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福井県産業界2024
北陸新幹線が金沢―敦賀間で延伸開業して、はや3カ月。実物大ティラノサウルスを模した恐竜ロボットなどが来訪者を出迎え、商業施設もリニューアルした福井駅(福井市)では、3時間圏内となった首都圏からを中心に多くの観光客や市民でにぎわっている。各観光地も同様で、県内企業の景況感も改善する中、延伸効果を一過性に終わらせないためにも、〝ストロー現象〟に警戒しつつ、魅力あふれる街づくりと経済活性化、地場産業の成長とイノベーション、宇宙ビジネスなどの新事業拡大が期待される。
新たな動き見せる〝知の拠点〟
宇宙分野の研究開発と産業創出、社会課題解決、教育、人材育成で「知の拠点」が果たす役割は大きい。今年は新たな動きも―。
口径13・5メートル、月探査機運用支援
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福井工大が新設した口径13・5メートルのパラボラアンテナ
福井工業大学があわらキャンパス(福井県あわら市)に月探査機と通信でき、大学や民間では国内最大級となる口径13・5メートルのパラボラアンテナを新設した。アンテナは用途に応じて多様なサイズがあり、宇宙事業に注力する同大のアンテナは4基目。新アンテナは月探査用途に最適サイズで、通信と月探査機の運用支援の安定化が見込め、地球から200万キロメートルまでの近宇宙をカバーする。
新アンテナはまず、2025年度に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げる探査機「DESTINY+(デスティニープラス)」の運用支援を行う計画。宇宙開発や国際的な月探査競争が激化する中、アンテナを持つ地上局は常に不足しており、JAXAとの共同研究や福井の宇宙産業発展への貢献が期待されている。
JAXAの口径64メートルや同54メートル、同34メートルなどの惑星探査に適した大きなアンテナは月探査ではオーバースペック。新アンテナの完成で、サイズに応じた役割分担がしやすくなるという。
技術実証通じ開発期間短縮
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エネルギー技術実証超小型衛星「DENDEN-01」
福井大学や関西大学などで構成する研究グループが、エネルギー技術実証超小型衛星「DENDEN-01」を開発した。関西大の電源温度安定化デバイスなどを載せており、電源・エネルギー技術の軌道上実証を行うため、9月に米国から打ち上げ、10月に国際宇宙ステーション(ISS)から放出する。
同衛星は福井大とセーレンが共同開発した学習用超小型衛星「EDIT」がベース。県内企業も協力して、1年半の短期間で完成したことも特筆に値する。福井発の技術が日本の宇宙産業発展に貢献した好例といえる。
EDITのコンセプトは「宇宙で動く衛星教材」。宇宙で実績がある部品を多数用い、福井大、ふくい宇宙産業創出研究会などによる人工衛星開発技術の教育プログラムに利用しているが、EDITベースで実際に宇宙で使える衛星フライトモデルの開発は今回が初めて。学習用からフライトモデル完成への事例ができたことで、福井の宇宙産業のさらなる発展が期待される。
学生確保へ工学女子枠新設/福井大学 学長 上田 孝典氏
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福井大学 学長 上田 孝典氏
―北陸新幹線が敦賀まで延伸しました。
「大学の志願者数が1年おきに増減を繰り返す『隔年現象』を踏まえる必要があるため、福井大の志願者数への影響検証はこれから。新幹線延伸が志願者の増減のどちらの方向に作用するのか見極めつつ、学生確保の戦略を立てる。そもそも少子高齢化が進む中で、魅力ある受験方法の打ち出しも必要。学生数が最も多い工学部は来年度入学者の選抜から『女子特別枠』を設け、女子学生の確保を図る」
―繊維産業の環境負荷低減を目指し、共創拠点を建設中です。
「水を大量に使う繊維産業は環境負荷が大きいため、水の代わりに二酸化炭素(CO2)で染色する『超臨界流体染色』を研究している。この技術を使った(洋服などの)製品化で企業や学生が集まり相談できるスペースとして、新研究棟を活用する。単なる箱物ではなく、自由な議論を促せる設計にする予定だ」
―産官学で宇宙産業創出を目指します。
「小型人工衛星の開発には複雑な技術が必要で、優秀な技術者が多い福井県にぴったりだ。人工衛星が打ち上がる時は、県民全体が応援してくれる。県全体を元気にしてくれる産業だと考えている」
宇宙研究のブランド明確化/福井工業大学 学長 掛下 知行氏
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福井工業大学 学長 掛下 知行氏
―宇宙関連の教育や研究活動に力を入れています。
「月探査機の運用支援を目的とするパラボラアンテナを、キャンパス内に新設した。2025年、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げ予定の探査機『DESTINY+(デスティニープラス)』の軌道予測やデータの送受信に活用する。また、米主導の国際月探査計画『アルテミス計画』関連での活用も期待している。宇宙関連のインフラはある程度整備できた。今後それらを運用し、インフラの維持・改修費などを自前で調達できる体制を構築していく」
「教育面では、25年から工学部電気電子情報工学科の『電気システムコース』の名称を『電気電子コース』に、『電子情報コース』は『AI情報宇宙コース』へと変更する。世相を反映した学習内容とコース名への変更が目的で、宇宙関連の研究ができることを対外へ明確に示すのも狙いだ。『福井工業大学=宇宙』というブランドをより強調する」
―北陸新幹線が来ました。
「東京と福井の距離が近くなったと感じる。関東には天文クラブのある高校が多い。そういった高校の生徒に、本学の魅力を発信するのは良いかもしれない」