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エンドミル
近年、加工現場では自動化や効率化への要求がますます高まっている。それに伴い切削工具においては、高能率、高精度、長寿命といった性能が求められる。一方で、金型材は高硬度、高靭性(じんせい)といった性質を持つ高性能素材へと移行してきており、その加工難度は上昇傾向にある。ここでは、高硬度材に対して高能率加工を実現する小径エンドミルについて、最新動向を加工事例とともに紹介する。
生産性向上を実現する小径工具の最新動向
日進工具 営業部 営業支援グループ 営業技術課 酒井 優
小径工具での切削加工時の課題
微細形状を切削加工する場合、荒取り工程から小径工具を使用せざるを得ず、その際の工具径が小さいほど切り込み量は必然的に微小となる。また、仕上げ工程において加工面粗さ向上を図る場合、ピックフィードを小さく設定することが一つの対策となるが、切り込み量の増減は加工時間に直結する要素である。小径工具には切り込み量増加による高能率な荒取り加工に加えて、加工能率と精度を両立した仕上げ加工も可能にすることが求められている。
高能率加工を実現する「MLFH330」
前述の課題を解決する工具として、当社の無限コーティングプレミアム高能率レンズ形3枚刃エンドミル「MLFH330」を紹介する。当社ではこれまで高能率加工用工具として、刃数を増やすことで送り速度を上げられる多刃工具を多く発売してきた。しかし小径工具での加工が想定される形状においては、設定送り速度に対し実送り速度が追従しないケースも多い。
本製品は多刃工具で送り速度を上げられるだけでなく、外径よりも大きな底刃半径を持つ底刃形状(レンズ形)の採用により、同径のボールエンドミルよりもピックフィードを大きく取れる(図1)ことが最大の特徴である。これにより、加工形状などの制約で小径工具しか使用できない状況においても切り込み量を増加させた高能率加工が可能となる。
加工能率比較
被削材はSTAVAX 52HRC(SUS420J2相当)、曲面、緩斜面、平たん面を含む加工形状(図2)で、加工範囲は150mm×47mmの条件で切削した加工事例を紹介する。工具はMLFH330(外径4mm×底刃半径4mm)と、比較用として3枚刃ボールエンドミル(ボール半径2mm)を使用した。
荒取り工程から仕上げ工程まで、切り込み量をボールエンドミルと同一のカスプハイトに設定した切削条件(表)において、MLFH330の切り込み量(ae)とピックフィードはボールエンドミルの1.4倍となっている。また、荒取り工程では大きな底刃半径を持つ形状を生かし、送り速度の設定も1.4倍としており、24分(約43%)の加工時間短縮となった。
仕上げ加工後の面粗さ比較を図3に示す。工具先端中心部の切削速度が上がらない平たん面の仕上げ加工において、ボールエンドミルでの加工後の面粗さ(Ra)が0.813μmなのに対し、MLFH330での加工後のRaは0.193μmだった。ボールエンドミルよりも切削速度低下による加工面への影響が少ないことがわかる。また、凸半径60mmの曲面の15度付近においては、ボールエンドミルと同等の面粗さを維持しており、仕上げ工程で34分(約28%)の加工時間短縮を実現した。
ここでは小径工具でも加工能率を上げることができるレンズ形3枚刃エンドミルを紹介した。加工の高能率化は永遠の課題であり、求められるレベルはますます高まると考えられる。当社では今後もそのニーズに、工具開発と加工技術の提供により応えていく。