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脱炭素ー国内外で加速/次世代燃料・新技術に投資
産業プラント各社の2050年のカーボンニュートラル(CN、温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成へ対応する動きが加速している。世界各国では脱炭素に向けて天然ガスの投資拡大に加え、水素やアンモニアの利活用の需要が拡大し続けているほか、次世代燃料や新技術による設備投資計画も進む。エンジニアリング各社は技術やノウハウなどそれぞれの強みを生かし、国内外で案件を受注することに加え、技術開発に取り組んでいる。
アジア・アフリカでLNGプロ
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日揮ホールディングスは北海道でペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験を実施
日揮ホールディングス(HD)はアジアやアフリカなどで脱炭素需要に対応するための液化天然ガス(LNG)プラントなどのプロジェクトを受注し、工事を進めている。低・脱炭素化に向けた天然ガスの需要が引き続き高く推移する。顧客も電動など環境対策を講じながら、設備投資計画を推進している。また、日揮HDによると、各国の政策や支援を追い風に水素やアンモニア、合成メタン(eーメタン)などを中心に製造の計画検討が進んでいるという。
プロジェクトも順調に推移。25年半ばの商業運転開始を予定するLNGカナダの案件では、建設工事が順調に進み、試運転フェーズに移行が進む。イラクバスラ製油所のプロジェクトも資機材製作と建設工事現場への輸送がおおむね終了し、モジュールの全てが建設現場に到着して据え付け工事が進み、25年の完工を見込む。
国内では中外製薬工業(東京都北区)の藤枝工場(静岡県藤枝市)内に設ける合成原薬製造棟の建屋建設と棟内製造設備の工事が完了しており、10月の完成に向けて設備の試運転を実施している。
さらに太陽光発電の利用拡大に向けて次世代型太陽電池として注目されるペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた実証実験を北海道苫小牧市の物流施設で開始。エネコートテクノロジーズ(京都府久御山町)、苫小牧埠頭(北海道苫小牧市)との実証実験を通じて同電池の実用化に向けた検討を進める。
23年度は資材高騰のほか、人員配置などプロジェクト管理体制の課題などから、工事の遅れがあった。厳しい目で一連のプロセスの見直しを実施した。佐藤雅之日揮HD会長は「低・脱炭素政策で水素燃料アンモニアなど投資計画の加速もあり、案件の引き合いは旺盛。さらに飛躍できるように着実な設計・調達・建設(EPC)遂行体制を整えていく」と語る。人的資本配置などのマネジメント強化などで課題を解決し、EPC遂行力を確保する方針だ。
日揮HDはアラブ首長国連邦(UAE)での入札など24・25年度の顧客の投資計画を背景に、今後も低・脱炭素化へ向けたプロジェクトの需要継続を見込む。
工場・商業施設ー脱炭素燃料に転換
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東洋エンジニアリングの技術研究所「TーLabo」
東洋エンジニアリングもCNへの動きを見せる。国内でのバイオマス発電設備やナイジェリアでのアンモニア・尿素肥料プロジェクトのEPCが順調に推移している。23年度には、国内ではバイオマス発電のプロジェクト2件、インドのアンモニア肥料の案件などを完工した。
CN実現に向けた技術開発を加速するための体制整備も進めている。燃料アンモニアや合成燃料、持続可能な航空燃料(SAF)などの次世代エネルギーや循環型、低環境負荷分野の新技術・事業開拓に注力しており、開発環境の充実に向けて技術研究所を移転、拡張し、千葉市緑区の「TーLabo」で新技術開発を進めている。
環境循環型メタノールは50年までにEPC換算により、世界で20年比5倍の累計約110兆円市場になると見込む。独自技術で二酸化炭素(CO2)を原料とするメタノール合成プロセス「MRFーZリアクター」の活用などで事業拡大を目指している。
MRFーZリアクターは、CO2からのメタノール合成反応熱を有用なスチームとして回収することに適した省エネルギー型の反応器で、冷却チューブを調整することで、触媒層内の温度プロファイルと必要な触媒量の最適化が可能。今後、商業規模設備の社会実装に向けてライセンス供与や事業参画を進める。
水素アンモニア領域でも、取り組みを進める。4月には、日本精線や中部電力、中部電力ミライズ(名古屋市東区)と日本初のアンモニアを原料とした小型水素製造装置の実用化に向けた覚書を締結。東洋エンジと日本精線が装置の開発、中部電力と中部電力ミライズが市場調査や経済性の評価、技術要件検討を担う。
CN達成へ向け、工場や商業施設での水素、アンモニアなど脱炭素燃料への転換を後押しする。
技術融合ー水素市場に照準
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トヨタ自動車との共同開発による水電解システムの大規模水電解システム(千代田化工建設のスマート・スケーラブルエンジニアリング=イメージ)
国内産業の脱炭素化を支援する動きも加速している。国内でのCCUS(CO2の回収・貯留・有効利用)市場拡大が見込まれている。こうした中、千代田化工建設は幅広い産業分野の脱炭素化ニーズに対応するため、三菱重工業とCO2回収技術の包括ライセンス契約を結んだ。
国内向けプロジェクトを対象に、三菱重工が関西電力と共同開発したCO2回収技術「KM CDR Process」「Advanced KM CDR Process」のライセンス供与を受ける戦略的な協業契約だ。千代田化工は国内向けCO2回収プラントのEPCの取り込みとCCUSに関するプロジェクトへの取り組みを強化する。
同社は水素分野でもトヨタ自動車と大規模水電解システムの共同開発、戦略的パートナーシップを構築。トヨタが持つ燃料電池技術を用いた水電解セル・スタックの生産や量産技術と、千代田化工が持つProcessプラント設計技術や大規模プラントの建造技術を融合し、競争力ある大規模水電解システムを開発することで、急拡大する国内外の水素製造市場に対応する。
協業では世界最小レベルのサイズで水素の製造効率が高い水電解システムの開発を目指す。5メガワット級を原単位に開発し、水素の使用量や設置面積の制約など顧客ニーズに対応可能にする。