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ダイヤモンド・cBN工具(2023年7月)
ダイヤモンドは硬度、強度、耐摩耗性から、産業界において重要な役割を担っている。切削工具には多結晶ダイヤモンド(PCD)が多用される。また立方晶窒化ホウ素(cBN)はダイヤモンドに次ぐ硬度があり、高温や対鉄素材での安定性の面ではダイヤモンドよりも優れている。両者ともに切削、研削、研磨加工などで活躍する。より強く硬い工業材料が用いられるようになってきている中で、ダイヤモンド・cBN工具が高精度な加工を実現している。
強く硬い材料 高精度加工
ダイヤモンド工具は自動車、産業機械、建設など多岐にわたる産業分野の「切る」「削る」「磨く」などの工程で利用される。特に硬脆材の精密・高精度な加工が不可欠な半導体業界での需要が高まっている。アルミニウム合金、超硬合金、プラスチック、木材、石材・コンクリート、セラミックス、ガラスなどの切削加工に不可欠な工具だ。研削砥石、カッティングソー、切削工具などとして使用される。
高硬度かつ高強度で、熱伝導率や耐摩耗性に優れるダイヤモンドの特性は、切削工具として優れている。ダイヤモンド工具は難削材や硬脆材の精密加工を得意とし、加工時間の短縮にも貢献する。さらに刃先寿命が長く、長期にわたって加工を行える。
しかし加工中に発生する高熱によって、ダイヤモンドの炭素原子が鉄に吸収されてしまうという弱点があるため、鉄系金属の加工には向かない。そこで鉄系素材の加工には、工具材料としてはダイヤモンドに次ぐ硬さを誇るcBNが用いられる。1200度Cでも安定を保ち、鉄との反応を起こさない。
合成ダイヤモンドの微結晶と金属やセラミックスなどの結合材を高温・高圧で焼結させたPCDは主に切削工具の先端で使われている。非鉄金属や複合材の高精度切削に威力を発揮する。
研削ホイール好調 9%増
経済産業省の機械統計(グラフ)によると、2022年のダイヤモンド・cBN工具の国内生産額はダイヤモンド工具が658億円(前年比4・6%増)、cBN工具が287億円(同5・1%増)、合計で945億円(同4・8%増)。18年には1000億円寸前までいった合計の国内生産額は、コロナ禍に伴う経済活動の停滞で20年は合計732億円まで大きく落ち込んだ。21年は生産額が大幅にアップし、22年も緩やかに伸びた。ただ、22年後半からは伸び率が鈍化しており、23年の年間生産額が伸びるかどうかは今後の回復状況にかかっている。
品目別に見ると、前年と比べて特に国内生産額が上がったのは研削ホイールで、同9・4%増だった。ダイヤモンド工具の国内生産額のうち、研削ホイールと切削工具の2種類の工具が占める割合は高く、これらの工具の伸びがダイヤモンド・cBN工具の国内生産額を増やすために重要となってくる。
近年、加工後の面品位向上の需要が市場で増えてきている。そのため、ダイヤモンドやcBNの砥粒も、より精緻な加工が可能な高番手化がトレンドになってきている。
難削材加工用 改良進む/ロシアリスク払拭へ
各社は難削材の加工や能率向上を実現するため、製品の改良や新製品の開発に務めている。一般的なメタルボンドホイールは無気孔構造だが、旭ダイヤモンド工業のメタルボンドホイール「エアロメタル=写真」は、ビトリファイドボンドのように気孔を持つ。研削液が回りやすく、切りくずの排出性がよいことから、従来のメタルボンドに比べ切れ味が優れており、ダイヤモンド、cBNのどちらにも適用できる。
また業界としての不安材料となっているのがロシア産のダイヤモンドの輸入についてだ。主要7カ国(G7)はロシアに対する経済制裁をますます強化する考えを示している。ロシアは世界一のダイヤモンド産出国であり、工業用ダイヤモンドとしても多く使われている。例えば半導体研磨用の砥粒として粒の大きさなどが合っているため、これらの業界では重要な役割を果たしている。
工業用ダイヤモンドをロシアから輸入できなくなると、多くの産業への影響が懸念される。今後のG7や政府の対応に注目が高まる。