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エンドミル・フライス工具
難削材加工用エンドミル「AVIS」シリーズの技術紹介
【執筆】住友電工ハードメタル デザイン開発部 先進工具開発グループ 主査 三角 周平
航空機市場ではニッケル(Ni)耐熱合金や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などの難削材が多く使用されており、機械加工の難しさから工具改善による生産性向上の要求が高まっている。当社は2024年11月に難削材加工用エンドミル「AVIS(エイビス)」シリーズとして、バリレス面取り工具「AVIC型」、CFRP高能率加工工具「AVIX型」を発売し、生産性向上への寄与に取り組んでいる。ここでは難削材の高品位・高能率加工を中心に、AVISシリーズの技術と加工事例を紹介する。
バリレス面取り工具AVIC型による高品位加工
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【写真1】AVISシリーズ「AVIC型」
AVIC型(写真1)はNi基耐熱合金やチタン合金などの面取り加工用工具として、直径2ミリー12・7ミリメートルの間でメトリックサイズ16型番とインチサイズ16型番の計32型番をそろえている。Ni基耐熱合金用には耐熱性に優れる物理気相成長(PVD)コーティング膜を適用した超硬合金材質「ACF07C」、チタン合金用には耐チッピング性に優れるノンコート超硬合金材質を採用し、被削材により工具材質の使い分けを推奨している。
難削材の面取り加工では①面取り加工時に発生する2次バリのバリ取り作業低減②表面と裏面の面取り工具の工具統一ーの要望が多くあった。
①に対してAVIC型は、切れ刃の切れ味を極限まで高めた設計(図1)とし、切削抵抗を従来工具比最大70%と大幅に低減することで2次バリの発生を抑制し、後工程のバリ取り作業にかかるコスト削減を実現した。
また、Ni基耐熱合金やチタン合金は加工時の切削熱などが起因する加工変質層が加工面に発生する。面取り加工後の加工変質層は厚みが厳しく管理されており、AVIC型は従来工具に対して加工変質層厚みを最大で80%低減できるため、安定した加工面品質が得られる。さらに、3枚刃にすることで加工能率を他社工具比3倍以上に高めており、生産性向上に寄与している。
実際の加工事例では、従来工程では穴開け加工から面取り、バリ取り作業に1製品当たり26分を要していたが、AVIC型を導入することでバリ取り作業の削減と面取り加工の高能率化ができ、加工時間は12分と50%以上削減した。
②の要望に対しては、1種類の工具で表面と裏面の両面面取り加工が可能な特殊形状を採用することで工具集約を実現した。
このような工具設計とすることで従来の面取り加工の課題を解決し、航空機部品の生産性向上に大きく貢献している。AVIC型は難削材以外にも鋼やステンレス鋼などのバリレス加工も可能で、さまざまな被削材に対応できる。
また、カスタム対応も可能な体制としており、AVIC型に加えて多様な面取り加工に合わせた工具形状の提案やサポートを行っている。
CFRP加工用工具AVIX型による高能率加工
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【写真2】AVISシリーズ「AVIX型」 -
AVIX型(写真2)はCFRPの高能率加工用工具として、直径3・175ミリー12・7ミリメートルの間でメトリックサイズ5型番とインチサイズ4型番の計9型番を在庫化している。工具材質はダイヤモンドコーティングを行った超硬合金材質「DCT30X」を採用しており、従来よりも切れ刃が平滑でシャープであるため、CFRP加工特有の問題であるアンカットファイバーやデラミネーションを抑制できる。
CFRP加工は生産性向上の背景から①高能率加工条件での安定加工②工具寿命のバラつき低減ーの要望が強くあった。
①に対して、AVIX型は複合ニック形状(図2=特許取得済み)により、高能率加工においても安定して加工できる。複合ニック形状は切れ刃に大小2種類のニック形状を設けることで、切削抵抗の低減に加え、CFRP加工時の振動や切りくず詰まりを抑制する効果がある。
これにより従来工具比加工能率4倍の、送り速度(vf)毎分2000ミリメートルの高能率加工条件でも安定した加工を実現した。高能率条件でも加工面粗さ(Ra)1・2マイクロメートルかつ加工面に空隙(くうげき)などの欠陥がなく、高品位での加工が可能。
また②に対して、均一膜厚ダイヤモンドコーティングにより、切れ刃の全領域で安定した工具寿命が得られる。従来、コーティング膜の膜厚分布は工具先端に対して根元部分の膜厚が50%程度減少するため、根元部分での加工は工具寿命が短くなるといった問題があった。
一方、AVIX型は新たなコーティングプロセスの開発により、先端比で10%以内の膜厚減少であり、均一な膜厚分布とすることで切れ刃のどの位置で加工しても工具寿命の変化が小さく、バラつきが軽減される。
これらの技術開発により、AVIX型は従来のCFRP加工の課題を解決し、高能率条件での安定加工を実現した。また、オーダーメードの受注も可能であり、さまざまな加工に対応できるサポート体制を整えている。その中で、厚み2ミリメートルのCFRPなどの薄板加工では複合ニック形状の効果が十分に得られない可能性がある。薄板加工用の専用工具に関しては25年上期の発売を予定しており、CFRP加工にさらに幅広く対応していく。
最後に
ここでは難削材の高品位・高能率加工を実現する難削材加工用エンドミルAVISシリーズのAVIC型とAVIX型を紹介した。前述以外にも難削材加工に幅広く対応するため、生産性向上の課題解決に向けた新製品の開発を進めており、25年度以降にAVISシリーズの拡充を計画している。難削材は航空機産業にとどまることなく、さまざまな分野での適用が進んでおり、AVISシリーズはあらゆる市場での生産性向上に貢献するものと期待される。