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第19回 キャンパスベンチャーグランプリ北海道
「第19回キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)北海道」実行委員会と日刊工業新聞社は2023年11月29日、札幌市中央区の札幌ガーデンパレスで最終審査会を開催した。厳正な審査の結果、最優秀賞を受賞した北海道大学大学院のグループをはじめ、5組の入賞プランを決定。同日、表彰式と祝賀会も開き、受賞した学生と実行委員、審査委員に後援・協賛企業団体の関係者らも加わり、久々のパーティー形式で交流を深めた。
入賞プラン決定
ごあいさつ/CVG北海道実行委員会委員長 藤井 裕 氏「事業化への熱意と努力 心から応援」
キャンパスベンチャーグランプリ(CVG)北海道におきまして入賞された皆さま、おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。
CVG北海道は、明日の北海道を担う若者たちの起業家精神を養い、創造力やチャレンジ精神に富む人材、問題を発見し解決していく力を持つ人材の育成を目的に毎年開催しているもので、すでに19年の歴史をもつ伝統的なコンテストです。今回も例年同様、北海道内の大学・大学院から熱のこもった応募をいただきました。
入賞されたプランには、北海道の1次産業において廃棄されてきた材料を再利用し、需要が見込まれるインフラのために有効活用する計画や、救急救命のためのAED(自動体外式除細動器)をより使いやすくするための工夫など、発想と着眼点に優れたものばかりでした。何よりも自分たちが考えたプランを事業化に結びつけようとする熱意と努力が感じられ、心から応援したいとの思いに駆られました。
ご承知のとおり、日本は人口減少社会であり、特に北海道は全国より10年早く人口が減少に転じ、労働力の減少が非常に大きな問題となっています。さらに、昨今のエネルギー高や円安による急激な物価高騰により、北海道経済は打撃を受け、大変厳しい状況にあります。
一方で、コロナの5類移行により観光客が回復傾向にあり、次世代半導体製造のラピダス社の進出や関連する周辺産業が準備に動き出すなど、明るい兆しも見えてきています。
厳しい課題も山積していますが、北海道は食、観光、再エネ、DX、宇宙開発等々、魅力と夢の詰まった宝の大地です。チャレンジ精神あふれる皆さんには、今後も北海道を一緒に盛り上げていただきたいと大いに期待しております。
最後に、共催の日刊工業新聞社、ご協賛・ご後援いただきました関係者の皆さま、鈴木馨審査委員長をはじめとする審査委員の皆さまに厚く御礼申し上げます。
最優秀賞に野口さん CVG全国大会に出場
道内の学生によるビジネスプランコンテスト「CVG北海道」には今回、大学・大学院9校から27件のエントリーがあり、うち9校の21プランが審査対象となった。予備審査をくぐり抜けた5組による最終審査では各組の代表者が壇上に立ち、7分間のプレゼンテーションを行った。その後の質疑応答は審査委員の要望を受け、昨年までの5分から8分に変更。それでも時間ギリギリまで双方の活発なやりとりが交わされた。
その結果、最優秀賞に北大院・野口真司さんが代表者の「ホタテ貝を活用した方解石の製造と産業利用」が選ばれた。予備審査から評価が高く、本審査でも審査委員の大半が最高得点を付けるという文句なしの受賞だった。野口さんらは2月27日に開催予定の全国大会に出場する。
優秀賞は札幌大学・伊藤清美さんらの「救急医療 高機能AEDしゅんじ君」。プレゼン中に実物のサンプルを掲げ審査委員席まで見せて回り、分かりやすくしたことが予備審査以上の評価につながった。また奨励賞に小樽商科大学・池田莉々香さんの「“推しを応援する人”を応援する推し活スタジオ」、努力賞に北星学園大学・蔦原遥斗さんらの「キッズキャリーコネクト 子育て用品広告プロモーション」、および札幌大学・佐藤拓さんらの「地域密着型 学生による高齢者支援システム」がそれぞれ選ばれた。例年同様、最終審査に進んだ全プランが入賞となった。
表彰式後には立食形式の祝賀会を実施。コロナ禍の収束で4年ぶりに例年の形に戻り、学生と実行委員、審査委員、後援および協賛企業団体の関係者が食事をしながら語り合った。また惜しくも最終審査に進めなかった応募学生も参加。入賞者に積極的に質問するなど、次回大会での雪辱を期す前向きな姿が垣間見られた。
最優秀賞/ホタテ貝を活用した方解石の製造と産業利用
北海道の未利用資源を活用し、北海道におけるハイテク産業の活性化を図ることが我々の目標である。北海道、特に地方部では大手企業の撤退や人口減少による地方経済の衰退に直面している。この現状を変えるべく、廃棄されるホタテ貝の貝殻と家畜由来のバイオマスエネルギーを用いて、半導体や通信事業での需要が見込まれる方解石の製造事業の立ち上げを目指す。
北海道はホタテ貝の主要生産地である一方、大量に廃棄されるその貝殻を有効に活用する方法が限られている。また、北海道は畜産業も盛んで、家畜のふん尿を利用するバイオマスエネルギーには大きなポテンシャルがある。
我々は廃棄される貝殻を原料に、家畜由来のバイオマスをエネルギー源とし、光学的用途が見込まれる方解石を高効率な結晶成長により製造することを計画している。北海道で方解石をつくり、今後の活性化が見込まれる半導体製造業者や通信設備業者への販売を通じて、北海道の持続可能な成長と地方の活性化を目指す。
優秀賞/救急医療 高機能AEDしゅんじ君
