイテクトグループ研削盤ラインアップの技術を融合した。これによって設備1台で全工程一挙同時研削を実現した。
EVモーターシャフトの多くが5―8段の段付き形状となっており、従来の加工方法は3工程3台分割加工となっていた。円筒研削盤を3台稼働させ1台目でシャフト左の3箇所のプランジ研削、2台目で中央部トラバース研削、3台目でシャフト右の3箇所のプランジ研削を行い、タクトタイムは60秒である。
複数台で研削していたこのシャフトを広幅砥石で一挙同時研削し、加工をこの1台で完了させることでタクトタイムが最速の40秒になった。従来の生産方式に比べ生産ライン長を最大70%の大幅削減し、タクトタイムも33%の短縮を実現した(図3)。
②抜群の品質
工作物全幅で安定した寸法精度を確保するため、機械構造を徹底的に追求、アライメント変化を極限まで低減した。シャフトの全外周面を一挙同時研削する上で懸念されるのは、工作物にテーパー(先細り)が発生することである。
テーパーの発生要因は、砥石軸と主軸間のアライメント変化であり、原因として研削負荷による変化、熱変位による変化が考えられる。
砥石軸には研削する工作物長さと同等の組み幅の砥石を搭載する必要があるが、片持ち砥石軸ではオーバーハングが大きくなり研削負荷により砥石軸に傾きが発生する恐れがある。C6040Eではセンターレス研削盤で実績のある両持ち砥石軸を採用し、理論上砥石軸の傾きの発生をゼロとした。また、熱変位に対してはベッドおよびクーラント回収路を熱対称構造とし熱影響を最小化した(図4)。
③こだわりの操作性
画面構成は、「モニタ」「手動操作」「段取操作」「条件設定」「異常表示」の作業単位のメニューで構成され、画面切り替えのストレスなく操作できるようにしている。研削データはさまざまな工作物に対応できるようオプションで最大100品番(標準は10品番)登録を可能とした。広幅円筒研削盤は、シャフトの全外周面を一挙同時研削するプランジ研削のみのため、オペレーターが自らプログラムを作成したり、対話式操作によって研削サイクルを作成したりする必要もなく、あらかじめ工作物型番に対応した研削条件パラメーターを設定しておき選択するだけでサイクル実行が可能となる。
各種条件画面に移動量や速度を入力するだけであるが、文字のみの入力欄では実際どのように動作するのかビギナーの方には分かりにくい。C6040Eでは入力パラメーターがどの箇所に作用するのか分かりやすいよう縦軸に移動量、横軸に時間の研削動作を表した画面を用意し、そこにパラメーターを入力できるようにした(図5)。
カーボンニュートラル
カーボンニュートラルの取り組みは、製造工程での生産性向上により、“良質廉価”なモノづくりを追求していくことが最も重要である。広幅円筒研削盤でシャフトの全外周面を一挙同時研削することで、設備台数を削減、3台稼働させる場合に比べ18%の使用電力の削減が見込める(図6)。ほかにも次に挙げる項目に取り組んだ。
①クーラントポンプの省エネ(オプション)
設備の待機時間にクーラントポンプを停止する。研削盤の消費電力においてクーラントポンプの占める割合は大きく、これを非加工時間に停止することで、待機時間における使用電力の大幅な削減を実現する。
②省エネ油圧ユニット(オプション)
省エネ油圧ユニットの「トヨパックECOⅡプラス」を採用することで油圧ユニットの消費電力を最大50%削減する。
③エネルギーモニター
設備の消費電力量、エア使用量を二酸化炭素(CO2)排出量に換算、設備の状態別に記録、積み上げグラフ表示し、エネルギーの見える化を実現。また、時間・週・月ごとの積算表示を切り替え可能で、設備のエネルギー使用量の変化や状態把握に役立つ(図7)。
より多くのユーザーに
EVモーターシャフトの大量生産を想定し開発した広幅円筒研削盤であるが、「型番対応や、ほかの部品で全長の異なる型番と段替えしながら生産したい」というニーズもある。組み幅の広い砥石を使用する上でネックとなるのが、段取り替えで組み幅の異なる砥石に交換しなければならない点だ。これらの問題を解決するアイテムとして、当社のセンターレス研削盤で多く採用されている幅調整スピンドルがある。このスピンドルを広幅円筒研削盤にも搭載できるようにし、23年10月開催の「メカトロテックジャパン2023(MECT2023)」に出展する。
幅調整スピンドルは固定側と移動側の砥石フランジ間の距離を自動調整でき、コンプレッサーシャフトなどの容量によって全長の異なる工作物の多型番対応として多く採用され、コンプレッサーラインの生産性向上に貢献している。ジェイテクトブランドの研削盤は円筒研削盤・センターレス研削盤・平面研削盤・内面研削盤・特型専用研削盤など豊富なラインアップがあり、それらのオプション機能や制御システムを活用することでより多くのユーザーの要望に対応する。
おわりに
ジェイテクトグループの研削盤は長きにわたり、各時代の要求に応え改良・進化してきた歴史がある。今回、EV化という大きな時代の変化に合わせ、信頼の基盤技術を融合し、圧倒的スペース生産性でユーザーの満足度を向上させる良質廉価な研削盤を開発した。
今後もグループシナジーを発揮し、ナンバーワン&オンリーワンの商品・サービスの提供に努め「地球のため、世の中のため、お客様のため」に貢献し、よりよい未来づくりにまい進していく。
【執筆】
ジェイテクトマシンシステム
工作機械・メカトロ事業本部 技術開発センター開発部
部長 倉橋 一徳