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加工機の入門として浸透 安全対策への要求ひろがる
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主軸の即時停止機能を備えた遠州工業のボール盤
ボール盤は穴開け加工に特化した加工機。機械加工を行う製造現場では、加工工程の約8割以上が穴加工と言われており、モノづくりにおいて重要な工程を担っている。
工作物をテーブルに固定し、主軸に取り付けた工具を回転させて加工対象物(ワーク)に必要な深さの穴を開けたり、穴の大きさを堀り広げたりする。ボール盤の種類は取り付ける工具の最大径によってさまざまで、直径10ミリメートル以下の小さな穴開けを得意とする卓上ボール盤、直径50ミリメートルまでの工具が取り付けられ工場のフロアに直接据え付ける直立ボール盤、より大きなワークの穴開けに適したラジアルボール盤などがある。大型のボール盤でも、主軸にドリルチャックを取り付けることで、小さな径の穴開け加工にも対応可能だ。
また取り付ける工具によって多種多様な穴開け加工ができるのも特徴だ。穴加工には穴がワークを貫通する「通し穴」と、ワークの途中で止める「止まり穴」があり、どちらの加工にも対応する。最も一般的なのがドリルによる穴開けだが、既存の穴の精度を高めるリーマ加工や、あらかじめ開けておいた下穴をタップでネジ穴に加工するタップ立て、エンドミルを用いた座ぐり、中ぐり加工などもできる。
構造が比較的単純で扱いやすく、加工機の入り口として経験の浅い従業員が触れる場合が多い。そのため、安全対策を求める現場の意向が強まっている。
中央労働災害防止協会の発表した、ボール盤による死傷災害の発生事例を見ると、多くがワークの穴開け加工中に、軍手がドリルに巻き込まれたことによる負傷だ。2017年には茨城県で直立ボール盤使用時に死亡事故も発生している。労働安全衛生規則でボール盤などの使用時に使用者は作業者に手袋の使用を禁止できるが、こうした事故は後を絶たない。
巻き込まれ事故防ぐ多彩な機能
安全に関する国内標準化が進み、20年5月にはボール盤の安全に対する日本工業規格(JIS)が制定された。長年「エンコース」ブランドでボール盤を製造販売する遠州工業(浜松市中央区)はいち早く安全対策に取り組み、同JISに準じた安全装置を取りそろえている。
安全装置はボール盤正面の非常ボタンを押すと後方に取り付けたインバーターが機能し、1秒以内にドリルなど主軸工具の回転が停止。巻き込まれなどの危険回避が図れる。むき出しだった主軸にはストロークに合わせて上下動するカバーを装備。作業者の接触や切り粉飛散を防止する。そのほか、工具が上限にある場合は自動で主軸が停止し、ワーク着脱中の巻き込まれ事故を防げる機能やフットスイッチで機械を即時停止する機能、工具交換時に使うチャックハンドルの外し忘れ防止、プーリー(滑車)への巻き込まれを防ぐカバーのインターロック、操作盤の感電対策機能も用意した。引き続き現場の声を聞いて安全機能を拡充する方針だ。
危険状態再現する教育ツール
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軍手の巻き込まれ事故を再現する装置「BT-100」
製造現場での技能者の世代交代や女性技能者の採用の広がりを背景に、安全教育のためのツールの需要が高まっている。エヌエスティー(浜松市中央区)は、作業現場の安全教育に使う体感ツール「危険体験装置」シリーズを製造販売している。
同シリーズの中でも昨今特に引き合いが増えているのが「ボール盤巻き込まれ体験装置 BT―100」だ。ボール盤使用時に、手袋を装着していた場合に起こり得る巻き込まれ事故を学ぶために使う。23年には仕様を刷新し、設置場所を選ばず使用できるように、高さを従来比3割程度縮めた。また主軸を模した部品の回転モードを高速と低速の2種類にしたほか、逆回転機能も追加した。
手袋を着けた義手に回転するドリルを接触させて事故を再現する。ボール盤に限らず、電動工具などの回転する機械による事故発生の仕組みも学ぶことができる。装置の扉が開いていると、ドリルが回転しないインターロック機能も搭載している。
事前点検で生産効率を保持
機械の不具合は安全面の問題だけでなく生産工程の遅れにもつながる。長期間の修理が必要となれば、生産の効率は大幅に落ちてしまう。
工作機械のオーバーホールやレトロフィット、改造を手がける佐々木精機(名古屋市熱田区)では、全国から小型から大型までさまざまなボール盤の修理を受け付けている。ボール盤の修理は毎月10件程度相談があり、同社の年間売り上げの約10%を占めるという。多くはアームの昇降やクランプの不具合で、1日で修理できるものが多い。しかし状態が悪化すると修理に5日ほどかかる場合や、年に数台はオーバーホールが必要となる場合もある。同社の佐々木庸次社長は「機械が動かなくなる前に、閑散期などに合わせて計画修理をすることが重要だ。修理のタイミングは見極めが難しいこともある。事前点検サービスも実施しているので活用してほしい」と呼びかける。