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資源再利用し環境負荷低減ー超臨界CO2を用いた有機用ケミカルフィルターの再生技術
超臨界流体―気体の拡散性、液体の溶解性を併せ持つ高密度流体
まず簡単に超臨界流体について説明する。物質は固有の臨界点以上において、気液の界面がなくなり、非凝縮性の高密度なガス状態という形で存在する(図1)。このように、物質がその固有の臨界温度と臨界圧力を超えた状態を超臨界流体という。超臨界流体は臨界温度を超えているため、分子は激しく熱運動し、さらに、臨界圧力を超えているため、液体に匹敵する高密度を有する。そのため、気体の拡散性と液体の溶解性の性質を併せ持っているといえる。
CO2の臨界圧力は7・38メガパスカル、臨界温度は31・1度Cであり、臨界温度については常温付近であるため、他の物質よりも比較的容易に超臨界流体となる。この超臨界CO2は高い拡散性と溶解性を有しており、界面張力が極めて低いため、微細な細孔構造を持つフィルターの洗浄溶媒に適している。図2に超臨界CO2によるフィルターの洗浄イメージを示す。
乾燥工程が不要 減圧操作で分離
プロセスの観点では、CO2は常温常圧で気体として存在するため、減圧操作のみでCO2と被洗浄物の分離が可能となり、乾燥が不要となる。そのため、洗浄プロセスとして経済性においても優れた特徴を有している。
有機用ケミカルフィルターは空気中の揮発性有機化合物(VOC)を吸着除去する目的で使用される。ケミカルフィルターの吸着材には主に活性炭が用いられ、使用環境に合わせて不織布や接着剤などでケミカルフィルターが構成される。
活性炭は高い比表面積と細孔容積を持ち、ナノメートルオーダーの微細な細孔を有している。そして、活性炭表面は疎水性であるため、VOCと高い親和性を持ち、選択的に空気中からVOCを吸着除去できる。ケミカルフィルターはこのような活性炭をハニカム状やプリーツ状に加工し、作業性や機能性を向上させて利用される。
これらを再利用の観点でみてみると、吸着材である活性炭については熱再生法や薬品再生法などの技術があるが、ケミカルフィルターは一般的に空調用途での高温使用が考慮されていないため、構成する接着剤や不織布などは耐熱性が低く、熱再生法による再生が難しい。また、薬品再生のような液体洗浄ではケミカルフィルターの高次構造を保持したまま再生することができない。加えて、多量の有機溶剤などの薬品を使用するため、環境負荷が懸念される。
温和な条件で処理 廃棄物排出量 削減
このように、ケミカルフィルターを再生するためには、温和な条件で処理可能であり、かつ、活性炭の内部まで浸透できる拡散性と活性炭に吸着したVOCを除去できる溶解性を兼ね備えた洗浄溶媒が必要となる。そのため、超臨界CO2による洗浄はケミカルフィルターの洗浄プロセスとして優れている。
ケミカルフィルターはこれまで、寿命が来ると産業廃棄物として処理されてきたが、近年の社会背景は着実に変わってきている。企業活動では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目的とする資源の再利用や廃棄物量の削減に関する取り組みは不可欠なものとなっており、本技術の社会的意義も確実に高まっている。
【執筆】
ダイダン
イノベーション本部 フィルタ再生事業推進部
課長 伊藤 康孝(いとう・やすゆき)