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工業炉と関連機器
経済産業省が2023年2月にまとめた報告書によると、日本における二酸化炭素(CO2)総排出量のうち、工業炉起源が13・5%を占める。工業炉での高温加熱プロセスはあらゆる産業の製造現場で必要不可欠な一方、大量の化石燃料を消費する。中外炉工業は製鉄プロセスにおける加熱炉およびプロセス炉の脱炭素化を目指し、アンモニア燃焼技術、水素燃焼技術、電熱技術の開発に取り組んでいる。
燃焼技術開発における脱炭素化の取り組み
【執筆】中外炉工業 商品開発部 服部 成真
脱炭素化へ加速
当社は23年に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/製造分野における熱プロセスの脱炭素化」(以下、本事業)の実施予定先の一つとして採択された。本事業の実施にあたり、国内工業炉メーカー、工業炉ユーザー、大学、研究機関が参画する脱炭素産業熱システム技術研究組合(東京都港区)が組織された。複数のグループに分かれ、各種工業炉における脱炭素化技術の開発に取り組んでいる。
当社の研究開発テーマは①アンモニアを燃料とする鉄鋼加熱炉・プロセス炉の開発②水素を燃料とする鉄鋼プロセス炉の開発③トランスバース型誘導加熱技術による鉄鋼プロセス炉の開発―だ。
なお、プロセス炉は金属の薄板を連続的に焼鈍する設備である。研究開発実施期間は①②が23年度から最長9年間、③が最長6年間で、期間中はNEDOによるステージゲート審査が2回実施される。
当社は19年から工業用アンモニアバーナーの開発に着手し、「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的アンモニア燃焼による脱炭素工業炉の開発」(21―22年度)では、リジェネバーナーおよびラジアントチューブバーナーのプロトタイプを用いて、アンモニア専焼技術開発に取り組んだ。
本事業では先導研究の成果をもとに、加熱炉向けアンモニア燃焼式リジェネバーナーおよびプロセス炉向けアンモニア燃焼式ラジアントチューブバーナーのスケールアップを行っており、当社では30年代初頭までに両バーナーの社会実装を目指している。
これにより、アンモニア燃焼時の課題である点火性改善や、燃焼安定性改善および未燃アンモニアの残留抑制に加えて、燃料中の窒素分に由来するフューエル窒素酸化物(NOx)の生成抑制の両立を目指す。さらに、アンモニア燃焼が炉やバーナーの構成材料や製品品質に及ぼす影響も体系的に評価する。これらの技術的成果はパイロットスケール設備への展開を通じ、複数バーナー燃焼時における制御技術、つまり炉としての制御技術の開発と、実機を模擬した操業条件下での検証を行い、社会実装の早期実現を目指す。
当社の工業用水素バーナーの開発の発想は10年代中盤まで遡る。18年にはトヨタ自動車との共同開発で汎用性の高い工業用バーナーであるHSGB型ハイスピードガスバーナーの水素専焼化に成功した。
その後、一般熱処理炉向け小型ラジアントチューブバーナー、HSGBバーナーにおける短炎化、オリンピア工業と共同開発したガンタイプバーナー、超低NOxバーナーおよびリジェネバーナーの開発を行い、すべて製品化に成功している。
本事業では一般熱処理炉向け小型ラジアントチューブバーナーの設計思想をもとにプロセス炉向けにバーナーのスケールアップを行い、水素燃焼時の課題である低NOx燃焼技術開発にも取り組んでいる。また、水素燃焼がラジアントチューブバーナーの構成材料に及ぼす影響についても体系的に評価する。これにより、水素燃焼環境下における耐久性に優れた材料の選定を目指す。
プロセス炉の可能性探る
最後に電熱技術開発を紹介する。トランスバース型誘導加熱技術の開発を通じ、プロセス炉の脱炭素化に貢献することを目的としている。また、トランスバース型誘導加熱と抵抗加熱ヒーターとの組み合わせなど、新しいプロセス炉の可能性を探る。
トランスバース型はソレノイド型と比べて非磁性体や薄板鋼板の加熱に適している一方、端部過加熱やエネルギー効率とのバランスが課題だ。
本事業では電磁場と発熱のシミュレーションと実際の鋼板の加熱試験を通じて加熱コイル構造や温度分布制御技術を開発し、鋼板の温度均一性と加熱効率の向上を目指す。
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燃焼技術開発拠点となる中外炉工業の熱技術創造センター
なお、アンモニアおよび水素利用、電熱技術の導入による製造プロセスの脱炭素化を目指すには、燃料製造時、発電時にCO2を排出させない、または排出したCO2をキャプチャーする必要がある。これらの技術開発は本事業とは別のグリーンイノベーション基金事業などで利用技術開発と同時並行的に進行中だ。
本事業における各社の取り組みは、国内製造業の持続可能性向上に向けた重要な一歩であり、今後の脱炭素社会の実現に向けた技術的基盤の確立に大きく寄与する。引き続き技術開発を深化させ、製造現場の環境負荷低減と競争力強化の両立を目指していくことが求められている。
