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ウェルビーイング/「幸せ」への4つの心的因子
ここではまず世界保健機関(WHO)の健康の定義を引用しながら、ウェルビーイングの定義について述べる。また、最近のウェルビーイングに関する動向や、筆者らが求めた幸せの四つの因子について述べる。幸せの四つの因子とは、自己実現と成長の因子、つながりと感謝の因子、前向きと楽観の因子、独立と自分らしさの因子である。
SDGsを束ねて包含する上位概念
ウェルビーイング(well―being)という単語は、1946年にWHOの健康の定義の中で使われたのが最初と言われている。原文は“Health is a state of complete physical, mental and social well‐being and not merely the absence of disease or infirmity.”である。
日本語に訳すと「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」(平成26年版厚生労働白書)となる。
ここではウェルビーイングは「良好な状態」と訳されている。確かに、wellは良好、beingは状態という意味だから、読んで字の如く、良好な状態という訳はしっくりくる。
なお、近年の日本WHO協会は「満ち足りた状態」と仮訳しているが、厚生労働白書の訳の方が直訳的であると言えよう。近年の日本ではウェルビーイングが「幸せ」という意味で使われることが増えている(図1)。
また、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の3番目「すべての人に健康と福祉を」を参照するに、ウェルビーイングはSDGsの一部と考えることもできそうである。
しかし、SDGsは地球上に生きる全てにとってウェルビーイングを達成する目標であり、複数のゴールがある。このことから、ウェルビーイングはSDGsを束ねて包含する上位概念であるということもできよう。
そのように考えるならば、地球環境問題の解決も社会のウェルビーイング向上のための取り組みである。
近年の社会の動向を見ると、学術界では2021年にウェルビーイング学会が設立された。ウェルビーイングを名称に含む研究期間も増えている。武蔵野大学には今年4月に世界初のウェルビーイング学部が設立される予定だ。
産学官で取り組み活発化
産業界では、社内にチーフ・ウェルビーイング・オフィサー(CWO)やチーフ・ハピネス・オフィサー(CHO)を置く企業が増えつつある。「日経ウェルビーイングシンポジウム」の開催や、「朝日新聞ウェルビーイングアワード」の実施など、ウェルビーイングに関する取り組みが盛んである。自由民主党ではウェルビーイング計画推進特命委員会が開催されている。
また、文部科学省の第4期教育振興基本計画では「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」が基本コンセプトの一つとして掲げられた。デジタル庁ではデジタル田園都市国家構想が推進されており、ここでの指標としてウェルビーイングのアンケートが活用されている。
以上のように、産学官においてウェルビーイングに関する取り組みが活発化していると言えよう。
最後に筆者らの研究の一部を述べる。筆者らは、幸福に影響する要因29項目87個の質問を作成し、インターネットで1500人の日本人に対してアンケートを行った。
アンケート結果を因子分析した結果、幸せに影響する四つの心的因子を求めた。結果は以下の通り(図2)。
●第一因子 自己実現と成長の因子(やってみよう因子)=目標を達成したり、目指すべき目標を持ち、学習・成長していること。この因子は、自己肯定感と高い相関がある。
●第二因子 つながりと感謝の因子(ありがとう因子)=多様な他者とのつながりを持ち、他人に感謝する傾向、他人に親切にする傾向が強いこと。多様なつながりが幸福度に寄与することもわかっている。
●第三因子 前向きと楽観の因子(なんとかなる因子)=ポジティブ・前向きに物事を捉え、細かいことを気にしない傾向が強いこと。自己受容(自分のいいところも悪いところも受け入れること)や楽観性がこの因子に関連している。
●第四因子 独立と自分らしさの因子(ありのままに因子)=自分の考えが明確で、人の目を気にしない傾向が強いこと。人と自分を比較し過ぎる人は幸福度が低いので、はっきりとした自分軸を持って自分らしく生きることが重要だ。
【執筆】
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授
(2024年4月より武蔵野大学ウェルビーイング学部学部長就任予定)
前野 隆司
1986年東京工業大学修士課程修了。キヤノン、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授などを経て現職。博士(工学)。専門は、システムデザイン・マネジメント学、幸福学、イノベーション教育など。
