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究極の省エネドライブ
製造業を中心とした産業界には、世界の脱炭素化に貢献していくため、従来の延長線上ではない“脱炭素イノベーション”が強く求められている。現場でエネルギー利用のあり方を見直すうえで、産業機械や装置の動力源として使われるモーターが使用するエネルギーは大きい。ここに大きく切り込むため、高効率モーターへの切り替えやインバーター制御の導入拡大が急がれている。
「IE5」 最新省エネ 加速
生成AI(人工知能)の普及・拡大やデジタル化の推進で、日本は2040年には電力使用量で最大2割の需要増が見込まれる。また世界では電気自動車(EV)の普及や途上国の経済成長で電力需要が激増すると予測される。こうした中でも、世界の脱炭素化の潮流は進んでおり、最新省エネ技術の搭載には世界中で一層のニーズが高まっていくとみられる。
モーターはその多くがポンプや送風機(ファン)、圧縮機など各種産業機器などに組み込まれて工場内や商業ビルなどで使われている。産業用モーターの消費電力は、世界の消費電力の半分を占めるほど大きく、その効率化はさまざまな現場で課題となっている。
例えば、三相誘導モーターは、日本だけでも1億台が稼働していると言われ、実際に電気代を負担するモーターを組み込んだ機器の最終ユーザーに至るまでには、産業界のさまざまなサプライチェーン(供給網)が関わる。
モーターの効率レベルは国際電気標準会議(IEC)で規定されており、世界各国で普及する製品を決める効率規制が実施されている。現在、日本では2015年4月に開始した規制の「IE3」(プレミアム効率)レベルの普及が進む。各産業分野で省エネ製品の普及促進を目的とした「トップランナー制度」に産業用モーターを加える形で導入されたもので、IE3より効率レベルランクが低い「IE1」や「IE2」からの置き換えが徐々に行われている。
適正出力で大きな省エネ
主要モーターメーカー各社はさらに、2段階上となる「IE5」モーターや専用インバーターの組み合わせ制御による最新省エネを追求した提案を活発化させている。
IE5レベルでは、モーターの構成部品であるローター(回転子)がステーター(固定子)の回転磁界と同期している「同期モーター」が多く採用されている。ローターに強磁性の鉄心を使用する「リラクタンス形」、強力なネオジム磁石を用いる「永久磁石(PM)形」などがあり、各社がラインアップを強化している。
電源とモーターとの間に設置するインバーター制御では、電気の周波数を変動させてモーターの回転数を抑える。使用環境によりモーターがそこまで回る必要のない時に、適正なレベルに出力を制御することで、大きな省エネ効果を発揮する。
モーターは必要な最大出力に応じて設置されるが、加えてインバーターを活用することで、変動する生産ニーズにも対応した柔軟なエネルギー消費抑制が可能となる。高効率モーターやインバーター制御を採用し、長期間稼働させることで、経済的なメリットも大きくなる。
インバーター一体型/ハイレベル省エネ実現
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ポンプに取り付けたインバータ一ー体型モーター(ABB提供)
11月中旬、東京ビッグサイトで行われた展示会のIIFES会場で、ABBはインバーター一体型IE5モーターの新製品を披露した。同社の高橋優介モーション事業本部低圧モータ&インバータ事業部長は「インバーター化が難しいと思われていた現場にも、取り付けしやすいコンパクト設計が特徴」とし、海外でのデータセンター内のファンでの採用事例などを紹介した。
同社はすでに、同期リラクタンス技術と永久磁石技術を組み合わせたローター構造のインバーター一体型IE5モーターを2024年から本格的に国内投入し、日本市場でもポンプに取り付けた採用事例などを開拓している。こうしたIE5モーターとインバーター制御の組み合わせで、一層のハイレベルな次元を追求する日本の省エネ市場を刺激する。
会場ではこのほかにも、国内モーターメーカーから、モーターのリニューアルによるランニングコストの大幅低減案などモーターにかかわる提案が行われた。IE5レベルの高効率なモーターへの置き換えやインバーター化は、ユーザー側となるセットメーカーやその先の最終ユーザー層までも含めて、サプライチェーン上の多様な層に理解が求められている。
【IE5効率値】 規格表記進む IEC/JIS
国際電気標準会議(IEC)では12月1日に、一定速度電動機の規格「IEC60034—30—1」の第2版で、「IE5」の効率値が初めて導入された。従来は参考値扱いであったものが正式に規定された。また可変速電動機の効率クラスは「IEC TS 60034—30—2」で規格化を検討されており、2027年春以降の発行とされている。
この動きに合わせた日本産業規格(JIS)の国際整合では、日本電機工業会(JEMA)が一定速度誘導電動機の効率クラス規定「JIS C 4034—30—1」と、効率算定および試験方法規定「JIS C 4034—2—1」の改正案を日本産業標準調査会に提出。現在、意見受け付け公告(パブリックコメント)を実施している。
JIS規格案のうち、前者の規格では「IE4」の効率値や「IE5」の参考値(公称限界)の追加のほか、前版で規定された標準効率、高効率、プレミアム効率などといった表記の廃止も含まれている。後者の規格では、効率算定の試験方法などの案が提出されている。
