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岐阜県産業界
岐阜県の産業界は製造業に特徴を持つ。刃物、陶磁器・タイル、家具・木工などの多様な伝統産業を基盤としながら、自動車や航空機、工作機械、電子部品、樹脂部品などさまざまな製造業が集積している。2021年での事業所数に占める製造業の割合は13・2%で全国1位だ。その岐阜県の産業界が変革期を迎えている。各社は成長分野への投資を積極化。新技術の開発、新事業分野の開拓にも果敢に挑んでいる。
地域産業基盤の底上げ図る
蓄積を独自技術に
長年蓄積したノウハウを独自技術に昇華する企業もある。制御盤などの板金加工を手がける津田工業(岐阜県各務原市、津田義久社長)は、業界で一般的な溶接をリベットでの締結に置き換えるなどして自動化と品質向上を追求する。切断用レーザー加工機で平面の突き合わせ溶接をする技術も開発。三重大学大学院工学研究科と共同で汎用化の研究も進めている。
プレス金型のシバ金型(岐阜県各務原市、芝世志造社長)は、技術力とアイデアで顧客の困りごとに寄り添う。丸パイプの360度の全方向に1工程で同時に複数の穴を開ける特殊工法も実用化している。工程を集約して無駄なく高精度に加工できるのが特徴だ。
シリコーン材料・加工のタナック(岐阜市、棚橋一成社長)は注射の痛みを軽減する子ども用冷却パック「ぷにゅ蔵くん」を神戸市立医療センター中央市民病院と共同開発した。冷たさで痛みが感じにくくなる作用を応用した一般医療機器だ。自社製ゲル素材「クリスタルゲル」により冷えても固くならないのが特徴だ。
製造業を支援
製造業を支援するため、岐阜県の金融機関や特許事務所も新たな取り組みを進めている。十六フィナンシャルグループは中小企業・個人向け事業でりそなホールディングスと包括的な業務提携をした。りそなの商品やサービスを地盤の愛知県と岐阜県で提供し、顧客支援や人材育成・活用でも協力していく。
大垣共立銀行は岐阜大学が学内に新設したオープンイノベーション拠点「トーカイオープンイノベーションコンプレックス」内に、スタートアップや産学連携の支援拠点「OKBスクラム」を4月1日に開設する。有望シーズの発掘、学生の企業支援にも取り組む。
岐阜信用金庫(岐阜市、好岡政宏理事長)は3月に創業100年を迎えた。記念事業として創業地の岐阜市中心部に夢を体現する次世代型店舗を25年4月に開業する。岐阜県産の木材や再生材料を活用し太陽光発電設備も設置。顧客への提案力強化に加え、スタジオや地域に開放するイベント・交流スペースを備える。情報発信や交流の拠点とする。
オンダ国際特許事務所(岐阜市、恩田誠所長)は国内有数の大手特許事務所だ。奈良先端科学技術大学院大学と連携し人工知能(AI)の活用も研究している。外国語に自動翻訳した特許申請書類(明細書)の確認システムなどを実用化。クライアントの知財戦略を総合的に支援する。
インタビュー/岐阜県工業会会長 林 彰氏
適正価格での賃上げ促す
人材確保や自動化、デジタル変革(DX)、カーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)など産業界が対応すべき課題は多い。同時にそれはビジネスチャンスでもある。この変革期に製造業はいかに向き合うべきか。岐阜県工業会の林彰会長に話を聞いた。
変革への対応を支援
―今の経営環境をどう見ますか。
「CNやDXをチャンスと考える経営者は表情が明るい。一方これらの対応には人材も必要で、岐阜県には中小企業が多く負担でもある。対応は不可欠で、少しずつでも取り組むしかない。岐阜県は伴走支援に力を入れており、当工業会もサポートをする」
―人材不足が深刻です。
「(工業出荷額日本一の)愛知県に隣接し岐阜県からは次世代の製造業を担う若い人材が流出している。自動化にも人材が必要で、人が採用できない今の状態が数年続けば日々の生産にも支障が出かねない。食い止めるには賃上げが必要。物価高騰の中、取引先と適正な価格交渉し原資を確保すべきだ」
―DXも課題です。
「人工知能(AI)はデータ処理や外観検査に有効。熟練技能者の経験知のデジタル化も重要だ。特に中小企業では専任者の確保が難しいが、やらないと取り残される。受発注や生産の管理・計画などの基幹システムを導入した企業は多いが、生産システムとの連動も課題。工場設備全体の監視制御システム(SCADA)の導入こそDXだ」
―SDGs(国連の持続可能な開発目標)への対応も必要です。
「特にCNが重要。関連設備の導入・更新や再生可能エネルギーの購入に加え、パソコンのコンセントを抜いて帰宅するなど社員一人ひとりができることもまだ多い。温暖化ガスの排出量を把握し、みんなで取り組む雰囲気をつくるべきだ」
―工業会としての支援策は。
「関連の講習会などを随時企画する。技術経営者を育てる研修会「工場長塾」も継続する。コロナ禍で中断していた海外視察も今年は再開し、新たな商機を探る機会にしたい」
―2年に1度の展示会「ものづくり岐阜テクノアフェア」を10月25日、26日に岐阜市で開催します。
「新技術・新製品の開発や新販路の開拓は自社や同業だけでは解決しない場合も多い。ビジネスマッチングの機会として来場者へのPRに加え、出展者同士も交流してほしい」