-
業種・地域から探す
エンドミル・フライス工具(2024年1月)
自動車や金型、建設機械、産業機械などの部品加工を行う分野では、エンドミルやフライスカッターに代表される切削工具が多用されている。ここでは自動車業界で多用されるアルミニウム合金の正面フライス加工で使用されるフェースミルについて、以前から販売されているインサートタイプ、ロウ付けタイプ、さらには新しく提案されたヘッド交換式について紹介する。
正面フライス加工で使用される3タイプのフェースミルの特徴
加工能率を高める多刃化
正面フライス加工事例として自動車用エンジン部品の加工状況を図1に示す。正面フライス加工は部品の合わせ面を加工する工程であり、大面積部を加工するケースが多い。工程内に占める加工時間の割合が大きい傾向にあり、長年にわたり工程改善が進められてきた。特に自動車業界の最重要課題として加工能率向上が追求されており、その対応として①アルミ合金との親和性が低いPCD(多結晶ダイヤモンド)を刃金材質に適用して切削速度を大幅に向上②バリレスやより高品質な加工面粗度を実現するためのさまざまな刃型形状の提案③加工品質の低下や工具損傷による寿命低下を避けながら加工能率を高めるための多刃化―といった改良が推し進められてきた。
ここでは特に、多刃化について少し踏み込んで解説する。同じ工具で切削加工する場合、一般に加工品質を決定する要素は切削速度と1刃当たりの送り量と言われており、同一の切削品質を維持(切削速度と1刃当たりの送り量を固定)しながら加工能率を上げるには刃数を増やす必要がある。また、多刃化しつつ送り速度をそのままにすることで1刃当たりの送り量を小さくし、加工面粗度の向上やバリレス、刃先欠損の抑制を図るといったケースも見られる。このような多刃化の流れの中、それが前述した三つの仕様のフェースミル運用方法へ与える影響について注目してみたい。
使い勝手の良さが魅力 インサートタイプ
現在主流となっているフェースミルの仕様はインサートタイプ(図2)となっており、多くの工具メーカーからさまざまなインサートクランプ方法のものが提供されている。インサートタイプはユーザーで使用済みインサートを交換することができ、ボディーを再利用することが可能。さらに刃先が欠けた場合は1刃のみ交換すればいいなど、使い勝手が良いという特徴が多くの加工現場で受け入れられている。
一方で、インサートを組み付けるための付属部品をボディーに搭載する必要があり多刃化が難しく、刃先交換の度に底刃振れ精度を調整する作業が必要となるなどの課題もある。特に、底刃振れ調整作業は刃物の性能を十分に発揮するために欠かせない作業であり、各メーカーからは10マイクロメートル以下と高精度にセッティングすることが推奨されている。これをおろそかにすると使用初期から加工面品質が悪い、刃具寿命にバラつきが生じるなどの問題が発生する。底刃振れ調整の精度は加工の安定性に直結する重要項目であり、熟練した作業が要求されている。
また、インサートタイプの刃先交換作業は1刃ずつインサートを交換しなくてはならないため、多刃化の流れに伴い刃先交換作業時間は刃数に比例して増大しており、現場作業者の負担となっている。これらの問題に対しては、各工具メーカーからより簡便にかつ高精度な組み付けを可能とする機構が提案され負担軽減が図られている。
多刃化が容易 ロウ付けタイプ
もう一つのフェースミルの仕様としてロウ付けタイプ(図3)が挙げられる。これはカッターボディーに直接刃先をロウ付けしたものであり、ロウ付けというシンプルな接合方法を用いることでインサートタイプよりも多刃化が容易である。また、メーカーから底刃振れ精度を保証した状態で出荷されるため、ユーザーでの底刃振れ調整作業は不要で加工機にそのまま取り付けて使用できることから、インサートタイプのような多刃化による運用上のデメリットは存在しない。さらに、インサートタイプと比較して再研磨回数が多いというメリットもある。
一方で再研磨の度にカッターボディーごとメーカーへ送付する必要があり、再研磨サイクルの管理、再研磨リードタイム間の予備刃具の準備が必要となる。そのため①導入時のイニシャルコストの増大②再研磨の度に工具長が変化するため都度工具長補正が必要③再研磨限界に達した際には刃具そのものの廃棄が生じる―といったデメリットがある。
新しい選択肢 ヘッド交換式タイプ
そのような背景の中、ユーザーはおのおのの要求に合わせてどちらかの仕様を選定してきたが、第三の仕様としてヘッド交換式フェースミルという新しい選択肢を提案する。当社の「Nova E’z Disc」(図4)である。製品コンセプトはインサートタイプのようにユーザー自ら刃先交換が可能な使い勝手の良さを実現しつつ、ロウ付けタイプのように多刃化と刃先調整不要の両立を目指したものである。
構成部品は交換可能な刃先部品の「ディスク」と再利用可能な「カッターボディー」、締結ボルトからなっている。ディスク外周部にはPCDの刃先が直接ロウ付けされ、既存のロウ付けタイプと同様の多刃仕様が可能。
また、単一部品であるディスクを交換するだけで全ての刃先が同時交換でき、刃数の多寡に関わらず刃先交換時間は一定となることから、刃先が1枚ずつ別部品となっているインサートタイプと比較して刃先交換時間を大幅に短縮できる。さらに、カッターボディーとディスクそれぞれの設置面を高精度に仕上げることにより、底刃振れ調整機構を一切搭載せずに、底刃振れ精度10マイクロメートル以下の高精度な取り付けができる。
具体的な刃先交換方法は①使用済みのディスクを取り外す②取り付け面を清掃し、新品のディスクを設置する③締結ボルトで仮締めする④締結ボルトを指定の順で規定のトルクで締め付ける―という簡単な手順で、所要時間は3ー5分程度。作業者の技量によらず安定して交換することができる。また、ディスクはワンユースであり、デリバリーコストや再研磨サイクルを考えながら工具管理するといった煩雑な作業を不要とするメリットもある。
最後に
最後に、ここまで紹介した三つの仕様の特徴を表にまとめる。
それぞれにメリット・デメリットが存在する中、おのおのが最良な選択をするための参考になれば幸いである。
【執筆】兼房 精密刃具事業部 精密二課 技術係 山田 恭也