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歯車産業
歯車は動力や運動を伝達する機械要素として、さまざまな製品に組み込まれている。時計やカメラなど身近な製品から、建設機械や船舶など大型の機械まで、あらゆる大きさの製品の性能を支えてきた。国内のモノづくりの中核である自動車産業が電気自動車(EV)へシフトし、歯車加工機も新たなニーズに応じた新製品が登場している。
高精度化でEVの静粛性に貢献
歯車はエンジンやモーターなどの動力機が生み出す回転を、回転数や回転方向を変えながら機械の各部に伝える伝動機構の役割を持つ。自動車や工作機械、ロボット、産業機械など多岐にわたって利用されている。近年では、脱炭素化社会の実現に向けてさまざまな産業が動き出しており、原動機の電動化が進んでいる。特に自動車差業では、電気自動車(EV)向けのモーター開発に注目が集まっている。
またEVの性能に大きな影響をあたえる歯車として、減速機用の歯車がある。減速機の構成が変わり、使われる歯車の数そのものは減少する傾向にあるが、走行時の静粛化や航続距離を高めるために伝達効率の向上が必要とされる。また高速回転・高減速比によりかみ合い周波数が増加するため、より高品質な歯車が求められている。
一方で、EVの量産に向けて生産性を確保しなくてはならないという側面もある。歯車加工技術は現在、加工精度と生産性を両立することが強く求められている状況だ。こうしたニーズに応えて需要が高まっているのが、汎用のマシニングセンター(MC)や複合加工機を用いたギアスカイビング加工だ。加工対象物(ワーク)と工具を同期して高速で回転させながら、歯の溝をそぎ取るようにして成形する。加工速度と精度に優れ、歯すじ修正が容易なため高精度な歯車加工にうってつけだ。
ギアスカイビングに用いる加工機は、専用機に加え、MCや複合加工機にギアスカイビング機能をもたせて工程を集約したものもある。かつては汎用性の高いMCは歯車加工に適応できるほどの精度が発揮できないとされていたが、近年は数値制御(NC)技術の発達や加工機の高精度・高剛性化に伴い複雑な形状にも対応できるようになっている。現在では特に大量生産を伴わない大型歯車は5軸MCによる加工が主流になりつつある。
またMCで加工すれば工具にエンドミルやディスクカッターが使用できるため、専用工具で加工するよりも効率がよく、納期の短縮にもつながる。さらに歯車加工専用の歯切り盤などでは難しかった立体的な形状の歯車も加工しやすくなり、特にベベルギアの設計の自由度は高まると考えられている。また、産学連携も進み工具経路の条件などを細かく補正していけば、小型のベベルギアでも5軸MCでの高精度加工が期待できることが明らかになっている。
小型加工機の投入相次ぐ
11月5-10日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される日本国際工作機械見本市(JIMTOF2024)に向けて機運が高まる中、新たな加工機の投入も増加している。
三和精機(名古屋市名東区、久留俊弘社長)は、新型の小型ホブ盤「SHF-08」を開発した。同社の従来機に比べて3割の省スペース化を実現しつつ、剛性を高めて精度を向上させた。電動駆動装置「eアクスル」や産業用ロボット、減速機、2輪車などに用いる歯車加工需要の取り込みを狙う。
サイズは幅1680ミリ×奥行き2150ミリ×高さ2000ミリメートル。主軸の組み付けの工夫やベッドの構造の見直しにより、小型化と高剛性化を両立した。モジュール2までのスカイビング加工に対応。オプションで超硬ホブによる焼き入れ後の高精度仕上げ加工を実現する。
ホブ最大回転数は標準で毎分5000回転、オプションで同9000回転に高速化が可能。またワーク軸最大回転数は標準で同600回転で、オプションによって同1500回転に高められる。
