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バリ取り・エッジ仕上げ
製造業の現場において、極めて重要なプロセスの一つが「バリ取り」である。近年、深刻な人手不足を背景に、省力化の必要性が認識されている。そのため世界中の製造業が生産性と品質の向上を目的に、バリ取り工程の自動化に注目している。ここでは、バリの基礎知識や発生のメカニズム、バリ取りの重要性、発生抑制の考え方を整理し、自動化技術の最新動向について詳しく紹介する。
効率化と品質の安定を実現する バリ取り工程の自動化
【執筆】 柳瀬 営業本部 機工部 部長/東日本自動化担当 森 清隆
バリ取りの重要性
「バリ」とは金属や樹脂などの素材に対して切削・穴開け・研磨などの加工を行った際に発生する、不要な突起物を指す。主に加工面の端部や穴の縁などに生じる。この突起は加工の際に発生する微細な残留物や材料の変形により形成されるものであり、製品そのものの精度や安全性に悪影響を及ぼす原因となる。
また射出成形などの金型成形工程では、型の合わせ目にできる線状の突起、いわゆる「パーティングラインの突出」もバリと呼ばれる。これもまた製品外観を損ね、機能性に支障をきたす可能性がある。
バリの発生は製造工程において避けがたい現象であり、特に精密な部品や高品質が求められる製品においては、後工程で確実に除去する必要がある。製品の性能や見た目、さらには組み立て精度にも直結するため、バリの管理は非常に重要なテーマとなっている。
このバリを取り除く作業をバリ取りと呼ぶ。見た目を整えるだけでなく、機能性や信頼性の面でも極めて重要な役割を担っている。
バリが残ったままでは、部品同士の正確な組み付けが困難になるばかりか、組み立て後の機器内部でバリが脱落し、異物として混入するリスクもある。これにより、機器の性能低下や誤作動、最悪の場合は故障につながることも考えられる。
さらにバリは鋭利な形状であることが多く、作業者の手や指を傷つける原因にもなる。このため、製品の設計図や加工指示書には「バリなきこと」や「バリ除去済みであること」といった注記がなされるのが一般的だ。
バリ取りは見落とされがちな工程である一方、品質保証の観点からは非常に重要であり、製造現場において欠かせない作業といえる。
バリ除去や抑制の方法
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自動化によるエッジのバリ取り均一除去
バリ取りには製品の素材や形状、用途、仕上げの要求水準などに応じて、さまざまな手法が採用される。
代表的な方法が「機械的除去法」で、ヤスリ、リーマ、スクレーパー、グラインダーなどの専用工具を使って物理的に削り取る方法である。汎用性が高く、加工コストも比較的抑えられるため、多くの現場で採用されている。
このほか、化学薬品や電解液を使ってバリを溶かす「化学研磨」や「電解研磨」などの化学的除去法もある。これらは微細なバリや複雑形状への対応に適しており、精密部品に多く用いられる。
さらに熱を利用してバリを瞬時に焼き飛ばす「サーマルデバリング」や、高圧水で削り落とす「ウオータージェット法」などもある。いずれの方法も、対象物の特性と加工精度の要件を考慮し、適切に選定することが重要である。
そもそもバリが発生しにくい加工条件を整えることも、効率的な製造にとっては重要である。近年では、加工段階からバリを抑制する工夫が進められている。具体的な対策としては、次のようなものが挙げられる。
【1】加工面の鈍角化
エッジを丸めることでバリの発生を抑制する。
【2】高性能工具の使用
切れ味が良く、耐摩耗性のある工具を使うことで、きれいな切断面を実現できる。
【3】加工条件の最適化
回転速度、送り速度、切り込み量などの見直しにより、バリの発生を最小限に抑える。
【4】工程の見直し
バリの発生しやすい工程を極力減らす、あるいはバリの少ない加工方法へ転換する。
これらの工夫を施すことで、後工程におけるバリ取りの負担を大きく軽減でき、トータルの生産性向上にもつながる。
バリ取り作業の課題
従来のバリ取り作業は、作業者が目視で確認し、手作業で丁寧に突起を除去する方式が主流であった。この方法は柔軟かつ細かな対応が可能という利点があるが、一方でいくつかの課題を抱えている。
例えば、作業負荷が高く、作業者の集中力や熟練度に大きく依存するため、品質のバラつきが生じやすい点が問題視されている。また熟練作業者の高齢化や人手不足といった労働力の問題も深刻だ。
このような状況下で、技術継承や人材確保は喫緊の課題となっており、多くの企業が効率化と品質安定を実現する新たな手段を模索している。
研磨エンドエフェクターによる自動化提案
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研磨エンドエフェクターによる自動化均一除去。バリ・黒皮・錆を除去し、滑らかに仕上げる -
内側引っ張り方向でも自動でバリを除去できる -
ファーロボティクスの研磨エンドエフェクターはロボットの先端に取り付けて使用する
こうした課題を解決する手段の一つに、工程の自動化がある。近年では、産業用ロボットや自動研磨装置を導入し、バリ取り工程を機械に任せる企業が増加している。自動化により作業の均一性が確保され、作業時間の短縮や人為的ミスの低減といったメリットが得られる。
さらに24時間稼働可能な自動化システムは、生産ラインの稼働率向上にも貢献し、トータルコストの削減にもつながる。製品バリエーションの多様化や、短納期対応といった市場ニーズにも柔軟に応えられる体制づくりが求められる今、バリ取り自動化はそのカギとなる分野といえる。
自動化の具体例として、オーストリアのファーロボティクスが開発した研磨エンドエフェクターが注目されている。
同製品は主に産業用ロボットや協働ロボットの先端に取り付けて使用するもので、高速定圧補正および重力補正制御機構を備えている。これにより、ロボットでありながら「人の手の感覚」に近い力加減で、あらゆる角度・素材に対して均一かつ高品質なバリ取り・研磨作業ができる。
この技術の導入により、次のような利点が期待される。
・作業効率の大幅な向上と、サイクルタイムの短縮
・研磨品質の安定化と製品歩留まりの改善
・熟練者への依存度低減と技術継承の簡素化
・人件費の最適化と全体コストの削減
・作業者の安全性向上と作業負荷の軽減
これらの点から、研磨エンドエフェクターは、バリ取り作業の革新を支えるソリューションとして、さまざまな製造現場で導入が進んでいる。
自動化を行う上では、現場のレイアウトや製品仕様、求められる精度などを踏まえた綿密な検討とシステム全体の最適化が必要となる。
求められる工程全体の見直し
バリ取りは製造業における品質管理の基盤を支える、非常に重要な工程である。製品の安全性や機能性を確保するためにも、バリの確実な除去は欠かせない。
一方で少子高齢化が進み、生産性向上への要求が高まる中、従来の手作業に頼った方法では限界が見えてきている。今後はロボット技術やAI(人工知能)を含む先端技術を積極的に取り入れ、工程全体を見直すことが求められるだろう。
製造現場ごとの課題やニーズに寄り添いながら、最適なバリ取りソリューションを選定し、品質向上と効率化を両立する取り組みがますます重要になっていくと考えられる。