私たちのビジネスモデルは「AED(自動体外式除細動器)に通信機能を持たせ、救命率を高めることにつなげていく」というもの。AED本体にインターフェース回路を導入し、IoT(モノのインターネット)を活用したAED管理システムの構築や位置情報の共有などを行う。加えてAED救命アプリを開発し、通信機能を有したAED(高機能AED)と連携し、救命率のさらなる向上に努める。
高機能AEDとAED救命アプリを救急医療現場に根付かせることで、救命までの大幅な時間短縮を生み出し、救命率の向上につなげる。またAED収納BOXに広告宣伝用のサイネージを付加する。このサイネージから情報発信を行うことで、存在の見えにくかったAEDが人々の目に留まり、AEDの『見える化』につながっていくと考える。
目の前で人が倒れていたその時、私たちが瞬時に行動することで、その人の社会復帰率は3倍にもなる。知識・経験、市民の連携があれば必ず救える命だ。「私たちとともに『尊い命』を救いませんか―」。
奨励賞/”推しを応援する人”を応援する推し活スタジオ
推しに会うために美しくなりたい方、必見の推し活スタジオ。「推し活」がトレンドになっている今、推しのためならお金も時間も惜しまないという人は多いだろう。このスタジオは「推しのライブは最高のコンディションで行きたいし、フェスで跳び続けるための体力がほしい。しかし、ダイエットや筋トレなんて続かない」という気持ちから生まれた。
同じ趣味の人と出会い、モチベーションを高め合いながら気軽に運動ができる。ヨガやダンス、エアロビクスなど多様なレッスンが設けられていて飽きずに通うことができ、ここでの交流をきっかけに推し活仲間も増えるという魅力がある。ファン同士が交流する機会は現状少ないため、実際に会って推しについて語り合えるのは貴重な体験だと考える。
美しくなって自己肯定感も上がり、推し活がさらに楽しいものになる-そんな胸が踊る空間である。将来的には推しからの応援メッセージを聞きながら運動したり、振付師やアーティストの方をお呼びしてファンのみんなで踊ったりするのが夢だ。
努力賞/キッズキャリーコネクト 子育て用品広告プロモーション
私たちが提案する「キッズキャリーコネクト」では、経済的に恵まれない子どもたちに広告を印字した育児用製品を配布することで、貧困問題の解決の一助とすると同時に、企業へはプロモーションや企業イメージ向上という効果を提供する。社会的価値と経済的価値を同時に実現できるプランである。
特徴は、子どもたちに企業広告を印刷した製品を配布することによって、潜在的認知度の向上が期待できること。例えば、その製品を使っている子どもの親や知人が見たときなどに企業認知度の向上が狙える。企業側は貧困問題の解決に参加しているという広報・宣伝を行うことができ、さらに製品を広告媒体として配布できる点にもメリットがある。
私たちは子育てにかかる費用負担を軽減し、子どもたちがより豊かな生活、学業を行っていけるよう、支援し続けていくことを目標としている。
努力賞/地域密着型 学生による高齢者支援システム
私たちが提案する「地域密着型高齢者支援システム」は学生と高齢者と地域がつながるマッチングビジネスモデルである。高齢化社会の進展により、買い物難民や孤独死などの社会課題が増加し、事態は深刻化している。そこで、新しい時代における地域のあり方を見直し、高齢者と学生に焦点を当て、学生の隙間時間を利用し、地域の高齢者に寄り添い、日常生活を支援するサービスを考えた。
具体的には買い物や掃除、代筆など幅広いサービスを安全性の高い会員登録制のアプリを介して、お手伝いを求める高齢者に提供する。隙間時間でサービスを提供し、収入を得たい学生とマッチングさせるソーシャルシステムで地域の輪をつなぐ。このシステムを通じ、地域の活性化、社会との結びつき強化、安否確認など多くの効果が期待される。
私たちの最終目標は地域の学生と高齢者が交流を深め、学生・高齢者・地域の三者が助け合う共生社会を目指すことである。新しい時代の地域活性化に貢献していきたい。
審査講評/CVG北海道審査委員会委員長 鈴木 馨 氏「事業化へ深掘り・ブラッシュアップを」
今回もさまざまな社会課題について提案者の皆さんの独自の着想で解決を目指す内容の提案が多く、大変興味深く感じました。一方で、それぞれの理念やアイデアはとても素晴らしいと思うのですが、比較的容易に得られる情報を基にして課題を設定し、その解決に向けた仕組み作りの提案に留まってしまっている傾向も見られました。もう少し現場の状況を直接体感したり、詳細に調査したりするとともに、実際に事業化する場合の課題や事業の内容、どのようにして収益を得て、さらにどのように発展・展開していくかなどを俯瞰的かつ客観的視点で企画立案し、深掘りおよびブラッシュアップすることで、より良い提案になるものも多かったように感じます。
また、課題解決の手段として、提案者独自のモノを作ることが基盤になっていると、優位性の確保と事業内容の具体化がしやすくなると思います。実際、最優秀賞の提案ではホタテの貝殻から偏光子製造に利用可能な方解石を作ることが、優秀賞の提案では自動体外式除細動器(AED)に接続して通信機能とサイネージ機能を持つインターフェース回路を開発することが、提案の基本となっていました。
目に見えるモノを必要としないような仕組み作りと専用アプリ開発のような提案の場合であっても、既存のものに対するオリジナリティーや優位性をより明確にすることが必要だと思います。また、知財権などで優位性を確保することも重要ですが、そこに言及している提案が少なかったのは残念です。
最後に、北海道らしい課題を取り上げている場合はそれをどのように全国に展開するかという視点を盛り込んだり、全国に共通する課題の場合は最初から全国展開を想定しつつ、道内で開始するメリットなどを打ち出したりすると、優位性が明確になると考えられます。今後のさまざまな活動の参考になれば幸いです。