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防爆対策
プラントのDXを実現する防爆対応イーサネットAPL
【執筆】日本フィールドコムグループ 監事 太田 階子(ピーアンドエフ シニアアドバイザー)
防爆技術は石油化学工場や自動車などの塗装工程、飲料、食品工場などの可燃性液体やガスが使用される爆発性雰囲気が存在する現場において、作業者の安全を確保し生産性を維持するための重要な要素である。このような生産現場で使用される電気機器は、短絡など何らかの不具合が生じた際に爆発事故につながることがないように防爆対策が義務づけられており、これまでもさまざまな技術が提供されてきた。最新の防爆通信技術として本質安全防爆に対応した「EthernetーAPL」(イーサネットAPL)がプロセス産業のデジタル変革(DX)推進の担い手として注目されている。
イーサネットAPLが生まれた背景と認証
近年はプロセス産業においてもDXや製造業向けIoT(モノのインターネット)「IoT」に総称されるように、アセット管理や予知保全の効率化を目的としたデジタル化の要求が高まっている。温度、圧力、流量、密度などの計測制御で主流とされている4ミリ-20ミリアンペアのアナログやHART通信などの低速な通信から、防爆エリアで使用可能な高速なデジタル通信への転換が模索されてきた。
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イーサネットAPLプロジェクトメンバー
4つの標準化団体(SDO)とベンダー12社
一方で、一般に化学プラントなどで使用されている機器の防爆構造としては、耐圧防爆、本質安全防爆、内圧防爆、安全増防爆などがある。DX推進の観点から、新たに本質安全防爆に対応した通信物理層の規格開発が2018年以降、四つの標準化団体(SDO)と12社の欧米日企業で構成されたプロジェクトチーム(図)により進められた。
そして21年に2線式本質安全防爆イーサネット(2- WISE:2-Wire Intrinsically Safe Ethernet)として、イーサネットAPLの技術仕様が「IEC TS 60079-47」として定義されたのである。APLとはAdvanced Physical Layerの略であり、通信の階層では最下層の物理層の規格である。
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独BASFで実施されたAPLベンダー各社
機器を使用した実証テスト(2019年)
APL通信は、APLフィールドスイッチを介してバルブや温度計、圧力計、流量計などのAPL対応のフィールド機器との通信を上位プロトコルにとらわれず、1本の2線式ケーブルで電力供給とともに行うものである。APL対応製品の認証については、規格化にも携わった四つの標準化団体(図の最上段)がAPL機器としての認証を行うが、国内の防爆検定は検定機関で別途取得する必要がある。
ここ数年は欧米のベンダーを中心に認証を受けたAPL対応の製品が発売され、昨今は国内防爆検定合格品も増えており、日本においても注目が高まっている。
プロセスオートメーション(PA)におけるデジタル通信
プラントでは生産性の向上や安全性の確保において、現場計器のデータ情報の管理、機器自体の状態監視が必須であり、コントロール室から現場機器のデジタル通信技術がオープンネットワークとして1990年代から発展してきた。
プロセスオートメーションにおけるデジタル通信の代表的なものは、プロフィバスPA、ファウンデーションフィールドバス(FF)といったフィールドバスであるが、複雑性や高コストが理由となりブラウンフィールドといわれる既設のプラントには導入が難しく、化学プラントの新設が少ない日本においては、著しく普及するという状況にはなっていない。
しかしながら、これらのフィールドバスを既に採用している企業では、既設のケーブルをそのまま利用してイーサネットAPLを段階的に導入していくことが可能である。デジタル通信のさらなる高速化や効率化を進めながら、爆発性雰囲気が存在するプラントの要件である防爆への対応に加え、長距離伝送と電源供給を同時に実現可能となる。
さらにAPLが実現する省配線は低コストにつながるというメリットを持つ。既に汎用的に普及しているイーサネットの利点をそのままに、1000メートルの長距離伝送を実現し、導入の容易性と低コスト、高速通信、防爆環境でより多くの機器を使用できる点がAPLの特徴であり、さまざまな利点を提供することができる。APLと従来のPA通信の比較は表1のとおり。
イーサネットAPLの主な特徴と利点
イーサネットAPLの主な特徴は①トランク・スパー方式による長距離伝送②10Mbpsの高速通信③本質安全防爆対応④通信と電源供給を同一ケーブル上に重畳⑤専用の本質安全防爆機器のエネルギー制限-などであるが、これらはプラント管理にさまざまな利点をもたらす。
フィールドスイッチ間のトランクラインは1000メートルまで、2-WISEの対象となるスイッチからフィールド機器までのスパーラインは200メートルまで対応する。クラウド環境から危険場所のフィールド機器まで、直接的にアクセスすることが可能となり、機器状態がリアルタイムに監視できるため、故障の予兆や異常を素早く検知し、機器交換を適切なタイミングで行える。
前述の特徴は①正確な予知保全②計測データ処理の高速化③配線の簡素化によるコスト低減④フィールド機器のインテリジェント化⑤接続機器数を増やせる-などの利点につながる。
イーサネットAPLの市場動向と今後の期待
ドイツの業界誌「apt」発行のAPLの市場調査によると、APL対応製品をリリース、またはリリース予定としているセンサー、アクチュエーター、分散型計装制御システム(DCS)などのベンダー企業は24年時点で15社以上に及び、製品は種を超えている(表2)。
日本フィールドコムグループは展示会やセミナーを通じて、イーサネットAPLの技術紹介や普及に努めているが、昨年来APLについての問い合わせやユーザーによるテストなども増えており、日本国内での関心も確実に高まっている。
昨年の「計測展OSAKA2024」における当ブースでのAPL関連機器のライブデモ展示が好評だったことなどから、25年11月に東京ビッグサイト(東京・有明)で開催される「IIFES2025」では、フィールドコムグループほか四つの標準化団体で協業したブース展示を行う。最新のAPLシステムや機器ならびにソリューションを紹介する予定だ。
今後、APLはより多くの機器メーカーやシステムインテグレーターに採用されることで、プロセス産業全体のDXを加速させることが期待される。防爆技術は安全性と生産性を両立するために進化を続けているが、その中でAPLはデータ通信の効率化と安全性の向上を同時に実現可能なプロセス産業における防爆技術の次世代標準として、導入拡大が期待されている。