加工室内は完全密閉式の傾斜カバー構造にして切り粉の堆積を抑制。カバーの取り外しを簡単にできるようにし、保守をしやすくするとともに、ローダーの設置を容易にする構造にして、自動化をしやすくした。
ブラザー工業は歯車加工用の工作機械市場に進出する。主軸30番テーパの小型MC「スピーディオ」シリーズにスカイビング加工やホブ加工といった歯車加工機能を持たせ、歯車製造の需要を開拓する。従来から対応するマシニングと旋削の複合加工に歯車加工も加わり、3台分の加工が1台で可能になる。9月に米シカゴ市で開かれた国際製造技術展(IMTS)で初披露した後、今秋をめどに受注を始める。
スピーディオの複合加工機「Mシリーズ」のオプション機能として展開する。小型から中型の部品加工に適する30番MCで歯車加工をするのは珍しい。
主軸と旋削主軸を指令した回転比率で同期回転することでスカイビング加工やホブ加工を実現。主軸に対する旋削主軸の位相角度を補正する機能も備え、ヘリカルギア加工も可能にした。
摩擦軽減する工法に注目
歯面の形状に加え、表面の改質も重要性が高まっている。歯面を滑らかにすることで余計な負荷を取り除き、耐久性を高めることが可能だ。またノイズの発生も抑えられ、静粛性も高まる。
近年特に注目されているのが、歯面研削の後に歯面を鏡面状に仕上げる「ポリッシュ研削」を施すことでより加工精度を高める方法だ。1台の研削盤で歯面研削とポリッシュ研削ができる加工機もあり、リードタイムの短縮にも貢献可能だ。歯車メーカーによると、従来よりも高度なポリッシュ加工のニーズも増えているという。従来は歯面の摩擦を軽減する目的だったが、鏡面度を保ちつつ細かい溝を表面につけることができれば溝に潤滑油を保持でき、より歯面を滑らかにすることができる。より高精度な加工が求められるようになっている。
需要に応えて、加工技術の開発も進んでいる。ニデックマシンツール(滋賀県栗東市、二井谷春彦社長)は、遊星歯車機構などの内歯車を高精度に仕上げる量産用ポリッシュ(研磨)加工法を開発した。同加工法は外歯車向けでは確立されているが、内歯車向けは世界初という。従来の研削やホーニング、スカイビングといった加工法では得られなかった精度を実現し、歯車の耐久性や伝達効率などの向上につなげられる。
新開発の加工法は独アーヘン工科大学との共同研究の成果の一部で、同社の量産用内歯車研削盤「ZI20A」を使用した。
同研削盤は歯車の歯から歯へと連続的にかみ合いながら軸方向に砥石(といし)を動かす独自の仕上げ加工法を搭載。この加工機と加工技術を基に、砥石の回転数や加工時間などの加工条件を導き出し、外歯車ポリッシュ加工法と同等の精度を内歯車で実現した。
複雑形状にも対応
EV向けの歯車形状で複雑化が進む中、各メーカーは形状やサイズに適した表面処理を選択する必要がある。
近年、減速機の小型・軽量化に伴い歯車と歯車の隙間を狭く設計した多段形状の歯車が増加傾向にある。加工時に歯車に工具が干渉してしまうため、仕上げが難しい。
こうした複雑形状の歯車の加工精度を高める方法として、ギヤホーニングがある。内歯車の形状をした砥石をワークとかみ合わせて歯面を研削する加工法で、歯面に斜めの細かい溝ができるのが特徴だ。一般的な歯車研削と区別するためにギヤホーニングと呼ばれている。砥石軸とワーク軸に交差角を持たせることで、歯面がどの位置にあっても横滑りするようにして研磨する。多段形状の歯車でも隣り合う形状同士の干渉が最小限で済むのがメリットだ。滑り速度を確保するためにはある程度の交差角が必要となるが、交差角が大きくなればなるほど砥石が歯車に干渉してしまう。多段形状の歯車の小型化に対応するためには、最小限の交差角の設定が必須となり、こうしたニーズに対応する加工機も出始めている。
あらゆる機械に組み込まれる歯車だが、国内産業の中核を担う自動車産業の影響は大きい。EVシフトが進む中、より高精度で生産性効率の高い加工法が求められ、各メーカーはよりニーズに適応した歯車製造のため取り組みを進めていく。