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精密フィルターと関連機器
ナノフィルトレーションへのゼオライト膜の応用
【執筆】 宇都宮大学大学院 地域創生科学研究科 特任教授 伊藤 直次
濾過は濾材の素材や孔径制御技術の開発が進む中で、対象物の大きさはミリメートル(10のマイナス3乗メートル)からマイクロメートル(10のマイナス6乗メートル)。さらにはナノメートル(10のマイナス9乗メートル)へと微小化が進み、呼称も「精密濾過」(0・1マイクロメートル域)から「限外濾過」(0・01マイクロメートル域)、さらに「ナノ濾過」(0・001マイクロメートル域)と利用のフィールドを広げてきている。つまり、濾材の細孔径とその分布をさらに小さく作製する技術が進展すれば、より小さな対象物のより精密な除去分離が可能になるであろう。ここでは、特有の孔径を有するゼオライト結晶を膜化した濾材(膜)による気体や液体の分離例について紹介する。
新規の濾過膜候補 ゼオライト膜
ゼオライトはナノメートル以下の細孔を有する結晶であり、構造や組成の異なるものが二百数十種類ほど知られており、天然に産出するものや人工合成されるものとがある。通常は粒状に成型して脱水、イオン交換、ガス吸着材などとして用いられている。そのサブナノメートル細孔に着目して、ゼオライトを膜状に合成する研究と応用が1980年代後半より始まり、今日では実用プロセスとなっている例(二酸化炭素分離、アルコール脱水など)もある。ゼオライト膜はシリカ(SiO2)やアルミナ(Al2O3)源などを溶かした水溶液を封入したオートクレーブ(高圧合成容器)中で多孔質基材上へ水熱合成によって数マイクロメートル厚の薄膜状に作製される。ただ薄膜状といっても単結晶ではなく、緻密な多結晶体として得られる。ここでは細孔径が0・38ナノメートルのチャバザイトと呼ばれるゼオライトを多孔質円筒管の外壁面に膜化したものの分離への応用例について述べる。
気体分離膜
気体は分子径がサブナノメートル域にあり、その混合物の分離は容易ではない。メソ細孔(2ナノ—50ナノメートル)を有する多孔質膜を用いた分離も可能であり、その理想透過速度比は分子量に依存する。例えば窒素に対する水素は、3・7倍程度と大きくはない。これに対して、ゼオライト膜は分子径と同レベルの数サブナノメートルの細孔であり、いわゆる分子振るい分離が期待される。図1は無機ガスの水素、ヘリウム、窒素、アルゴンの各ガスの透過速度定数を比較したものである。水素を除けば分子直径が大きくなるにつれて透過性は低下しており、0・38ナノメートルを超えるような大きな分子では検出限界以下となったことから、分子振るい膜として利用できるであろう。なお、水素の特異的に大きい透過性に着目すれば、水素分離膜としての応用も可能である。
逆浸透膜
次にチャバザイト膜の塩水溶液に対する逆浸透膜としての機能の有無の検証を行うために、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化マグネシウム(MgCl2)水溶液を用いた加圧浸透実験を行った。図2は同じ塩濃度(1リットル当たり0・61モル)の水溶液中に挿入したゼオライト膜管内から浸出する水量を、供給圧の増加とともに測定した結果を表している。これより、水の透過浸出が観測される圧力は予測される浸透圧(計算値)にほぼ一致し、それ以上では圧力増加に伴い水流束が増えていることが分かる。なお、塩の阻止率は99%以上であり、逆浸透膜として機能することが明らかになった。既存の有機高分子系と異なって、無機系の素材として新たな用途が切り開かれることに期待がかかる。
InterAqua2026 来年1月/東京ビッグサイト
「InterAqua2026 第17回水ソリューション総合展」が26年1月28日から30日までの3日間、東京・有明の東京ビッグサイトで開催される。主催はJTBコミュニケーションデザイン。入場は事前登録制。開場時間は10時—17時。
同展は10年から開催されている水処理・計測・分析技術中心の水専門の展示会。地球規模の水不足・環境問題への取り組みは持続可能な社会形成に向けた喫緊の課題となっている。多様な水問題を解決する革新的な技術をはじめ、今すぐに取り組める事例などを展示する。テーマ企画「産業向け水処理ソリューション」は用水などの水処理や再利用、工場施設などの水処理課題など民間エンドユーザー向けで見どころの一つ。このほか、出展社による新製品・技術などのプレゼンテーションも実施予定。
